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スポーツクラブに通うことで小学生の視力低下が抑制される 眼鏡使用率での検討

小学生が習い事に通う頻度と、眼鏡使用率との関連を調べた調査から、スポーツクラブ通いによる視力低下に対する保護効果の可能性が浮かび上がった。早稲田大学先端生命医科学センターの柴田重信氏らの研究結果であり、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に論文が掲載された。

スポーツクラブに通うことで小学生の視力低下が抑制される 眼鏡使用率での検討

塾通いによる視力低下のリスクを、スポーツクラブ通いで防げるか?

国内では、文部科学省の「学校保健統計」などから、小学生の近視が年々増加していることが報告されている。例えば令和2年度の同調査では、6歳では24.2%と約4人に1人が視力1.0未満であり、12歳ではその割合が55.2%と2人に1人以上に上ることが示されている。

参考情報
令和2年度 学校保健統計 5歳〜17歳の疾病、視力、むし歯の状況

この結果からもわかるように、近視は学齢期に発症することが多い。そして成人後の新規発症は少ないことから、学齢期の近視の発症や進行を防ぐことが、その後の長い人生の視機能にとって重要と考えられる。

近視の発症には遺伝要因と環境要因があり、後者に該当するものとして、学習やゲーム、パソコンなどの近見作業が挙げられる。それに対して、スポーツや野外活動などに関しては、近視リスクを抑制する可能性のあることが報告されている。

では、勉強による視力低下のリスクを、スポーツで抑制できるだろうか? このような視点での研究は、これまで行われていない。柴田氏らはこの疑問を明らかにするため、以下の検討を行った。

眼鏡の使用は男児より女児に多く、高学年ほど多い

解析には、文部科学省「スーパー食育スクール事業」に指定されている、東京都港区内の公立小学校18校の生徒を対象に行われた調査結果を用いた。港区は学習塾やスポーツクラブに通っている小学生の割合が他地域に比較して高いことが知られている。

2018~19年に調査が実施され、6~12歳の生徒7,419人が回答。学習塾、スポーツクラブ、カルチャースクール、その他の習い事から、通っているものを複数選択可で回答してもらい、カルチャースクール、またはその他の習い事のみを選択した生徒を除外し、残った3,522人(47.47%)を解析対象とした。

その結果、学習塾のみに通っている生徒が785人、スポーツクラブのみに通っている生徒が765人、両者に通っている生徒が1,506人であり、習い事をしていない生徒が466人となった。

視力の低下は、眼鏡の使用の有無で把握した。眼鏡をかけている生徒は738人(21.0%)であり、性別では男児が19.6%、女児が23.0%であり、女児に多かった。また、学年が上がるほど眼鏡を使用している生徒の割合が高くなり、眼鏡を使用していない生徒は平均9.01歳であるのに対して、眼鏡を使用している生徒では平均10.4歳だった。

眼鏡使用者は学習塾に通う生徒に多く、スポーツクラブに通う生徒には少ない

多変量解析にて性別と学年を調整後、習い事をしていない生徒を基準とする「眼鏡を使用していない」に該当するオッズ比を検討。すると、学習塾に通っている生徒は眼鏡を使用していない生徒が有意に少なく、反対にスポーツクラブに通っている生徒は眼鏡を使用していない生徒が有意に多いという結果が得られた。

具体的には、学習塾のみに通っている生徒ではOR0.67(95%CI;0.49~0.90)、スポーツクラブのみに通っている生徒はOR1.45(同1.03~2.04)だった。なお、学習塾とスポーツクラブの両方に通っている生徒はOR0.85(同0.64~1.14)であり、習い事をしていない生徒と有意差がなかった。

スポーツクラブ通いによって、塾通いによる視力低下のリスクが相殺される

続いて、学習塾通いによる視力低下のリスクに対する、スポーツ通いによる保護効果を検証するため、学習塾とスポーツクラブへ通う頻度を、それぞれ週に0回(通っていない)~7回(毎日通う)に分類したうえで、その頻度と「眼鏡を使用している」生徒の割合との関連を検討した。

その結果、スポーツクラブに通っていない生徒では、学習塾に通っていない場合の眼鏡使用率は17.6%、週に1回学習塾に通っている場合は11.8%、週に2回塾に通っている場合は16.4%、3回塾に通っている場合は39.2%、4回通っている場合は53.2%、5回の場合は49.4%、6回では50.0%であり、毎日塾通いをしている生徒の眼鏡使用率は53.1%であって、塾通いの頻度が高いほど眼鏡使用率が高い傾向がみられた。

それに対して、塾通いの頻度が週3~5回の生徒では、スポーツクラブへ通う頻度が高いことが眼鏡使用率を押し下げるという関係が認められた。例えば、塾通いの頻度が週3回の生徒で、スポーツクラブに通っていない場合の眼鏡使用率は前述のとおり39.2%だが、スポーツクラブに週1回通っている場合は26.9%(p<0.05)、週に2回通っている場合は20.2%(p<0.01)だった。同様の関係は、塾通いの頻度が週に4回、または5回の生徒でも認められ、スポーツクラブに週に数回通っている場合は、眼鏡使用率が有意に低かった。

なお、学習塾へ通う頻度が週2回以下の場合は、眼鏡使用率自体が高くないために、スポーツクラブへ通う頻度が高いことによる、さらなる眼鏡使用率の有意な低下はみられなかった。また、塾通いの頻度が週に6回以上の生徒では、スポーツクラブに通う頻度がわずかであるため、やはり統計的に有意な関連はみられなかった。

子どもたちの視力を守るためにもスポーツ環境の整備が求められる

スポーツクラブ通いがどのように視力に対する保護効果をもたらすのかという点について著者らは、日光が網膜を刺激しドパミンを放出して近視の発症を遅らせるという、近年報告された知見を紹介している。その一方で本研究には、スポーツクラブでの活動が屋外/屋内のいずれで行われているかを評価していないこと、港区内の小学校のみで行われた調査結果であることなどの限界があることに触れ、結果の一般化には他地域での追試が必要としている。

論文では、それらの考察のうえで、「小学生が塾だけでなくスポーツクラブにも通うことで、視力の低下を防ぐことができる可能性があるのではないか。保護者や医療提供者、および政策立案者は、子どもたちの視力低下リスクを抑制するという目的からも、スポーツ環境の整備に配慮すべき」と結論がまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Attending a Sports Club Can Help Prevent Visual Impairment Caused by Cram School in Elementary School Children in Japan」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 Nov 26;18(23):12440〕
原文はこちら(MDPI)

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