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1日1杯の牛乳が脳卒中を予防する? 岩手県北地域コホート研究10年の追跡からの知見

牛乳摂取頻度と脳卒中発症リスクとの間に有意な関連があることがわかった。岩手医科大学衛生学公衆衛生学講座の研究グループが、岩手県北地域コホート研究の10年間の追跡データを解析した結果であり、「Nutrients」に論文が掲載されるとともに同大学のサイトにニュースリリースが掲載された。1日コップ1杯程度の牛乳摂取が、女性の脳卒中発症を抑制する可能性が示された。

1日1杯の牛乳が脳卒中を予防する? 岩手県北地域コホート研究10年の追跡からの知見

研究の背景:脳卒中の発症と牛乳摂取の関連は不明だった

牛乳・乳製品は洋食の主要な構成要素であり、欧米人の牛乳摂取による健康への影響については数多く報告されている。一方、日本人の牛乳摂取習慣は、第二次世界大戦後に学校給食への導入を機に全国に広まった比較的新しい食習慣であり、現在もなお日本人成人の牛乳摂取量は欧米人と比べて少ない。また、日本人と欧米人の疾患構造を比較すると、欧米人では心筋梗塞リスクが高いのに対し、日本人では脳卒中リスクが高いことが知られている。

これまで日本人を対象とした研究において、脳卒中が原因で死亡するリスクに牛乳摂取が及ぼす影響については報告されているが、脳卒中発症に及ぼす影響については報告されていない。そこで、牛乳の摂取量が少なく脳卒中の発症が多い日本人集団において、牛乳摂取と脳卒中発症リスクとの関連を明らかにすることを目的として、岩手県北地域コホート研究※1の10年間の追跡データを用いた本研究が行われた。

※1 岩手県北地域コホート研究:コホートとは特定の人の集団を示す学術用語で、コホート研究とは、特定の人の集団(コホート)を長期に追跡し、病気の原因や危険因子を明らかにする研究のこと。岩手県北地域コホート研究は、脳卒中や心疾患、要介護状態の危険因子を明らかにすることを目的とし、岩手県の二戸、久慈、宮古地域の市町村集団健診を受診した方のうち、本研究への参加に同意した人を対象として、平成14年(2002年)から現在まで継続実施されているコホート研究。

研究の成果:女性では最大47%のリスク低下

本研究では、岩手県北地域コホート研究に参加した1万4,111人に、食物摂取頻度調査法※2を用いて、コップ1杯の牛乳を飲む頻度を回答してもらった。回答結果に基づいて、摂取量が「週2杯未満」、「週2杯以上7杯未満」、「週7杯以上12杯未満」「週12杯以上」の4群に分類。脳卒中発症は、岩手県地域脳卒中登録事業※3のデータと研究参加者のデータを照合することで確認した。

※2 食物摂取頻度調査法:ふだんの食事状況や栄養摂取状況を把握することを目的として、一定数の食品の摂取頻度を回答してもらう調査法。本研究では、58項目の食品の摂取頻度をアンケート形式で回答してもらう簡易型自記式食事歴法質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire;BDHQ)を用いた。
※3 岩手県地域脳卒中登録事業:脳卒中とは、脳を栄養する血管が詰まったり(脳梗塞)、破けたり(脳出血、クモ膜下出血)して起こってくる病気の総称。岩手県地域脳卒中登録事業は、岩手県が岩手県医師会に委託し、平成3年(1991年)より開始された。岩手県内の医療機関で診断された脳卒中について、医療機関が「脳卒中患者登録票」により岩手県医師会に提出して収集している。本研究では、同事業の規程に則り、同事業のデータベースを利用して研究参加者の脳卒中発症状況を確認した。

牛乳摂取頻度が週2杯未満のグループにおける脳卒中発症リスクを1として、その他の群の脳卒中発症リスクを計算。その結果、女性では週7杯以上12杯未満のグループで47%の脳卒中発症リスク低下が認められた(図1)。ただし男性では統計学的に有意なリスクの減少はみられなかった。

図1 牛乳の摂取頻度別の脳梗塞発症リスク

牛乳の摂取頻度別の脳梗塞発症リスク

調整因子:年齢、喫煙習慣、飲酒習慣、運動習慣、野菜・果実摂取、魚・大豆タンパク/肉タンパク比、body mass index、収縮期血圧、HbA1c、総コレステロール、HDLコレステロール、降圧薬使用、閉経(女性の場合)
(出典:岩手医科大学)

なぜ、牛乳摂取が脳卒中の発症リスクを低下させるのか?

研究グループでは、牛乳摂取が脳梗塞発症リスクを低下させる理由として、以下を考察し挙げている。

①牛乳を飲む人の健康的な生活習慣・食習慣による影響

本研究においても、牛乳を飲む人では牛乳を飲まない人(週2杯未満)に比べて、喫煙者や大量飲酒者が少なく、習慣的に運動している人、魚・大豆タンパクや野菜・果実を多く摂る人が多い傾向がみられた。喫煙や大量飲酒は脳卒中の危険因子であり、運動習慣、魚・大豆タンパクや野菜・果実摂取は脳卒中の予防因子として知られる。これら、牛乳を1日1杯飲む人の健康的な生活習慣・食習慣が、脳卒中発症リスク低下に影響した可能性が考えられる。

②牛乳に多く含まれる栄養素による降圧作用等の影響

牛乳に多く含まれるミネラル(カリウム、カルシウム、マグネシウム)は血圧を下げる効果があることが知られている。本研究の参加者でも、牛乳を飲む人では牛乳を飲まない人(週2杯未満)に比べて、血圧が低い傾向がみられた。高血圧は脳卒中の最大の危険因子であり、牛乳に含まれるミネラルによって血圧上昇が抑制され、脳卒中の発症リスクが低下した可能性が考えられる。

一方、前述のように、男性では牛乳摂取量との明確な関連がみられなかった。これは、男性では女性に比べて牛乳摂取以外の脳卒中の危険因子(喫煙や大量飲酒)が該当する人が多かったため、牛乳摂取による脳卒中発症への影響が検出されにくかった可能性がある。男性の牛乳摂取と脳卒中発症リスクとの関連を明らかにするためには、さらなる研究が必要と考えられる。

まとめと展望

本研究の限界点として研究グループでは、食物摂取頻度調査票では牛乳摂取量を定量的に見積もることができなかったことを指摘。この点については、「牛乳の至適摂取量を明らかにするためにはさらなる研究が必要だが、コップ1杯は通常150~200mLであるため、それを目安と考えるのがよいと思われる」と述べている。

日本は、欧米に比べて牛乳摂取量が未だに少なく、また欧米とは疾病構造が異なる。欧米人を対象とした牛乳摂取と脳卒中発症リスクに関するエビデンスが、日本人にそのまま当てはまるかどうかは明らかでない。

本研究の結果から、日本人女性では牛乳を週7杯以上12杯未満(1日あたり1杯程度)飲むことに、脳卒中の発症予防効果がある可能性が示された。一方、牛乳の至適摂取量や男性における牛乳摂取と脳卒中発症との関連についてはさらなる研究が必要とされる。

関連情報

牛乳1日1杯で脳梗塞予防の可能性 ~岩手県北地域コホート研究 10年追跡データの解析結果から~(岩手医科大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Association between Milk Intake and Incident Stroke among Japanese Community Dwellers: The Iwate-KENCO Study」。〔Nutrients. 2021 Oct 25;13(11):3781〕
原文はこちら(MDPI)

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