有酸素運動と筋力運動に対するタウリンの用量反応関係を探るシステマティックレビュー
タウリンのスポーツパフォーマンスへの影響を生化学的側面から検討した研究のシステマティックレビューが行われ、その結果が「Frontiers in Physiology」に掲載された。タウリン摂取には、運動に伴うDNA損傷の抑制や乳酸レベルの低下、筋疲労の低減などの効果が存在すると考えられるという。
タウリンは多く摂るほど良いのか?
タウリンは、主に肉類、甲殻類、海藻、乳製品に多く含まれており、タンパク質合成には利用されないものの、イオンチャネルの調節、細胞容積、膜安定化など、さまざまな機能に関与する天然に存在する遊離アミノ酸として知られている。それらの機能性はスポーツパフォーマンスを向上させるように働く可能性があり、それを示す報告も複数存在する。ただし、タウリンの摂取量と筋肉へ与える影響の用量反応関係の詳細は明らかになっていない。この研究は、システマティックレビューによりこの点の知見を整理したもの。
システマティックレビューとメタ解析のための優先レポート項目PRISMA(preferred reporting items for systematic reviews)のガイドラインに従ってPubMed、Medline、ISI、Web of Science、Google Scholarを用いた文献検索が行われた。適格基準は、ヒトを対象とした研究で査読のある英文ジャーナルに発表された論文。未発表の論文、ポスター発表、症例報告などの非実験的研究は除外した。検索キーワードとして、タウリン、運動パフォーマンス、筋肉、身体トレーニング、ランニング、水泳などを使用した。なお、前記の文献データベース以外に、一般的なWeb検索も実施し、また既報レビュー論文の参考文献も検討対象に含めた。
一次検索で1,046報がヒットし、ヒトを対象していない研究900件、タウリンと運動パフォーマンスとの関連を評価していない研究120件、英語以外の論文13報などを除外し、全文レビューの結果、最終的に10件の研究が解析対象として抽出された。
タウリンによる有酸素運動パフォーマンスへの影響
10件の研究のうち9件は、タウリンサプリメント摂取による有酸素運動パフォーマンスへの影響を検討していた。
それらのうち一つの研究は、運動後のインターロイキン-6(IL-6)や腫瘍壊死因子-α(TNF-α)などの筋損傷や炎症マーカーを評価していた。タウリン摂取時には持久力トレーニング中に、IL-6やTNF-αレベルの変化が生じなかったという。
また、6件の研究は、持久力トレーニングにおけるタウリン摂取による血中乳酸レベルへの影響を検討していた。これらの研究からは、運動前にタウリンを急性摂取しても、ランニングや水泳などの持久力トレーニングで生じる乳酸レベルの上昇を抑制する効果は認められないと報告している。一方で、運動前後に1日5回に分けてタウリン1gを摂取するデザインでの検討からは、乳酸値上昇の有意な抑制効果が報告されている。
タウリンの摂取量が異なると、脂肪の酸化へ異なる影響が生じる可能性がある。例えば空腹時有酸素運動の前に6gのタウリンを摂取すると脂肪酸化が増加したと報告されている。しかし3gのタウリンを摂取する条件での研究では、脂肪酸化増加が認められないという。
このほか、持久力トレーニング中に1日3回2gのタウリン摂取により、DNA損傷が減少したとの報告がある。
タウリンによる筋力トレーニングパフォーマンスへの影響
1日あたりタウリン0.05gを14日間摂取した後に偏心筋力運動を負荷した研究では、タウリン摂取により酸化ストレスが軽減され、筋疲労が抑制されると報告されている。その一方でタウリンは、炎症反応には影響を与えなかったという。
タウリンの摂取量と急性・慢性効果との関連を明確にする今後の研究へ期待
これらの検討の結果、著者らは本研究を以下のように結論付けている。
システマティックレビューで抽出された文献からは、タウリンの摂取量にもよるが、有酸素運動中の脂質代謝を増加させ、DNA損傷が減少することが示された。例えば運動を行う前にタウリン(1.66g)を急性摂取すると脂質代謝が増加する可能性があり、1回の運動前にさらに高用量のタウリン(6g)を摂取すると、やはり脂質代謝が増加する可能性がある。しかし、3gのタウリン摂取は脂質代謝に影響を与えなかった。このような結果の差異は、さまざまな組織でのタウリン動態の違いが原因である可能性があり、タウリンの放出の変動に伴い血中タウリンレベルが変化するのではないか。
また、2gのタウリンを1日3回摂取することでDNA損傷を減らすことができる。
筋力運動に関しては、低用量(0.05g)のタウリン摂取は、運動によって誘発される酸化ストレスを軽減し、筋疲労を改善する。
今後の方向性
また著者らは、タウリン研究の現状と今後の方向性を以下のようにまとめている。
タウリンは1827年に発見されて以来、多くの研究が行われてきた。活性酸素種(Reactive Oxygen Species;ROS)に対する有益性も認められるが、タウリンの過剰な状態ではその有益性が低下する可能性を示唆する報告もある。一方、高強度運動に伴い、とくに速筋線維でタウリンの枯渇が生じ、タウリン摂取がそれを補うのに役立つ可能性がある。ただ、筋損傷や筋疲労の軽減効果は、摂取量や摂取タイミングなどにより研究結果が異なる。さらなる研究によって最適な摂取方法を確立する必要がある。
文献情報
原題のタイトルは、「The Dose Response of Taurine on Aerobic and Strength Exercises: A Systematic Review」。〔Front Physiol. 2021 Aug 18;12:700352〕
原文はこちら(Frontiers Media)