朝食の欠食が過敏性腸症候群の有病率と相関 中国の女子看護大学生での横断的研究
過敏性腸症候群の有病率が朝食の欠食率と正相関するというデータが、中国から報告された。女子看護大学生を対象とする研究の結果であり、アスリートを対象としたものではないが、朝食の重要性を示す知見として紹介する。
朝食の摂食頻度と過敏性腸症候群の有病率に関連はあるか?
過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome;IBS)は、排便の頻度や便の形状の変化に伴う腹部の不快感を特徴とする機能性消化管疾患の一つ。その有病率は、世界的なメタ解析から11.0%と報告されており、さらに思春期~若年期では有病率がより高いことが知られている。
IBSそのものが生命予後に影響を及ぼす可能性はないものの、QOLを著しく低下させる。また、アスリートはIBSの有病率が高いことを示唆する報告もある。その背景には、アスリートはIBSの好発年齢であることが多いうえに、運動誘発性のストレスや競技会参加の緊張などの関与が考えられている。IBSのあるアスリートは、その症状のためにパフォーマンスを十分に発揮できないことがある。
一方、朝食の摂取は、一日の生活リズムにとって重要であるとされる。メタ解析からは、朝食欠食者は総摂取エネルギー量、食物繊維、果物の摂取量が少なく、反対に脂質の摂取量が多いことが示されている。食物繊維には結腸粘膜を刺激し、腸管蠕動とそれによる糞便量を増加させる。よって朝食欠食により食物繊維の摂取量が減ることは、快適な排便を損う因子と考えられる。ただし、朝食の摂取習慣とIBSの有病率との関連を検証した報告は多くはない。
アンケートの対象と方法
この研究は、中国南西部に位置する重慶にある看護大学で実施された。これまでの疫学調査から、中国南部の大学生はIBSの有病率が高いことが示唆されており、朝食の欠食とIBSの有病率との関連を検出するという目的において、望ましい環境と考えられた。
同大学の新入生を対象とする前向きコホート研究「CNVCPFH研究」の一部として、女子看護学生のみを対象とする横断研究として実施された。CNVCPFH研究の参加者は、1,094人で、このうち男子学生および本研究のアンケートに回答しなかった者を除外し、706人の回答を解析対象とした。
朝食の摂取状況については、「週に何回朝食を食べるか?」という質問の回答に基づき、0~3回/週、4〜6回/週、および毎日の3群に分けた。IBSの評価は、2006年のローマIII基準に基づいて判定した。
またIBSの有病率に関連し得る共変量として、年齢、BMI、単子(一人っ子)か否か、喫煙・飲酒習慣、両親の教育歴・結婚状況のほか、20項目の質問から成るうつレベルの自己評価尺度(self-rating depression scale;SDS)を評価した。SDSのスコアは20~80点の範囲であり、50点以上の場合を「うつ症状あり」と判定した。
朝食を毎日食べる学生はIBS有病率が有意に低い
全体の23.7%が単子であり、両親が離婚または死別等により一人親の学生は18.5%だった。また、父親の教育歴が高校以上の割合は93.3%、母親は96.3%だった。
朝食摂取頻度が低い学生は、うつのオッズ比が高い
アンケートの結果、朝食摂取頻度は0~3回/週が135人(19.1%)、4〜6回/週が256人(36.2%)、毎日が315人(44.6%)であった。3群を比較すると、年齢、BMI、単子の割合、飲酒習慣、両親の教育歴・婚姻状況に有意差はみられなかった。
それに対して、現喫煙者の割合は、朝食摂取頻度が0~3回/週の群は9.6%、4〜6回/週の群は5.9%、毎日の群は2.5%であり、朝食摂取頻度が低い群ほど喫煙者が多いという群間差が存在した(p=0.006)。また、SDSスコア50点以上の割合も、同順に19.3%、12.1%、5.7%と、朝食摂取頻度が低い群ほどうつ状態にある学生が多いという群間差が存在した(p<0.001)。
全体のIBS有病率は17.3%
IBS有病率は17.3%だった。朝食摂取頻度との関連をみると、摂取頻度が高い群ほどIBS有病率が低いという有意な傾向性が認められた(傾向性p=0.001)。この関係は、年齢(18歳未満/以上)で調整しても変わらず(傾向性p=0.001)、さらに、すべての共変量(単子か否か、BMI、飲酒・喫煙習慣、両親の教育歴・婚姻状況)を調整後も有意性が保たれていた(傾向性p=0.002)。
IBSの有病率を朝食摂取頻度が0~3回/週の群を基準として比較すると、他群のオッズ比は以下のとおり、朝食摂取頻度が4〜6回/週の群はOR0.96(95%CI;0.58~1.60)、毎日の群はOR0.45(95%CI;0.26~0.78)。
この結果から著者らは、「潜在的な交絡因子を調整した後、習慣的な朝食の摂取とIBSのリスクの低さとの間に有意な関係があることが確認された」と結論づけている。
この関連の背景として、「朝食の摂取頻度とIBSのリスクとの関連の正確な病因は依然不明だが、食物繊維が豊富な食品の摂取がこの関連の仲介役を演じる可能性がある。朝食を習慣的に摂取する人は通常、野菜、果物、穀物などの食物繊維が豊富な食品を摂取しており、食物繊維とそれが発酵して生成される短鎖脂肪酸は、さまざまな疾患との関連があることが明らかにされつつある。また不溶性食物繊維は結腸粘膜を刺激し、腸管の蠕動を促進して、糞便量を増加させる可能性がある。さらに可溶性食物繊維は大腸内のバクテリアによって発酵され、腸管環境を整える。よって習慣的な朝食の摂取は、食物繊維の摂取量が増えることを介して、IBSを改善する可能性がある」と述べている。
加えて、朝食の摂取頻度がビタミンDの摂取量と相関し、ビタミンDがIBSリスクを低下させるという既報研究があることから、その経路の影響も考えられるという。ただし、「これらのメカニズムの確認には、今後のさらなる研究が必要」としている。
文献情報
原題のタイトルは、「Association between breakfast consumption frequency and the risk of irritable bowel syndrome among Chinese female college students: A cross-sectional study」。〔Medicine (Baltimore). 2021 Oct 15;100(41):e27541〕
原文はこちら(Wolters Kluwer Health)