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第2回 スポーツ栄養学から見たサステナビリティを学ぼう!<実践編>

【セミナーリポート】スポーツ栄養学から見たサステナビリティを学ぼう!<実践編>

株式会社ユーグレナ主催、一般社団法人日本スポーツ栄養協会後援による、スポーツ栄養とSDGsをテーマにしたWebセミナー「スポーツ栄養学から見たサステナビリティを学ぼう!」<実践編>」が8月31日に開催されました。好評だった前回の続編です。

講師は前回に引き続き、日本大学文理学部体育学科教授で公認スポーツ栄養士の松本恵氏。折りしも、サステナビリティへの取り組みを重点項目として掲げた東京オリンピックが終了し、パラリンピックが開催中という時宜にかなったタイミング。同氏はこのセミナー開催の数日前まで、東京オリンピックの選手村レストランメニュー検討委員会委員として、オリンピアンの食と栄養を支える活動に忙殺されていました。今回も、本講演の一部を紹介いたします。

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第1回 スポーツ栄養学から見たサステナビリティを学ぼう!〈基礎編〉

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エネルギー摂取量の調整と、タンパク質の過剰摂取問題

前回(第1回)は、アスリートの食環境におけるサスティナビリティについて紹介しながら、アスリートはさまざまな理由によりサステナビリティに貢献することが難しいという話をしました。

例えば、アスリートはトレーニングのために一般の人よりもエネルギー摂取量が増えることは避けられません。筋肉量を増加するため、あるいは筋損傷からの回復のために、タンパク質の摂取量も増大します。さらに、遠征のための移動回数に応じて化石燃料を使います。そして、そもそもタンパク質を過剰に摂取しているのではないかという指摘もしました。

しかし、そうであってもできることはある、何ができるのかという観点で、今回はエネルギーとタンパク質の過剰摂取をどのように調整すべきかという、具体的な話をしたいと思います。

トレーニングにあわせた食事量

私たちは、食事や飲料、補食などを通じてエネルギーを摂り、それを消費してバランスをとっています。アスリートではトレーニング量によって、このバランスが変わってきます。その日のトレーニングで何キロカロリー消費したかがすぐわかるのであれば、食事量を計算してバランスをとればよいのですが、正確な評価はなかなか困難です。最近は消費エネルギー量を割り出す便利なウェアラブル端末がありますので、目安として活用が可能です。

食事量が適切かどうかを知るためには、毎日決まった時間に体重を測り記録することが大切です。毎朝トイレの後、朝食前の体重測定が最適といわれています。最近は自動でグラフ化してくれるスマートフォンのアプリがありますので、そういったものを活用すると、食べたものとトレーニングの種類や量と体重の関連が徐々にわかってきますので、食事量の微調整に役立ちます。

図1 適正な食事量
適正な食事量
(松本 恵)

トレーニングにあわせた食事の選択について、我々スポーツ栄養士はさまざまな方法を駆使してサポートしていますが、アスリートの皆さんご自身がもっと簡単に判断するための参考として、USOC(The US Olympic Committee's)/米国オリンピック委員会のダイニングに貼られているポスターをご紹介します。

【参考】 The Athlete's Plate(the University of Colorado)

このポスターは、トレーニングをイージー(軽度)、モデレート(中程度)、ハード(高度)の三段階に分けて、食事内容をどうすればいいのかを図式化しています。オフや怪我をしてトレーニングできない時期、減量中などの軽いトレーニングをしている時期は、ビュッフェスタイルで一つのお皿に食材を全部乗せたと仮定して、お皿の半分は野菜と果物、4分の1がタンパク源になるような食材、4分の1は主食(穀類)を乗せます。さらに、減量などの必要性に応じて主食の10%程度を減らして調整します。

つまり、イージートレーニングの時は、食事の半分が野菜や果物でも、必要なタンパク質を得られることを示しています。

中程度のトレーニングを行っているときは、エネルギーをしっかりと摂る必要があるので、軽いトレーニングと比べて主食を増やします。一方、タンパク質は軽いトレーニングと同じぐらいの量でよく、お皿を3分の1ずつに分けて考えます。

ハードトレーニングや試合当日の朝の場合、お皿の半分を主食にあて、エネルギーをしっかり摂ります。しかしタンパク質はやはり4分の1ほどです。増量や減量を行う場合は、このような配分は変えずに、お皿のサイズを変えて調整していきます。

サステナブルな増量・減量のポイント

増量や減量時の食事についてもう少し詳しくお話ししますが、その前に少し脇道の話をします。我々スポーツ栄養士は、まず、人々の健康を支える管理栄養士という資格を取得し、そのうえで公認スポーツ栄養士の資格をとって、アスリートの栄養管理や指導にあたる職に就きます。ですから、まずは選手の皆さんの健康を大前提として考えます。もちろん、パフォーマンスのためにギリギリのラインを選択してサポートすることも多いのですが、基本的にはアスリートに健康であってほしいという願いを職業倫理として堅持しています。このような立場で、健康維持とアスリートのサポートを両立していく際に大きなポイントとなるのは、やはり増量や減量です。

中高生が増量のために、いわゆる「飯トレ」をしていると耳にします。それが上手くいっているケースもあるようですが、我々の立場でみると、危険だと感じることが少なくありません。やみくもな「ドカ食い」は健康を害しかねないということです。

健康的に増量するには、1回の食事の量を極端に増やすのではなく、補食で補う方法が基本です。また、トレーニングにあわせてタイミング良く食べることも必要です。必要な時に必要な量をタイミング良く食べることで健康が維持され、サステナブルなアスリート生活につながります。

さらに、欠食を避けて規則正しく食事することも重要です。現場でみていると、「増量したい」と言っているにもかかわらず朝食を欠食する人がとても多い。朝食1回で500~700kcal程度は摂取できるのに、それを欠食するということは、「本当に増量する気があるのかな?」と疑いたくなります。増量中の欠食は絶対に避けるべきです。

図2 健康(サステナブル)な増量・減量のポイント
健康(サステナブル)な増量・減量のポイント
(松本 恵)

減量のポイント

減量の際、摂取エネルギー量を500kcal/日以上減らしてしまうと、低血糖や免疫能低下、貧血などのさまざまな支障が現れるとされています。もとの摂取量が4,000kcal/日もある場合はもう少し多く減らしてもいいですが、一般的な2,500~3,000kcal/日程度の人は、500kcal/日ほどが目安と言われています。

そして、減量には「十分な期間」を確保することが重要です。この「十分な期間」とは、例えば500kcal/日の摂取制限で考えると、1カ月あたり1kg強を目安とすれば健康的な痩せ方になります。 減量の際には、食事バランスをしっかり整えることが必須です。とくに微量栄養素のビタミンやミネラルの不足を招かないことが大切。巷間には絶食や断食を繰り返すなど極端な方法が流布されていますが、そのような極端な手法を繰り返していると飢餓状態に体が適応して減量が困難になります。

具体的には、カロリーの高い料理の献立を見直して、例えば揚げ物や炒め物を、低カロリーの焼き物、煮物、蒸し物に変更したり、動物性タンパク質を植物性タンパク質に変えるというだけでも、かなりローカロリーになります。しかもこのような変更はサステナブルにもつながる。一つ一つの工夫の積み重ねで、絶食や断食のような極端な方法によらず、上手に健康的に痩せることができるのです。

図3 健康(サステナブル)な減量のポイント
健康(サステナブル)な減量のポイント
(松本 恵)

おいしく食べることの重要性

本日のテーマに関連して、とくに強調したいことがあります。それは、増量や減量のステージだけでなくふだんの食事に関しても、常に「おいしく食べる」ということが、健康とサステナブルにとって極めて重要だということです。

私は大学院時代に消化管機能を研究していたこともあって、この点のこだわりが強いのかもしれませんが、私たちが「おいしい」と思って食べると明らかに消化管の機能が亢進します。わかりやすい一例を挙げるのなら、梅干しを思い浮かべただけで唾液の分泌が高まりますね。それだけ味覚と脳と消化管機能が密接に関連しているということです。

おいしいものとは反対に、好きでないものを無理に食べたときは、消化管はしっかり機能してくれません。嫌いなものを食べると下痢をするという人がいますが、それは気のせいではなく、胃液や消化酵素が出ないことが影響していると考えられます。

何を言いたいのかというと、つまり、増量のために無理やり食べても消化・吸収できないということです。消化・吸収されずに排泄されるのでは意味がありません。サステナブルではないですし、フードロスとさえ言えます。

無理な減量も消化管機能に負荷をかけます。切ない話ですが、現場では、口にした食べ物を飲み込まずに戻したり、嘔吐を試みる選手もいます。このような行為は、消化管に負担をかけます。咀嚼とともに体は消化・吸収の態勢を整え、消化液の分泌が亢進しているのに、食べ物が入ってこないからです。消化液の分泌に関与している自律神経系にも負担が生じ、摂食障害のリスクが高まります。

こういったことから、食事を美味しくいただくということが、サステナブルの基本だということをおわかりいただけると思います。

図4 おいしく食べるサスティナブル
おいしく食べるサスティナブル
(松本 恵)

植物性食品の利用

続いて、植物性食品の上手な使い方です。植物性タンパク質と動物性タンパク質の特徴をまとめた表をお示しします。ごく基礎的なことのみを示しています。

植物性タンパク質は大豆製品に多く、野菜に含まれるものも結構あります。大豆製品では、ポリフェノールや食物繊維も一緒に摂ることができます。植物性タンパク質は脂質が少ないため、減量時や体重管理に向いています。デメリットとしては、アミノ酸バランスが動物性タンパク質に比較して悪く、筋タンパク同化率という点で分が悪いことが挙げられます。ただし大豆に関しては、アミノ酸バランスが動物性タンパク質に比較して8割程度と言われ、それが「畑のお肉」と呼ばれる所以です。

一方、動物性タンパク質はアミノ酸バランスが良いことが特徴です。さらに、筋肉代謝に必要なロイシンが多く含まれているので、筋肉の疲労回復、筋肉量の増加などが効率良く行われます。 デメリットとしては、やはり肉の脂身があるために、タンパク質だけでなく脂質も多く摂ることになってしまう点です。

図5 植物性たんぱく質と動物性たんぱく質の特長
植物性たんぱく質と動物性たんぱく質の特長
(松本 恵)

最近は動物性タンパク質を摂取しない人、つまりベジタリアンのアスリートが増えています。宗教や思想上の理由でベジタリアン食を選択する人もいますし、体重管理や体調改善のためにそうする人もいます。

ベジタリアンアスリートへの栄養指導上の注意点としては、微量栄養素の不足です。

ビタミンB12は主に肉や魚、貝類にしか含まれていないため、ビーガンのような厳格なベジタリアンは摂取できません。ビタミンDも、キノコ類にも含まれていますが魚に多く含まれているため、ベジタリアンは摂取量が限られてしまいます。とくにビタミンDは近年、筋疲労の回復や免疫能にも関与していると言われ、スポーツ領域でも注目されている栄養素です。これらの微量栄養素が不足しないように気をつける必要があります。

図6 植物性食品の上手な利用
植物性食品の上手な利用
(松本 恵)

一方でベジタリアン食は、食物繊維を多く摂取でき、体重をコントロールをしたり、お腹の調子を整えるという効果があります。また、サステナブルへの貢献ということで言えば、ベジタリアン食は優れています。このような視点からベジタリアン食を選択するアスリートも増えているようです。

図7 植物性食品とアスリート
植物性食品とアスリート
(松本 恵)

ところで、前回もお話ししましたが、アスリートのタンパク質必要量は、一般の人の2倍から最大でも3倍に届かない程度です。具体的には最大2g/kg/日で、それ以上は腎臓に負担をかけたり体脂肪増加につながり、サステナブルでありません。

例えば、どんぶり飯は通常300gほどで、そこには10g程度のタンパク質が含まれています。白米だけでも1日に結構なタンパク質を取ることになります。ですから、肉やプロテインサプリメントのタンパク質量だけでなく、主食や野菜に含まれているタンパク質も考えないと、気付かぬうちに過剰摂取してしまいます。 アスリートのみなさんも一度、1日に自分がどれぐらいタンパク質を摂っているかを調べてみてください。植物性タンパク質が含まれている食品は意外に多いものです。それらを活用し、サステナブルな食生活に変えられることを、ぜひ知っておいてください。

図8 たんぱく質の必要量
たんぱく質の必要量
(松本 恵)

東京2020選手村食堂について

最後に、東京オリンピック選手村のダイニングの話をしたいと思います。私は鈴木志保子先生(一般社団法人日本スポーツ栄養協会理事長)とともに、選手村ダイニングのメニューアドバイザリーを務めました。リオオリンピックの前からリサーチやヒアリングを始めてきました。多くの人に話を伺い、やはりベジタリアンメニューは絶対に必要という結論に至り、今大会のダイニングにも専用ブースを設置しました。「Made Without Gluten, Vegetarian Cuisine」という名前のブースです。他のカテゴリーのブースと比較して、かなり大きな面積を割り当てました。

ダイニングのメニューは8日間のサイクルメニューで、600種類以上用意しました。ベジタリアンメニューは朝昼夕ともに、それぞれ異なるものが提供されていました。ベジタリアン食は現在のトレンドで、リクエストする選手も増えてきており、選手村では我々栄養士の対応が必須になっています。このような動きも、サステナブルへの貢献につながるのではないかと考えています。

まとめに入りますが、前回のこのセミナーで私は、アスリートはサステナブルでないとお話ししました。しかし今回お話ししたように、ベジタリアンメニューなどを上手に使うことで、実際には、アスリートはサステナブルに貢献することが可能です。また、タンパク質やエネルギーの摂取量を適切に管理し、過剰摂取を避けることも、サステナブルな行動と言えるでしょう。

質疑応答Q&A

Q. ジュニアアスリートでは、身体の成長を考えた栄養摂取が必要だと思います。補食で対応することが多いと思いますが、どのような食品が良いのでしょうか?

A. 骨の成長を考えると、カルシウムとビタミンDが必要で、それには牛乳をはじめとする乳製品が非常に優秀な食品と言えます。サステナブルという視点では乳製品は優先されないかもしれませんが、やはり成長期の子どもたちには、乳製品を補食としてプラスしたほうがよいと思います。

Q. 少し前に、ひじきに鉄があまり含まれていないという「ひじきショック」がありました。アスリートにとって鉄不足は問題かと思います。トップアスリートたちの現状はいかがでしょうか?

A. 鉄はとくに持久系アスリートにとって重要です。また、筋肉の代謝や筋増量にも鉄が必要だと言われています。食事から鉄を摂ることが基本ですが、どうしても不足する場合は鉄強化食品を使って調整していきます。なお、動物性食品に含まれている「ヘム鉄」の方が、非ヘム鉄よりも吸収が良いという特徴があり、食事ではその点を考慮する必要があります。

また最近の研究で、体内で炎症が起きていると鉄の吸収が阻害されると報告されました。強化トレーニングなどで疲労が蓄積している時に、鉄サプリを利用すると、かえって炎症を引き起こすことも考えられますので、鉄は計画的に摂ることが大切です。

Q. ジュニアアスリートには、食育という面から、補食より日常の食事のほうが重要だと思います。いかがでしょうか?

A. そうですね。さきほど、ふだんの食事を美味しく食べることがサステナブルだという話をしましたが、やはりジュニアの時から美味しく食べてもらい、消化管をしっかり健康に発達させることが大切です。ジュニア期に美味しくないものを無理やり食べさせるようなことが続いていると、消化管の発達にも良くないですし、心の健康も損なわれることがあります。

ただ、やはりアスリートとして練習量が増えていくと、食事で食べられる量がどうしても限られてきます。そのような時に我々栄養士は、補食を重視します。食事を食べきれないということは、栄養素も摂りきれていないということですので、その場合は頻回食や補食で補う必要があります。

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