テストステロンを上げる食事と栄養 マンゴスチンや大豆タンパク質の可能性
男性ホルモンのテストステロンは、スポーツパフォーマンスにとってプラスに作用する。そこで、「食事や栄養でテストステロンレベルを高められないか」とのアイデアに基づきまとめられたレビュー論文が発表された。著者によると、これはテストステロンレベルに対する栄養素の影響に焦点を当てた初のレビューとのことだ。
イントロダクション:アロマターゼ阻害活性をもつ天然抽出物の探索
テストステロンは、オス哺乳類のアンドロゲン(男性ホルモン)であり、二次性徴にとって重要なホルモン。テストステロンは骨格筋と神経組織のアナボリック(同化)機能と抗カタボリック(異化)機能の双方を刺激し、用量依存的に、筋力、持久力を増加させ、骨量、骨密度、骨強度にも関与する。
当然のこと、アスリートがパフォーマンス向上のためにテストステロンを使用することは禁止されている。ただし“自然な力”でテストステロンレベルを上げることは規制されていない。しかし、何がテストステロンレベルを上げる“自然な力”の候補となるのかは明らかになっていない。
天然植物抽出物のアロマターゼ阻害作用
アンドロゲンはアロマターゼという酵素の働きでエストロゲン(女性ホルモン)に変換される。そこで女性ホルモンが病態に関与している乳癌などの治療で、アロマターゼ阻害薬が使われている。アロマターゼを阻害することにより、アンドロゲンレベルが上昇する。
アロマターゼ阻害作用をもつ天然由来物質として、赤ワインやコーヒー、茶、ココアなどが知られている。ただし、それらの摂取によりアスリートのパフォーマンスに影響を及ぼし得る変化が生じるのかという視点での検討は、ほとんどなされていない。
唯一、強力なアロマターゼ阻害活性を有するトロピカルフルーツのマンゴスチン抽出物のエルゴジェニック効果を検討した研究が、日本から報告されている。動物実験に加え、筋力トレーニングを行っている男性に42日間、サプリメントとして摂取させた検討でも、対プラセボでベンチプレスとレッグプレスの有意な増強効果を認め、除脂肪体重と腕囲の増大が生じたという。
なお、アロマターゼ阻害活性を有する植物抽出物の大半は、フラボノイドの含有量が高く、アロマターゼ阻害活性を発揮するメカニズムもフラボノイドに起因している。このほか、アロマターゼ阻害活性以外の経路でテストステロンレベルを上昇させる可能性のある天然由来の成分として、インドール-3-カルビノール(アブラナ科植物からの抽出物)、ホスファチジルセリンなどが報告されている。
テストステロンへの主要栄養素の影響
利用可能エネルギー不足(LEA)
利用可能エネルギー不足(Low Energy Availability;LEA)によって黄体形成ホルモンレベルが低下し、それに伴いテストステロン分泌に影響が生じる可能性が、複数の研究から指摘されている。
実際に、総摂取エネルギー量が40%抑制されている場合、タンパク質を十分に摂取しているにもかかわらず、テストステロンレベルが低く、両者に有意な関連が認められたとの報告がある。また長距離アスリート対象の研究では、利用可能エネルギーが30~45kcal/kg除脂肪体重/日のランナーに比較し、30kcal/kg除脂肪体重/日未満ではテストステロンレベルが有意に低かったという。
高脂肪食
ホルモン産生には脂質(コレステロール)が欠かせない。ただし、エネルギーバランスや血管疾患との関連から一般的には摂取エネルギー比25%未満とすることが推奨されている。
テストステロンレベルに対する高脂肪食の影響を検討した複数の報告が存在する。ある研究では、レジスタンストレーニングを続けながらケトジェニックダイエットを行うことで、総テストステロンと遊離テストステロンの有意な上昇がみられたという。ただしこの研究では低脂肪食の対照群を置いていなかった。このほか、システマティックレビューからは、低脂肪食は高脂肪食に比較して総テストステロン濃度を低下させる影響が認められたという。
ただし、スポーツ栄養士が高脂肪食をアスリートに推奨するには、その栄養バランスが現在の知見からは最適なものとは言えないために、躊躇が伴う。
タンパク質およびタンパク質サプリメント
食事性タンパク質は骨格筋量と筋力に重要な役割を果たすが、テストステロンレベルへの影響はよくわかっていない。現在のところ、アスリートに推奨されている1.6~2.2g/kg/日で、テストステロンレベル最適化に十分と思われる。
テストステロンレベルに影響を及ぼす可能性が注目されているタンパク質として、大豆タンパク質が挙げられる。大豆に含まれているイソフラボンは「植物エストロゲン」と呼ばれ、性ホルモンのカスケードに影響を及ぼし得る。しかし、動物実験およびヒトでの実験から、大豆タンパク質のテストステロンレベルへの影響に一貫した結果は得られていない。
論文では引き続き、「テストステロンへの微量栄養素の影響」として、ビタミンD、亜鉛、マグネシウムを、テストステロンレベルに影響を及ぼす可能性のある栄養素として取り上げ、考察を加えている。しかし、それらのいずれも決定的なエビデンスは不足しているとのことだ。
文献情報
原題のタイトルは、「Manipulation of Dietary Intake on Changes in Circulating Testosterone Concentrations」。〔Nutrients. 2021 Sep 25;13(10):3375〕
原文はこちら(MDPI)