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南アジアで肥満と肥満関連疾患が急増、現地民の栄養状態、身体活動の状況、エネルギー代謝からわかったこと

肥満や肥満関連疾患が先進諸国よりも発展途上国で急増していることはよく知られている。より具体的には、世界の中でアジア諸国においてこの問題が顕著に認められる。そんなアジア諸国の中てもとくに肥満や肥満関連疾患の有病率が高い南アジアの研究者による、エネルギー代謝に関する総説論文が発表された。その要旨を紹介する。

南アジアで肥満と肥満関連疾患が急増、現地民の栄養状態、身体活動の状況、エネルギー代謝からわかったこと

イントロダクション

過体重や肥満は、先進国はもちろんだが、発展途上国でも世界的に増加している。世界保健機関(WHO)は1995年という早い段階で、発展途上国において低体重よりも過体重のほうがより大きな問題となりつつあることを報告していた。現在の予測では2030年までに、世界の過体重者は13億人、肥満者は5億7,300万人に上るだろうと推測され、かつ、その43%、および21%がアジア地域の人口で占めるとされている。

また、成人(20~79歳)の糖尿病の有病率は、2010年の6.4%から2030年には7.7%に増加し、4億人以上増加すると考えられており、その増加幅は先進国では20%であるのに対して、発展途上国では69%に達する。2030年までに糖尿病患者の約8割が発展途上国の人口で占められ、中でもインドと中国が最大に寄与する。

欧米諸国では糖尿病人口が徐々に増加したのとは異なり、アジアの糖尿病の蔓延は30年で3~5倍とより急速に進行しており、より若年者(20~64歳)の間で増え、かつBMIが極端に高いわけではないという特徴がある。

南アジアの肥満とメタボリックシンドローム

南アジア(インド亜大陸)における肥満および肥満関連疾患の有病率は、アジア人の間で最も高いと報告されている。インドでは成人の2型糖尿病患者が毎年180万人ずつ増加しており、このような現象は先住民か移民か、都市部か農村部かにかかわらず認められる。またメタボリックシンドロームは、インドの大都市の人口の約3分の1にみられる。

南アジア人は単に糖尿病にかかりやすいだけでなく、他の民族よりも発症が早く、心血管疾患合併症の罹患率が高い。南アジア人の心血管疾患リスクが高いことは、中性脂肪の上昇とHDL-Cの低下、およびLDL-Cの上昇に関連していることが明らかになっている。

インドでは、世界で最も高いレベルの2型糖尿病増加という問題を抱えているだけでなく、小児肥満の急速な増加にも直面している。これまでの研究は一貫して、南アジア系の子どもは他の民族グループと比較して、より若年で肥満、インスリン抵抗性、代謝障害を示すことを報告している。

南アジア人の糖尿病とメタボリックシンドロームの急速な増加の原因として、遺伝因子と環境因子の相互作用が想定されている。この状態は、病識の欠如などによる受療行動の制限、コミュニケーションの障壁による診断の遅れ、社会文化的および宗教的要因によって悪化する。

体組成の影響の人種差

南アジア人におけるメタボリックシンドロームの高い有病率は、アジア人が同じBMIを持つ白人よりも体脂肪率が高いことによって部分的に説明される。白人と同じBMIで、南アジアの男性の体脂肪率は4~7%高く、女性は8%高い。また身長で調整後も、除脂肪量(fat-free mass;FFM)や四肢骨格筋量が少ない。

このような不利な体組成は若年期から始まっている。FFMの人種差は、子宮内での成長率と妊娠期間の違いによってほぼ完全に説明可能であることが、インドと英国の白人とで比較した研究で報告されている。

BMIは、内臓脂肪や異所性脂肪を適切に反映していない可能性がある。一方、ウエスト周囲長(WC)、ヒップ周囲長(HC)、ウエスト/ヒップ比(WHR)、皮下脂肪厚などの、より簡便な人体測定指標が、南アジア人の肥満関連代謝性疾患のリスク評価に有用だ。

摂取エネルギー量と消費エネルギー量

発展途上国は食習慣の急速な変化を経験している。その変化は、南アジア人のメタボリックシンドロームの罹患率を増加させる可能性がある。南アジアの食事は、炭水化物の摂取量が多く(60~67%)、n-3系多価不飽和脂肪酸(n-3PUFA)や食物繊維の摂取量が少ない。これらは、高インスリン血症および無症候性慢性炎症と関連している。

先進国へ移住した南アジア出身の移民は、アテローム性動脈硬化症のリスクが高く、移住後の経過期間が長いほどアテローム性動脈硬化症を発症するリスクが上昇する。カナダ移住者対象の研究では、カナダでの滞在期間が長くなるにつれて、南アジア人はより積極的に現地の食生活に変えていくことが示されている。つまり、果物や野菜の消費量を増やす。ところが一方で、コンビニエンスフード、甘味飲料、肉の摂取量が増え、外食も頻繁に行うようになる。

また、南アジアからの移民は白人よりも身体活動レベルが低いと報告されている。これは青年期にも観察されている。身体活動が少ないほど肥満の負荷が大きくなり、反対に身体活動レベルが高いほど腹囲長は小さくなる。

南アジア人は心臓代謝性疾患のリスクが高いことを考慮した場合、150分/週の中程度の身体活動(moderate physical activity;MPA)という白人に対する推奨が、南アジア人にとっても十分であるのかという問題が浮かび上がる。南アジア人は、白人と同様の心臓代謝リスクプロファイルを生成するために、266分/週のMPAを必要とすることも報告されている。また、白人と比較して南アジア人は心肺フィットネスやVO2maxが低いことが知られているが、現在の身体活動に関する推奨にこのような人種差は考慮されていない。

基質利用率の人種差

除脂肪量(FFM)は安静時エネルギー消費量(resting energy expenditure;REE)または安静時代謝率(resting metabolic rate;RMR)の主要な決定要因であるが、アジア人はFFMが低いため、白人よりもRMRおよびSMRが低い。この違いは調整因子として体組成を加えることで消失する。

不利な体組成は、消費エネルギー量の少なさや呼吸商(respiratory quotient;RQ)が高いことと関連している。両者は原因であり結果である可能性がある。ただし、体組成の違いにもかかわらず、同じエネルギーバランスの食事を摂取した場合の24時間の脂質酸化は、アジア人と白人で有意差がないという報告もある。外因性の脂質の多くは食後に貯蓄へと回されるが、10%程度の限られた範囲は直接酸化される。その量は、アジア人11.7%、白人10.4%でほぼ同等だったという。ただしこれとは異なる結果を報告した研究もある。

本論文の著者らの研究では、南アジア人でブドウ糖は炭水化物の摂取量に一致して酸化されるが、脂質についてはエネルギー要件が既に満たされているため酸化される割合が少なく、結果として体脂肪バランスが正となっていることが示唆されたという。

結論:南アジア人はより多くの身体活動が必要か

このほか、座位行動の多い生活での高脂肪食による分子適応の人種差などについて考察を加えたうえで、結論が以下のようにまとめられている。

南アジア人の体組成は健康上不利であり、これはエネルギー代謝が低いことの結果または原因である可能性がある。因果関係は縦断研究での検証が必要だろう。

南アジア人は不健康なライフスタイルにさらされると肥満になりやすい。肥満という課題への対処法として身体活動が処方されるが、南アジア人には白人よりも長時間またはより高強度の身体活動のレジメンが推奨されるべきかもしれない。

文献情報

原題のタイトルは、「Energy Metabolism in Relation to Diet and Physical Activity: A South Asian Perspective」。〔Nutrients. 2021 Oct 25;13(11):3776〕
原文はこちら(MDPI)

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