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重炭酸塩が豊富な水が脱水時の無酸素性パワー低下を抑制 エリート柔道選手で実証

重炭酸塩(炭酸水素塩、Bicarbonate)が豊富に含まれている水を毎日摂取していると、脱水に近い状態になった時にも、無酸素性パワーがあまり低下せずに維持されることを示すデータが報告された。ポーランドの国際大会出場レベルのエリート柔道アスリートを対象に行われたパイロット研究の結果だ。

重炭酸塩が豊富な水が脱水時の無酸素性パワー低下を抑制 エリート柔道選手で実証

脱水と酸塩基バランスの改善という二つの効果の検証

格闘技は無酸素性パワーが勝敗の鍵を握ることが多い。柔道の大会では通常、4分の試合が決勝に至るまで数回繰り返され、その間に生じる瞬発力の低下は、主として非代償性の酸塩基バランス、脱水傾向、および筋肉グリコーゲンの枯渇に起因すると考えられる。

ただし脱水が嫌気性パフォーマンスをどの程度損なうのかという点については明らかでないことが多く、研究結果に一貫性を欠いている。一方で、適切な水分補給が人体の諸機能の恒常性維持に重要なことは疑いない。また、重炭酸塩などか有する緩衝作用が代謝性アシドーシスを抑制し、嫌気性パフォーマンスを向上させることに関しては、多くのエビデンスがある。

これらの知見を基に著者らは、重炭酸塩が豊富な水を慢性的に摂取することで、運動中の脱水症状の軽減と高強度の無酸素運動のパフォーマンス向上につながると仮定し、本検討を行った。

ポーランドのエリート柔道選手でのクロスオーバー試験

研究の対象は、8名の男性エリート柔道選手。全員、少なくとも12年のトレーニング歴があり、ポーランド代表メンバーとして国際大会に参加し、国内大会のメダリスト。体重階級については、水分補給プロトコルが複雑になることを避けるために、73kg級と81kg級のいずれかに限定した。

参加者の主な特徴は、年齢24.3±0.5歳、身長181±2.3cm、体重81±2.4kg、VO2max59.7±3.2mL/kg/分で、総仕事量(total workload;TW)は上肢が192.10±5.50J/kg、下肢は246.00±6.50J/kg、平均パワー(Mean Power;MP)は上肢が7.22±0.47W/kg、下肢は9.14±0.87W/kg。

研究デザインは、全員が通常の水を摂取する条件と、重炭酸塩が豊富な水(HCO3-約4,000mg/dm3)を摂取する条件を試行するクロスオーバー法。両条件ともに、いずれかの水を21日間にわたり、参加者個々の体重に基づき設定された3.2~3.4L/日を摂取してもらった。両条件の間には21日間のウォッシュアウト期間を設けた。

研究期間中の食事は、3,455±436kcal/日(炭水化物55%、タンパク質20%、脂質25%)とし、各パフォーマンステストの2日前からは運動を控えてもらった。パフォーマンステストの前の食事は600kcal(炭水化物70%、タンパク質10%、脂質20%)とした。これらの食事は栄養士によって計画され、すべてモニタリングされた。また、研究期間中は薬剤、サプリメント、エルゴジェニックエイドの摂取が禁止された。

パフォーマンステスト

パフォーマンステストでは、まず50%VO2maxの強度でトレッドミルにより脱水を来すまで負荷をかけた。脱水は、12分間隔で体重を測定し、3%の体重減少で判定した。

その後15分おきに、各条件に設定されていた通常水または重炭酸塩の豊富な水のいずれかを、体重低下幅の12分の1ずつ摂取し、体重が回復するか、または体重低下幅の150%の水を摂取した時点で、脱水が補正されたとみなした。

嫌気性パフォーマンスは上肢と下肢について30秒ウィンゲートテストで計測し、そのほか好気性パフォーマンスをエルゴメーターにより計測した。

脱水状態での上肢の総仕事量と平均パワーに有意差

上記のプロトコルでの試行の結果、通常の水を摂取する条件に比べて重炭酸塩が豊富な水を摂取する条件では、脱水状態で上肢の総仕事量(TW)が有意に増加し(161.67 vs 195.43J/kg,p=0.014)、かつ、上肢の平均パワー(MP)も有意に上昇した(6.56 vs 7.79W/kg,p=0.007)。水分摂取量が満たされているタイミングでの比較では、両条件ともにTWとMPのレベルが脱水状態よりも高い傾向にあり、条件間の差は認められなかった。

血漿HCO3-レベルと乳酸レベルは、脱水状態と水分摂取量が満たされているタイミングのいずれも、重炭酸塩の豊富な水を摂取する条件の方が有意に高値だった。これを著者らは、重炭酸塩のレベル上昇によって細胞外と細胞内のH+の濃度勾配が拡大した結果としており、筋疲労を示すものではないと考えられる。なお、血漿pHは条件間に有意差はなかった。

尿浸透圧は、重炭酸塩の豊富な水を摂取する条件で有意に低値

尿浸透圧にも条件間の有意差が認められた。具体的には、水分摂取量が満たされているタイミングでは、通常の水を摂取する条件が769.62 ± 55.82mOsm/Lであるのに対して、重炭酸塩の豊富な水を摂取する条件では679.87±57.92mOsm/Lと有意に低く、脱水状態(913.125±53.48 vs 862.62±51.05mOsm/L)や、脱水の補正開始60分後(644.62±42.92 vs 568.37±38.25mOsm/L)でも有意差が存在した(いずれもp<0.05)。尿浸透圧に条件間の差が有意でなくなるのは、脱水の補正開始120分経過後だった。

また、3時間後までの尿量にも有意差があり、重炭酸塩の豊富な水を摂取する条件の方が少なかった(484±60 vs 316±45mL,p<0.05)。

高重炭酸塩水の継続摂取がパフォーマンス上のメリットに

著者らは、「本研究が行われる前にも既に、重炭酸塩によるエルゴジェニック効果を検討し有用性を示した研究は存在するが、それらに比べて本研究はいくつかの点で新たな知見が得られた」と述べている。その一つは検討対象がエリートアスリート集団であることであり、二つ目として重炭酸塩の緩衝剤としての効果と脱水の抑制に対する効果の双方を検討したことにあるという。

結論として、本検討の結果から、「酸塩基平衡の緩衝能力、嫌気性パフォーマンス、および脱水の補正という点での高重炭酸塩水摂取のメリットが示された」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Chronic Ingestion of Bicarbonate-Rich Water Improves Anaerobic Performance in Hypohydrated Elite Judo Athletes: A Pilot Study」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 May 6;18(9):4948〕
原文はこちら(MDPI)

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