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持久系アスリートが訴える競技中の消化器症状、原因の4割は競技前のストレスや不安で説明可能

ウルトラマラソンのランナーを対象とする検討から、競技中に発生する消化器症状の約4割は、競技前のストレスや不安で説明可能であるとする研究結果が報告された。著者らは、メンタル面へのアプローチが消化器症状の抑制につながる可能性があるとする一方、ストレスや不安で説明できない消化器症状には、栄養を含む病態生理学的な検討が必要と述べている。

持久系アスリートが訴える競技中の消化器症状、原因の4割は競技前のストレスや不安で説明可能

競技中の消化器症状が成績を大きく左右する

ウルトラマラソンでは、最大でランナーの96%が競技中に消化器症状を来すとの報告もある。消化器症状の発生は競技成績を左右することから、その抑制戦略が研究されている。

これまでのところ、スポーツに伴う消化器症状の発生は、運動強度の強さや競技時間の長さが関連すること、および、サイクリングなどに比較しランニングで好発することが明らかになっており、リスク因子としては、栄養素摂取状況、体重の増加、トレーニングおよび競技経験が少ないこと、高齢、女性、以前の競技中の消化器症状に加え、ストレスや不安などの心理状態も指摘されている。

競技3日前から競技後のメンタル状態や消化器症状、排便状況を把握

この研究は、オーストラリアで2020年に行われた56kmウルトラマラソンの参加者を対象に実施された。大会前にFacebookなどのSNSを通じて研究参加者を募集。適格条件は、18歳以上であり、セリアック病、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群などの消化器疾患がなく、消化器の手術歴がないこと。基準を満たした46名が競技に参加。うち2人は途中棄権し、データ解析対象は44名(男性26名、女性18名)だった。

44名の平均年齢は40.3歳、BMI23.6、ランニング経験5.1年、レーニング時間4.9時間/週。

使用した評価指標

大会3日前から1日1回、メンタルヘルス状態、消化器症状、排便状況をオンラインでレポートしてもらい、大会当日はレーススタートの30~60分のメンタルヘルス状態、消化器症状を、およびレース終了後に消化器症状をレポートしてもらった。

不安レベルの評価には「State Anxiety Inventory-2(CSAI-2)」という指標を用いた。これは9項目からなり、それぞれ4点のリッカートスコアで回答する。ストレスレベルの評価には「Short Recovery and Stress Scale(SRSS)」という指標を用いた。

消化器症状は14項目をそれぞれ11点のリッカートスコアで回答してもらう指標(最小値は0、最大値は140)を用いた。排便状況の評価には「ブリストル便性状スケール」を用いた。

消化器症状とストレスや不安などとの有意な関連がみつかる

男性はレース前の消化器症状が女性より少ないが、レース中に増える

解析対象者の記録は平均388.0分だった。

発生した消化器症状の数は、レース前が平均1.4個、レース中は3.2個だった。レース中にみられた消化器症状としては鼓腸が多く、解析対象者の61%が報告した。次いで、げっぷが59%の解析対象者から報告されていた。その他は、腹痛や排便を要するなど。消化器症状の重症度は、レース前が平均4.2点、レース中は11.2点だった。

性別で比較すると、男性・女性ともにレース前よりレース中の症状の数や重症度が高まっていたが、その変化は女性より男性でより顕著だった。例えば症状の数は、女性はレース前が1.7個、レース中は2.7個であるのに対して、男性は同順に1.1個、3.6個だった。重症度も女性は5.7点から9.2点の変化であるのに対して、男性は3.1点から12.5点へと上昇していた。

なお、レース前およびレース中の消化器症状の数や重症度を男性と女性で比較した場合、有意差はなかった。

消化器症状とメンタル状態が有意に相関

レース中の消化器症状は、大会3日前からのレーススタート前のストレスレベル(スピアマンの順位係数〈rs〉=0.500,p=0.001)や不安(rs=0.408,p=0.006)と有意に相関し、不安と消化器症状の関連はレース前日とスタート直前の評価結果との相関が最も強かった(いずれもrs>0.400,p<0.05)。

回帰分析から、レース中の消化器症状の数の36%、消化器症状重症度の40%を、レース前3日間からレース当日のストレスや不安、体重により説明可能であることがわかった。

この研究結果の応用

これらの結果を基に著者らは、持久系スポーツアスリートの消化器症状抑制のため、以下の推奨を提言している。

  • 大会前の3日間、信頼性が確認されている評価指標を用いてアスリートのストレス、不安、消化器症状をモニタリングする。
  • 上記の結果、消化器症状が不安やストレスレベルの上昇と並行して発生していると判断される場合は、過度のストレスや不安を軽減するための戦略を検討する。
  • 一方、ストレスや不安レベルの上昇に連動せずに消化器症状が発生しているか、過去にそのような傾向がみられた場合には、病態生理学要因や食事摂取状況、および運動そのものによるストレスに関連する因子を検討する。

文献情報

原題のタイトルは、「The Relationship Between Psychological Stress and Anxiety with Gastrointestinal Symptoms Before and During a 56 km Ultramarathon Running Race」。〔Sports Med Open. 2021 Dec 11;7(1):93〕
原文はこちら(Springer Nature)

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