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アスリートは昼寝するべき? 昼寝とパフォーマンスに関する系統的レビュー

アスリートの昼寝に関する研究結果が発表された。システマティックレビューにより、昼寝と身体的パフォーマンス、認知的パフォーマンス、疲労感、筋肉痛、メンタルヘルス、夜間の睡眠などへの影響を考察したもの。肯定的な結果が多い要素と、評価が拮抗している要素があるようだ。

睡眠ではなく、昼寝の影響を検討したシステマティックレビュー

アスリートは、トレーニングの量の負荷だけでなく、早朝など睡眠時間への影響が生じ得る時間帯のトレーニング、高地トレーニング、遠征、試合参加の心理的負荷など多くのストレッサーにさらされており、睡眠不足や睡眠障害を来すことがある。十分な睡眠はアスリートのパフォーマンスを支える重要なファクターとして認識されており、それを支持する研究報告も複数みられる。しかし、昼寝の効果に的を絞った研究のシステマティックレビューはまだ報告されておらず、今回紹介する研究が初とみられる。

この研究では、PRISMAガイドラインに則して、Psych INFO、PubMed、Scopus、Sport Discus、およびWeb of Scienceという5つの文献データベースを用いたシステマティックレビューが行われた。2020年8月11日までに公開された論文の中から、研究参加者平均年齢が12歳以上の健常アスリートであり、英語で執筆された論文を検索。アスリートの昼寝と、身体的パフォーマンス(スプリントタイム、疲労困憊に至るまでの時間、握力、ジャンプ力など)、認知的パフォーマンス(反応時間、注意力、覚醒レベル)、メンタルヘルス(気分や幸福感)、夜間の睡眠の関連を検討した。

キーワードとして、昼寝、日中の睡眠、シエスタ、アスリート、スポーツ、プレーヤーなどを設定。なお、昼寝は「個人の平均主睡眠期間の50%未満の睡眠期間」と定義した。

解析対象37件の研究の特徴

最初の検索で2,730件がヒットし、ハンドサーチによる1件を追加後、重複の削除、タイトルと抄録によるスクリーニングにより109件に絞り込み、全文評価の対象とした。全文が公開されていないもの、レビュー論文、対象がアスリートでないもの、ラマダンなどの特殊な状況下での研究などを除外し、最終的に37件の研究を解析対象とした。

これら37件の研究は2009~2020年の間に発表されており、研究参加者は合計3,489人だった。男性と女性を対象とする研究が35.1%(13件)、女性のみを対象とする研究が8.1%(3件)、男性のみを対象とする研究が48.6%(18件)であり、性別を明記していないものが3件(8.1%)存在した。

研究参加者の年齢は23±4歳で、行っている競技の種目はトラック競技、フィールド競技、ランニング、サッカー、ラグビー、水泳、柔道、射撃、ボート、空手、ネットボール、ウルトラマラソンなど。

研究デザインは、横断研究が6件、縦断/コホート研究が14件、無作為化比較試験が14件、非無作為比較試験が3件。睡眠や昼寝の状態の評価法としては、アクチグラフィーを用いた研究が13件(35.1%)、自記式アンケートを用いた研究が10件(27%)、睡眠日誌を用いた研究が7件(18.9%)であり、睡眠評価のゴールドスタンダードであるポリグラフ検査を行っていた研究は6件(16.2%)で、1件(2.7%)は研究室内の監視下で行われていた。

研究の質としては、大半の研究(34件)は中等度と判断され、高品質は1件、低品質は2件該当した。

昼寝の実態と、身体的・認知的パフォーマンス、メンタル、夜間の睡眠との関連

アスリートの昼寝の実態

昼寝をする習慣のあるアスリートの割合は、研究により11~100%の範囲に分布していた。昼寝にあてる時間は6~120分の範囲であり、トレーニング日は平均43±28分、試合日は44±24分とほぼ同等だったが、休息日は平均6±10分とかなり短かった。

昼寝をするタイミングに関して調査していた研究は3件(8.1%)のみであり、一貫した傾向はみられなかった。

少なくとも一つ以上の要素について、昼寝の影響を検討していた研究は、17件(45.9%)だった。以下はその抜粋。

物理的パフォーマンス

9件(24.7%)の研究は、物理的パフォーマンスに対して昼寝にプラスの効果があることを報告し、5件(13.5%)の研究は昼寝の物理的パフォーマンスに対する影響は認められないとしていた。昼寝が物理的パフォーマンスにマイナスの影響を与えると結論付けた研究も2件(5.4%)存在した。

いくつかの研究報告をピックアップすると、例えば、サッカー、ラグビー、ハンドボールのアスリートに、昼寝なし、40分の昼寝、90分の昼寝という条件で比較した研究では、昼寝をする後二者の条件のほうが、等尺性収縮力などが優れ、かつ、40分の昼寝より90分の昼寝のほうが優れていた。

また、睡眠時間を3.0~4.5時間に制限した複数の研究からは、昼寝が身体的パフォーマンスに一貫してプラスの効果をもたらすことが明らかになった。それらの研究では、握力、ベンチプレス、ウェイトリフティング、消耗に至るまでの時間などで有意差が観察されていた。

まとめると、昼寝の身体的パフォーマンスのメリットは、十分に休息しているアスリートではなく、睡眠が制限されているアスリートで大きかった。短い昼寝(~20分)も身体的パフォーマンスのメリットを示すが、長い昼寝(~90分)はより多くのメリットをもたらす可能性がある。

その他の影響

認知的パフォーマンス

5件(13.5%)の研究が昼寝の認知的パフォーマンスへの影響を評価しており、そのうち4件はプラスの影響を報告し、1件は有意な影響はないとしていた。昼寝のメリットは、空手選手の視覚反応時間、下腿反応時間などで報告されており、まとめると、昼寝は視覚反応時間や注意力などを改善し、一方、聴覚反応時間には有意な影響がみられなかった。

疲労感や筋肉痛

主観的疲労感への影響を検討した5件の研究のうち4件は、昼寝の有意なプラス効果を報告していた。2件の研究では、昼寝後の筋肉痛を調べており、1件は遅発性筋肉痛に対し昼寝が抑制的に働く可能性を示唆していた。ボルグスケールによる自覚的運動強度を評価した4件の研究はすべて昼寝のメリットを示し、とくに睡眠が制限された条件下で明らかだった。

13時~16時に20~90分の昼寝を

これらのほかに、眠気に対して昼寝が有効とする研究が4件、注意力に対しては2件が有効、1件が有意な影響なし、メンタルヘルスに対しては有効とするものと有意でないとするものが4件ずつみられた。ただし、睡眠が制限されている条件で施行された研究では、ほぼすべて昼寝の有効性が示されていた。

一方、夜間の睡眠に対しては、プラスの影響、マイナスの影響、影響なしとの報告が各1件ずつ存在し、一貫した結論に至らなかった。45分以上の昼寝は夜間の睡眠潜時(就床後に寝付くまでの所要時間)を延ばす可能性も認められた。

結論として、「昼寝はアスリートにおいて一般的な習慣であることがわかった。また、昼寝はアスリートの夜間の睡眠を補う機会となっており、パフォーマンスに有益である可能性が示された。このレビューからは、アスリートが13時~16時の間に20~90分の昼寝をすべきであることが示唆された」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「To Nap or Not to Nap? A Systematic Review Evaluating Napping Behavior in Athletes and the Impact on Various Measures of Athletic Performance」。〔Nat Sci Sleep. 2021 Jun 24;13:841-862〕
原文はこちら(Dove Press)

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