ブラックコーヒーを習慣的に飲みたくなるのは遺伝子のせい? カフェインの代謝速度が関連する可能性
ブラックコーヒー好きな人は、その苦味が好きだから飲むのではなく、遺伝的にカフェインの代謝が速いためであるとする研究結果が発表された。米ノースウェスタン大学の研究によるもので、結果が「Scientific Reports」に掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。研究によると、ブラックコーヒーが好きな人はその遺伝子変異のために、チョコレートもまろやかなミルクチョコレートではなく、苦味の強いダークチョコレートも好む傾向があるという。
コーヒー摂取による健康への影響に関する研究は、疫学研究中心に進められてきた
コーヒーやお茶、あるいはカフェイン含有食品の摂取と健康状態との間に有意な関連があるとする研究は、これまでに数多く発表されてきている。例えばコーヒーに関しては、パーキンソン病、心血管疾患、2型糖尿病、いくつかの種類の癌のリスクを下げ、ダークチョコレートは心疾患のリスク低下と関連していることなどが報告されている。
ただしそれらの研究の大半は疫学研究として実施され、因果関係にまで踏み込んで考察可能なデザインでは行われておらず、また、コーヒーやお茶がとのように健康に影響を与えるのかと言うメカニズムの解明はあまり進んでいない。ゲノムワイド関連解析(genome wide association study;GWAS)を用いた研究が既に行われており、味覚が遺伝子により左右されることが明らかになっているが、その研究ではコーヒーをブラックで飲むか、ミルクや砂糖を加えて飲むかという違いが考慮されていなかった。
今回発表された研究は、英国で中高年者対象に行われている遺伝子情報も解析可能な大規模前向きコホート研究「UK Biobank;UKB」と、米国の女性看護師対象大規模コホート研究「Nurses' Health Study;NHS」、および、食事と心疾患や癌との関連を検討するためのコホート研究「Health Professionals Follow-up study;HPFS」のデータを用いて行われた。遺伝子変異による味覚との関連は、ミルクや砂糖の影響を受けないブラックコーヒーで、より強固に認められるとの仮説のもと、本研究が実施された。
3つのコホート研究でみられる、コーヒー摂取習慣のある人の傾向
結果について、まず各コホート参加者の傾向をみると、コーヒー摂取習慣のある人は摂取習慣のない人よりも1~2歳高齢で、男性が多く、アルコール摂取量およびビールの摂取量が多いという差が認められた。UKBとNHSでは、コーヒー摂取習慣のある人は現喫煙者である割合が高かった。反対に、HPFSではコーヒー摂取習慣のない人のほうが現喫煙者が多かった。
また、米国のコホート参加者は英国のUKBの参加者よりも、コーヒーにミルクを追加する割合が低く、ブラックで飲む人は米国のコホートでより多くみられた。
一方、お茶を習慣的に飲む人は、女性で非喫煙者が多く、アルコール摂取量およびビールの摂取量が少なかった。
カフェイン代謝が速いために、より多く飲みたくなる
次に、遺伝子変異との関連を解析した結果、ブラックコーヒーを好んで飲んでいる人は、それらの人たちが味を愛しているから飲んでいるというわけではないことが明らかになった。ブラックコーヒー好きの人はむしろ、カフェインに期待される精神的な覚醒作用と苦味を関連付けているために、ブラックコーヒーを好んで飲んでいると推察された。具体的には、ブラックコーヒー好きの人に多い遺伝子変異は、カフェイン代謝速度の速さと関連していて、味覚には関連していなかった。
この結果から研究者らは、「ブラックコーヒー好きの人はカフェインをほかの人よりも速く代謝するので、刺激効果もより速く消失してしまう。そのために、彼らはより多くブラックコーヒーを飲む必要が生ずる」とまとめている。また研究者らは考察として、「我々の解釈では、彼らはカフェインの自然な苦味を精神刺激効果と同一視している。彼らは苦味をカフェイン摂取によるブースト作用と関連付けて学習し、その学習した効果を経験的に確認している。つまり、ブラックコーヒー好きの人がカフェインについて考えるとき、彼らは苦い味を想定する。そのために、彼らはブラックコーヒーと同様に、ダークチョコレートも好む」と述べている。
コーヒー摂取による健康への影響は、ブラックかミルクを入れるかで異なる
本研究に関連して研究氏らは、「ブラックコーヒーを飲むのとクリームや砂糖を入れたコーヒーを飲むのとでは、健康への影響が大きく異なる。また、ブラックコーヒー好きな人は、クリームや砂糖入りコーヒーが好きな人との間に、遺伝的な差異も存在する」と述べている。
これらの考察の結論は、以下のように述べられている。
「要約すると、我々の遺伝子解析の結果は、カフェインの精神刺激効果がカフェインの苦味を上回っていることを示唆しており、カフェインの好みはカフェインの生理学的効果の遺伝的差異に基づいている。同様に、カフェインの生理学的悪影響に対する感受性が高いことは、コーヒーの味を避ける行動に関連していた。味覚の好みと生理学的なカフェインの効果の関連は複雑であり、さらなる研究に値する」。
なお、カフェインの適切な摂取量については、大学発のプレスリリースの中で、「ブラックコーヒー摂取による健康上のメリットは、1日2~3杯程度の摂取に基づいて評価されている」と記している。
プレスリリース
Why you drink black coffee: It’s in your genes(ノースウェスタン大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Genetic determinants of liking and intake of coffee and other bitter foods and beverages」。〔Sci Rep. 2021 Dec 13;11(1):23845〕
原文はこちら(Springer Nature)