サプリメントの適切な利用やドーピング防止の教育介入、その方法や効果を探る
サプリメントの適切な利用やドーピング行為の防止のために、さまざまな教育的介入が行われている。その介入方法や介入効果をナラティブレビューとしてまとめた論文が報告された。多くの研究が知識の改善を認めたと報告しているが、評価は自己申告に基づくものが大半であり、この領域の研究の難しさが浮き彫りになったと述べられている。
サプリ利用やドーピング予防教育の既報研究を総括
サプリメントがますます広く用いられるようになってきている。現在では本来の語意である、栄養素の不足を「補足する」というためではなく、栄養素が不足していない人にも利用されており、とくにアスリートや習慣的な身体活動量の多い人で、その利用率が高い。
サプリメントの利用を巡っては、利用者の多くが信頼性の高い情報に基づいて選択しているとは言えない状況が指摘されている。また、アスリートの場合は、サプリの利用が将来のドーピング行為につながるのではないかと懸念する声もある。その一方で、サプリの適切な使用やドーピングの予防のための教育介入も行われてきており、一定の効果を示した報告が複数存在する。ただし、それらの報告を対象とした文献レビューはこれまでに行われていないことから、本論文の著者らは、既報文献の総括としてナラティブレビューを実施した。
抽出した文献は25件
文献検索には、PubMed、Scopus、CINAHL、PsycInfo、Google Scholarを用いた。各文献データベースに2021年7月までに公開された論文を対象として、「ドーピング」、「サプリメント」、「パフォーマンス向上」、「ステロイド」、「教育」、「プログラム」、「介入」、「ワークショップ」、「セミナー」、「キャンペーン」といったキーワードで検索。教育介入の方法と効果について報告していた25件を抽出した。
これら25件の研究が行われた国は、米国が7件、英国5件、ギリシャ3件、イランとイタリアが各2件で、その他、日本、スペイン、スウェーデン、ドイツ、マレーシア、オーストラリア、カナダ、ノルウェーが各1件。サンプルサイズは35~2万800の範囲で、対象者は12歳以上であり、大半が未成年から若年成人アスリートを対象としていた。
教育介入の手段や担当者の傾向は?
介入の手段により効果に相違
教育介入の方法として講義スタイルが最も多く採用されていた。そのほかに、グループディスカッション、印刷物の配布、ロールプレイなどが用いられていた。
また、対面式のもの、オンラインで行うもの、対面とオンラインのハイブリッドという3パターンに分けられた。このうち、オンラインのみで教育介入を行った研究では、有意な教育効果が見られないことを報告していた。また、3パターンでの介入を比較した研究では、対面での教育を含む場合でのみ、有意な教育効果が得られることを見いだしていた。
カリキュラムの内容と教育担当者
教育内容は、サプリメントの品質や安全性、医薬品との相互作用、スポーツ栄養学、ドーピングの物質と方法、ドーピング防止規則に違反した場合の罰則、過去の著明なドーピング事件などが多かった。また、メディアのメッセージが機能不全状態にある可能性についても語られていた。
教育担当者は、体育教師、コーチやチームのリーダー、陸上競技アスリート、医療従事者などが多かった。複数の専門家の組み合わせによって教育介入を行った研究も、複数存在した。それらの研究には例えば、コミュニケーションの専門家、薬理学専門家、ハイレベルアスリート、スポーツ心理学者などが参画していた。
この結果に関連して本論文の著者は、介入を行う教育担当者が、それぞれの領域における専門家ではあっても、必ずしもサプリやドーピングについて教育を行うことを目的としたトレーニングがなされていないという実態に言及し、「ある領域に精通しているからといって、多数の対象者に情報が伝わるように解説する介入プロバイダーとして、最適とは言えないのではないか」との問題を提起している。
多くの研究で教育介入の有効性を報告。ただし自己評価による判定がほとんど
教育介入の効果の測定は、知識量の変化を評価する手法で行った研究がほとんどだった。報告されていた研究のすべてにおいて、教育介入は知識量を向上させるうえで有効であると結論付けていた。
知識が増えることは確実だが、それが態度や姿勢の変化につながるか?
では、知識量の増加がドーピングに対する態度や姿勢の変化につながるのだろうか?
この点に関しては、介入直後は変化が認められるものの、数カ月後にはベースラインの状態に戻ってしまうという報告や、中には介入後に逆にドーピングリスクの上昇を示唆する結果が得られたとする「驚くべき」報告もみられたという。教育が逆効果となるケースがあることは、教育心理学の領域で多くの研究がなされているが、ドーピング教育でもそのリスクが存在する可能性も考えられる。
これら以外に本論文の著者は、介入による態度や姿勢の変化の評価は、自己申告に依らざるを得ないというこの領域の研究に共通するリミテーションに触れたうえで、結論を「教育介入によって、とくに知識の向上においては有望な結果をもたらすことが確認された。ただし、自己申告の結果指標に大きく依存しているため、結果の妥当性は制限される」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Education Interventions to Improve Knowledge, Beliefs, Intentions and Practices with Respect to Dietary Supplements and Doping Substances: A Narrative Review」。〔Nutrients. 2021 Nov 3;13(11):3935〕
原文はこちら(MDPI)