腸内細菌に栄養を! アスリートの食事、運動、腸内細菌叢の相互作用のレビュー
アスリートの食事、運動、腸内細菌叢の相互作用に関するレビュー論文が、米国栄養学会の「Advances in Nutrition」に掲載された。腸内細菌叢は近年、栄養学や生理学、医学など多くの領域における注目のトピックであり、新たな研究結果が次々と報告されている。本論文はそれらの最新の知見をまとめたもので、アスリートがパフォーマンスを最大化するには、腸内細菌叢への栄養を考慮すべきと述べている。さまざまな角度から考察されている長文の論文の中から、部分的に要旨をピックアップして紹介する。
イントロダクション
スポーツ栄養は、アスリートの脳、骨、筋肉、心血管系が適切な栄養素を得て最高のパフォーマンスを発揮できるようにするためのツールとして、長年研究が重ねられ実践に適用されてきた。しかし最近の研究の進歩により、栄養が腸内細菌を介してパフォーマンスに影響を与える可能性があることが示唆されている。「腸内の微生物に栄養を供給する」ことも、スポーツ栄養の戦略と見なされるべきだろう。
腸内細菌叢に対する食事とスポーツの影響
一般住民対象コホート研究からは、腸内細菌叢と身体活動、とくに激しい身体活動と運動との相関関係が実証されている。スポーツと腸内細菌叢との相互作用を考える際には、「身体活動」と「運動」を区別することが重要となる。身体活動は、エネルギー消費の生じる体の動きであり、運動は身体活動の中でも計画的、構造的、反復的な動きを含み、体力の維持・改善を目的とするものだ。腸内細菌叢に対するスポーツの影響や、アスリートの健康とパフォーマンスにおける腸内細菌叢の役割を検討する場合、「運動」がより正確なターゲットとなる。
例えば、心肺運動は腸内細菌叢の組成に対して即時的な変化を誘発するという報告がある。ただし、一方で抵抗運動にはそのような作用はみられないという。これは、運動の種類によって活性化される代謝経路が異なることによるものである可能性がある。
腸に対するスポーツの影響
運動は腸内細菌叢に影響を与えるだけでなく、消化管の生理機能にも影響を与える。その影響は通常は有益だが、適切な休息、栄養、抗酸化活性によってサポートされていない場合、有害になる可能性がある。消化管への血流減少、低酸素症、アデノシン三リン酸(ATP)の枯渇、酸化ストレスによって、腸粘膜のバリアが傷害され透過性亢進、内毒素血症、栄養素の枯渇、炎症を生じる。定期的な運動は腸の血流を維持し炎症を軽減するための適応を促進するが、回復も適切でなければならない。
消化管の問題はとくに持久系アスリートでよくみられ、30~50%が消化器症状を経験するとされる。その一方で、長距離以外のアスリートの消化器症状が評価されることはほとんどない。
腸上皮は代謝回転が速く(3~5日)、大量のエネルギーと栄養素を必要とする。適切なエネルギーを補給せずに高強度で長期間トレーニングするアスリートは、腸機能の障害と消化管症状発現のリスクがある。また腸内細菌叢の組成は、運動後の代謝および全身ストレスのバイオマーカーとして使用できる。例えば一過性の運動により糞便中のアンモニアとアミノ酸が増加すると報告されている。
スポーツと腸のための食事戦略
論文ではこれ以降、「スポーツと腸のための食事戦略」として、タンパク質、脂質、炭水化物・食物繊維、プレバイオティクス、プロバイオティクス、シンバイオティクス、微量栄養素、特定の食品の摂取回避、摂取エネルギー量、水分補給、スポーツサプリメントを取り上げ、現時点のエビデンスと今後の可能性を考察。そのうえで、以下のように結論をまとめている。
- 食事と運動は、基質の利用可能性と消化管環境の生理学的変化を介して腸内細菌叢の組成と機能に影響を与える。
- 高タンパク質、炭水化物負荷、FODMAP※制限などのスポーツのための食事戦略、およびプロ・プレ・シンバイオティクスなどの腸管をターゲットとした食事戦略はすべて、腸内細菌叢とスポーツパフォーマンスの双方に影響を与え得る。
- 高タンパク食とタンパク質サプリメントは、腸内細菌叢の組成よりも微生物代謝物に大きな影響を及ぼす。腸内細菌叢は、タンパク質の吸収と利用を調節することにより、筋タンパク質の同化作用と機能に寄与する可能性がある。
- 高脂肪食および飽和脂肪の摂取は、炎症性腸内細菌叢の組成に関連しているが、ω-3脂肪酸は短鎖脂肪酸(SCFA)産生を促進する。これらがスポーツパフォーマンスに及ぼす影響は決定的なものではない。
- 食物繊維の摂取を減らして消化性の高い炭水化物を摂取すると、腸内細菌叢に悪影響を及ぼす。反対に食物繊維から腸内細菌叢によって生成されるSCFAは、筋肉機能と正の関連がある。
- プロ・プレ・シンバイオティクスは腸内細菌叢を変化させ、運動能力と回復にプラスの影響を与える可能性がある。菌株、用量、およびその他の個々の要因の変動により、これらの腸管をターゲットとした食事戦略のエルゴジェニック効果を評価することは困難。
- 腸内細菌叢は、カルシウムなどの特定の微量栄養素の吸収に影響を与える。これらの微量栄養素は、骨代謝などアスリートの健康とパフォーマンスの側面に重要。
- FODMAPやグルテンなどの特定の食品または食品グループの短期間の回避、または運動前の回避が、一部の人に有効な場合がある。ただしこれらの戦略が腸内細菌叢およびパフォーマンスに及ぼす長期的な影響は不明。
- エネルギーの不足または過剰は、双方ともに腸内細菌叢に影響を及ぼす。腸内細菌叢および微生物叢ベースの治療法は、消化管症状や骨密度の低下などの有害事象を軽減するのに役立つ可能性がある。
- 脱水状態は腸内細菌叢に影響を与え、また腸内細菌叢への影響の現われでもある便秘といった消化器症状に関連している。ただし、水分やスポーツドリンクの摂取が腸内細菌叢に及ぼす影響についてのエビデンスは限られている。
- スポーツサプリメントは、エルゴジェニック効果のために使用されているが、腸内細菌叢への影響は不明であり、さらなる研究が必要。
文献情報
原題のタイトルは、「Fueling Gut Microbes: A Review of the Interaction between Diet, Exercise, and the Gut Microbiota in Athletes」。〔Adv Nutr. 2021 Jul 6;nmab077〕
原文はこちら(Oxford University Press)