SDG3.2到達への道標 世界の新生児・幼児の死亡率の現状、そして2030年の予測
世界204カ国・地域の新生児と5歳以下の死亡率の現状と、2030年時点での予測値が「Lancet」に掲載された。国連で採択された2030年までの達成目標である「持続可能な開発目標(sustainable development goals;SDGs)に含まれている、新生児や子どもたちの死亡率低減の目標に向けて、現在われわれがどの地点にいて、達成の見込みはどの程度あるのかが理解可能。この目標の達成には、栄養の改善というアプローチにも大きな期待が寄せられている。
SDG3.2到達を目指して、立ち位置を確認する
SDGsには17領域にわたる目標が掲げられており、そのうち3番目は「すべての人に健康と福祉を」であり、栄養との関連が深い領域。その中の2つ目に掲げられている以下の目標「SDG3.2」のために、現時点での目標との乖離を明らかにし、かつ2030年時点での予測をシミュレーションすることが本研究の目的。
そのSDG3.2とは、「すべての国が新生児死亡率を少なくとも出生1,000人中12人以下まで減らし、5歳以下死亡率を少なくとも出生1,000人中25人以下まで減らすことを目指し、2030年までに、新生児および5歳未満時の予防可能な死亡を根絶する」というもの。
なお、このSDGsが策定されたのは2015年で、当然その段階では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生は想定されていない。しかし今回の研究において、2030年の予測値には、COVID-19を考慮したシナリオでも計算されている。
2030年の世界全体の新生児死亡率は15.4、5歳未満児死亡率は29.6と予測
この統計調査には、204カ国・地域の年齢・性別の全死因による死亡率と原因別死亡率、計3,097国(地域)・年のデータが利用された。SDGs達成に向けた進捗状況は、SDGs目標に対する5歳未満児死亡率(Under-five mortality rate;U5MR)、新生児死亡率(neonatal mortality rate;NMR)とを比較することで表している。
2019年には7割近くの国が目標不到達だが、2030年には7割前後が到達と予測
まず、調査結果の全体像をみてみよう。
5歳未満児死亡率は、2000年時点では1,000人の出生あたり71.2(95%UI;68.3~74.0)であったものが、2019年には37.1(33.2~41.7)に減少していた。新生児死亡率も同様に2000年の28.0(26.8~29.5)から2019年には17.9(16.3~19.8)と低下していた。
2019年には、204カ国(地域)中136カ国(67%)がSDG3.2の5歳未満児死亡率の目標に不到達で、新生児死亡率の目標には133カ国(65%)が不到達だった。予測シナリオでは、2030年までに154カ国(75%)が5歳未満児死亡率の目標を達成し、139カ国(68%)が新生児死亡率の目標を達成することが見込まれた。
なお、世界の5歳未満の子どもの死亡は2000年には9億6,500万(95%UI;9億500万~10億3,000万)人であり、2019年には5億5百万(4億2,700万~6億200万)人だった。そのなかで新生児の占める割合は、2000年の39%(3億7,600万〈3億5,300万~4億200万〉人)から、2019年には48%(2億4,200万〈2億600万~2億8,600万〉人)へと増加していた。
死亡原因別の死亡率の推移
5歳未満児死亡率と新生児死亡率はともに、女児よりも男児のほうが高かった。ただし世界全体では統計的に有意差はなかった。2019年の5歳未満児の死亡原因は、トップが新生児障害であり、下気道感染症、下痢性疾患、先天性欠損症、マラリアが続いた。
統計的に、新生児死亡率が0.80(95%UI;0.71~0.86)低下すると、5歳未満児死亡率は1.44(1.27~1.58)低下すると計算された。また、2030年の世界全体の新生児死亡率は15.4、5歳未満児死亡率は29.6と予測されている。
栄養関連の死亡は、麻疹に次いで2番目に大きく減少
2000年から2015年にかけて、5歳未満児死亡率が最も大きく低下していた死亡原因は麻疹(はしか)で、5歳未満児死亡率は-9.2(95%UI;-10.4~-8.0)%低下し、それに次いで2位が「タンパク質・エネルギー栄養障害」で、5歳未満児死亡率は-6.5(95%UI;-8.2~-4.7)%の減少だった。なお、3位はHIV/AIDSで、5歳未満児死亡率は-6.0(95%UI;-6.9~-5.0)%の変化。
国別の立ち位置と目標達成予測。日本は世界トップクラス
論文では204カ国すべての現状と2030年の達成予測値を掲載している。そのほかに地域ごとや、人口統計学的特性(socio-demographic index;SDI)で世界を5群に分けてのグループごとの数値も掲載している。ここでは後者のSDIで分類した5群の結果を紹介する。
まず、SDIが5群のうち最高にランクされている国々では、2019年時点で新生児死亡率が2.60、5歳未満児死亡率が4.70で、いずれも既に目標に到達しており、2030年時点では新生児死亡率2.57、5歳未満児死亡率5.02と予測されている。ちなみに日本もこのグループに入り、2019年は新生児死亡率0.870、5歳未満児死亡率2.43であり、シンガポールやアンドラ公国(西ヨーロッパピレネー山脈にある立憲君主制の小国)と並んで世界で最も低い水準。2030年の日本の新生児死亡率は0.640、5歳未満児死亡率は1.86と、さらなる低下が予測されている。
SDIが2番目のカテゴリーの国々は、2019年が新生児死亡率5.10、5歳未満児死亡率9.36で、このグループも既に目標に到達しており、2030年時点では新生児死亡率3.30、5歳未満児死亡率6.12と予測されている。
同様にSDIが3番目のカテゴリーの国々も、2019年が新生児死亡率10.1、5歳未満児死亡率18.9で、このグループも既に目標に到達している。ただし2030年時点の予測は、新生児死亡率16.3、5歳未満児死亡率27.3と上昇が予測されており、現時点で既に目標に到達しているにもかかわらず、不到達との予測が立てられている。
SDIが4番目のカテゴリーの国々は、2019年が新生児死亡率21.7、5歳未満児死亡率42.0で、いずれも目標に到達しておらず、2030年時点の予測も新生児死亡率19.1、5歳未満児死亡率30.3と、不到達が予測されている。SDIが5番目の最低のランクに分類されている国々も同様に、2019年が新生児死亡率27.0、5歳未満児死亡率71.8で、いずれも目標に到達しておらず、2030年時点の予測も新生児死亡率21.4、5歳未満児死亡率47.0と、不到達が予測されている。
SDG3.2達成には、さらに進歩を加速するかなりの努力が必要
論文の結論は、「世界の乳幼児死亡率は2000年から2019年の間にほぼ半減したが、低下速度は依然として遅く、2030年までにSDG3.2の目標を達成する軌道に乗っていない。COVID-19の広範な影響を考えると、目標達成に向け、さらに進歩を加速するかなりの努力が求められる」とされている。
また、妊婦への鉄分や葉酸の摂取推進、栄養失調のさらなる抑制、そのための食糧の供給・流通の改善、栄養教育の拡充などの具体的な施策の必要性にも言及している。
文献情報
原題のタイトルは、「Global, regional, and national progress towards Sustainable Development Goal 3.2 for neonatal and child health: all-cause and cause-specific mortality findings from the Global Burden of Disease Study 2019」。〔Lancet. 2021 Sep 4;398(10303):870-905〕
原文はこちら(Elsevier)