菓子の摂取量とうつリスクの関連が、日本人労働者対象の縦断研究で示される
甘いお菓子、例えば、ケーキやクッキー、アイスクリームの食べ過ぎが身体的健康に良くないことは、改めて言うまでもないが、身体面だけでなくメンタルヘルスにもマイナスの影響が及び、うつのリスクが上昇する可能性があることが、日本人を対象とする研究から明らかになった。福岡女子大学国際文理学部食・健康学科の南里明子氏らの論文が、「The British Journal of Nutrition」に掲載された。
これまでにも菓子の摂取量とうつリスクとの間に関連があることが、主として横断研究から示されてきた。ただし、一定期間前向きに追跡する縦断研究は少なく、因果関係は不明であり、またアジア人での研究は報告されていなかった。これに対して南里氏らの報告は、うつでない人を3年間追跡して菓子摂取量とうつ状態の新規発症との関連を検討するという縦断研究の結果であり、両者の間に因果関係が存在する可能性を示唆するものとして注目される。
J-ECOH Studyのサブスタディとして検討
この研究は、国内企業十数社の労働者を対象とする職域多施設研究「J-ECOH Study」(Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study)のサブスタディとして実施された。
研究参加者は、千葉県と神奈川県に拠点を置くある製造業の企業従業員2,162人。このうち、ベースライン調査でうつ状態にある人と判定された人、精神疾患の既往のある人、摂取エネルギー量が極端な人(平均値±3標準偏差以内から逸脱)、および3年後の追跡調査に参加しなかった人などを除外し、911人(男性812人、女性99人)を解析対象とした。
CES-Dスケールでうつ状態、BDHQで食習慣を把握
うつレベルの判定には、自記式の質問票「CES-Dスケール(center for epidemiologic studies depression scale)」を用いた。CES-Dスケールでは、点数が高いほどうつレベルが高いと判定される。本研究では、60点中16点以上の場合をうつ状態と定義した。
菓子の摂取量を含む日常の食生活については、自記式質問票「BDHQ(brief-type self-administered diet history questionnaire)」を用いて把握した。そのほかに、喫煙・身体活動習慣、睡眠時間、残業時間、シフト勤務の有無、職位、職務上の負担、婚姻状況なども調査した。
菓子摂取量の三分位で3群に群分けして3年間追跡
本研究では、ベースライン時の菓子摂取量の三分位で全体を3群に分けて3年間追跡し、新たにうつ状態となるリスクを比較している。第1三分位群の菓子摂取量は5.5±3.3g/1,000kcal、第2三分位群は15.1±3.1g/1,000kcal、第3三分位群は35.3±13.4g/1,000kcalであり、群間に有意差がみられた(p<0.001)。
ベースライン時には、菓子摂取量の3群間で、うつレベルに有意差なし
ベースライン時の食習慣に着目すると、摂取エネルギー量は第1三分位群から順に、1,747±465kcal/日、1,758±464kcal/日、1,827±506kcal/日だった(p=0.030)。うつリスクに影響を与える可能性が指摘されている、亜鉛、マグネシウム、ソフトドリンクの摂取量は有意な群間差がなかった。ビタミンB群のうちB6は第3三分位群で少なく(p=0.025)、B12は有意差がなかった。
次に、CES-Dスケールで評価したうつレベルをみると、そのスコアは第1三分位群から順に、8.4±4.0、8.4±3.9、8.5±4.1であり、有意な群間差は認められなかった(p=0.75)。
年齢は全群ともに平均が41~43歳で群間差がなく、性別に関しては、男性の割合が97.4%、91.8%、78.3%であり、高位三分位群ほど女性が多かった(p<0.001)。
その他、第3三分位群は第1三分位群に比較して、未婚者、シフト勤務者、現喫煙者、飲酒習慣のある人、身体活動習慣のある人が少なく、睡眠時間6時間未満の人が多かった。
一方、BMIは第3三分位群のほうが低かった(第1三分位群から順に23.2±3.3、23.2±3.0、22.5±3.0.p=0.003)。なお、うつリスクとの関連が報告されている糖尿病の割合は群間差がなかった。
ベースライン時の菓子摂取量と、3年間でのうつ状態の新規発症率に有意な関連
3年間の追跡で、153人(16.8%)が新たにうつ状態と判定された。
うつリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、婚姻状況、勤務地、職位、職務上の負担、残業、シフト勤務、喫煙・飲酒・身体活動状況、BMI、摂取エネルギー量、糖尿病の既往、睡眠時間、CES-Dスコアなど)を調整後に、菓子摂取量の第1三分位群を基準として、新たにうつ状態と判定されるオッズ比を求めると、第2三分位群はOR0.89(95%CI;0.54~1.48)、第3三分位群はOR1.78(1.09~2.91)であり、菓子摂取量の多さとうつリスクとの間に有意な関連が認められた(傾向性p=0.008)。
調整因子に、葉酸、ビタミンB6、B12、n-3系多価不飽和脂肪酸、マグネシウム、亜鉛、ソフトドリンクなどの摂取量を追加しても、第2三分位群はOR0.84(0.50~1.41)、第3三分位群はOR1.72(1.03~2.86)であり、関連性は変わらなかった(傾向性p=0.012)。
どのようなタイプの菓子がうつリスクと強く関連しているのか?
著者らによると、本研究は「菓子の摂取量とうつ状態の新規発症との関連を調査したアジア初の研究」という。うつレベルをCES-Dスコアのみで判定していることや、研究参加者が1企業の従業員のみであること、追跡期間中の脱落が多いことなどの研究上の限界点を挙げたうえで、「菓子摂取量の多さがうつリスクと関連していることが明らかになった」と結論を述べている。
また、今後の研究課題として、異なる背景をもつ多くの集団での検証が求められること、および、菓子のなかでもどのようなタイプの菓子が、うつリスクにより強く関連しているのかを明らかにする必要があるとしている。
文献情報
原題のタイトルは、「Prospective association of confectionery intake with depressive symptoms among Japanese workers: the Furukawa Nutrition and Health Study」。〔Br J Nutr. 2021 Aug 12;1-6〕
原文はこちら(Cambridge University Press)