抗癌剤の副作用に苦しむ患者さんに栄養士ができること 東北大学病院の小林実氏インタビューを「あじこらぼ」で公開
小林 実 氏(東北大学病院総合外科)
医学の進歩とともに、栄養士や管理栄養士の活躍の場が拡大している
栄養専門職者の職域は実に幅広い。しかも、医学・医療の進歩とともに、栄養専門職者が職能を発揮すべき対象は、さらに広がりを見せている。例えば、以前は専ら医師のみが関与していた治療に、「栄養」という介入の有用性が示されることがある。そのようなエビデンスを生かし、栄養士や管理栄養士が介入方法の提案をすることで救われる患者さんも少なくない。
最近もそのような研究結果が報告された。東北大学病院総合外科の小林実氏らの研究によって、抗癌剤の副作用が栄養介入で軽減される可能性が示されたのだ。より具体的には、大腸癌に対する標準的な治療である、複数の抗癌剤の併用療法(mFOLFOX6療法)によるという治療に伴う末梢神経障害を、シスチンとテアニンというアミノ酸の経口摂取により有意に軽減可能とするエビデンスだ。
副作用のために抗癌剤の用量を加減すると、治療効果への影響が懸念される。なにより、末梢神経障害は患者さんに‘辛さ’を強いる。小林氏によると近年、抗癌剤治療は外来で行うことが多くなり、患者さんが副作用のために困っている場面を、医師が実際に目にする機会が減っているという。
小林氏は入院中の患者さんを診てきた経験から、mFOLFOX6療法による末梢神経障害に対する対策の必要性を痛感。既報文献にあたり、抗酸化作用物質であるグルタチオンの経静脈的投与の試みがなされていることを把握。ただし、結果に一貫性がみられなかった。
しかし、グルタチオンはアミノ酸であるシスチンとテアニンにより合成が促進される。シスチンとテアニンであれば経口摂取が可能であり、グルタチオンの血中濃度も静注より長く維持される可能性がある。このような背景のもと、同氏は臨床研究を実施し、その仮説が正しい可能性を報告した。
研究者の人柄にも迫るインタビューを「あじこらぼ」で公開開始
小林氏はこの研究で、「日本臨床栄養代謝学会 小越章平記念 Best Paper in The Year 2020」、「第21回日本癌治療学会 研究奨励賞」などの複数の賞を受賞している。それだけインパクトの大きい研究成果ということだろう。同氏が本研究を行ったきっかけは、既に述べたように、副作用で困っている患者さんの実態を間近に見ていたからだ。
「患者さんは手袋をされたり、さまざまな工夫をされていて、なんとか抗がん剤治療を続けようとされることが少なくありません。辛そうにされているので、『お薬を休みましょうか?』と提案しても、『いえ、続けます』とおっしゃる方も多くおられます。やはり命がかかっているという思いが強いのだと思います」。
これは、味の素株式会社の管理栄養士・栄養士向け情報サイト「あじこらぼ」での特別インタビューで同氏が語った言葉だ。インタビュー記事は、このほど公開された。同氏の人となりに迫る記事内容のほんの一部を紹介する。
管理栄養士・栄養士のアイデアに期待
小林氏は、高校を卒業後、一度は文系の学部に進学したそうだ。しかし、人とかかわる仕事がしたいという思いが募り始め、一念発起して医学部に入り直したという。外科医になったのは、「全身を診ることができることに興味があった」からとのこと。確かに日本の外科医は、診断から手術、術後管理、ケースによっては看取りまで、一貫して患者さんやご家族と向き合うことが多い。
さらに、同氏は外科医として患者さんの命を救うだけでなく、日ごろから患者さんのQOLにも注視して診療にあたっている。また、院内NSTの一員として、管理栄養士・栄養士とのつながりも大切にしているという。
しかし、管理栄養士・栄養士の立場では、業務中にドクターに話しかけることに、多少なりとも躊躇が伴うのではないだろうか。小林氏はそのような気兼ねが不要であり、医学の進歩の妨げにもなりかねないことを指摘する。
「癌の予防や臨床には、まだ明らかにされていない、多くの有用な栄養学的アプローチがあると思います。癌化学療法の薬剤自体の研究であれば医師や薬剤師の領域かもしれませんが、有害事象の栄養面からの抑制や、パフォーマンスレベルを維持・向上させるための栄養介入といったことは、管理栄養士・栄養士のみなさんが専門家です」。
同氏は、栄養専門職者へ向けて、「いろいろアイデアを提案していただきたい」と期待を述べている。インタビューの詳細をぜひご覧いただきたい。
栄養士さん・管理栄養士さん向け情報サイト「あじこらぼ」
味の素グループ「Ajicollab. -あじこらぼ-」は、栄養士さんや管理栄養士さんの学びをサポートし、双方向の情報コミュニケーションの場を提供します。