身体活動が不足している日本人の社会経済的状況の特徴は? NIPPON DATA2010の解析
日本人の身体活動量に影響する因子として、仕事をもち働いているか否かと、配偶者と同居しているか否かが重要であることが報告された。同志社大学大学院スポーツ健康科学研究科の栁田昌彦氏らが、国内の大規模疫学研究「NIPPON DATA2010」のデータを解析した結果であり、詳細は「PLOS ONE」に7月15日掲載された。
生活習慣病は個人の責任?
少し前まで、食べ過ぎや飲み過ぎなどの身体に良くない食習慣を続けている人は、その人の考え方に問題があるのであって、その結果として生じる生活習慣病は個人の責任だとする傾向があった。しかし実際には、家庭環境や就労環境などのために、からだに負担となる生活習慣を強いられている人が少なくなく、生活習慣病の発症や増悪には社会経済的因子が強く関与していることが明らかになり、このような捉え方を改める機運が高まっている。
食生活ばかりでなく、身体活動量が少ないという習慣も社会経済的状況と関連があることが海外から報告されている。ただし日本人対象の研究は多くはない。また国内の研究は研究対象者数が少なかったり、属性に偏りがあるため、結果に一貫性が見られない。そこで栁田氏らは、「NIPPON DATA2010」のデータを用いて詳細な検討を行った。「NIPPON DATA」は1980年に滋賀医科大学公衆衛生学部門が中心となってスタートした、日本で代表的な大規模コホート研究の一つで、信頼性の高い研究として知られている。
国民健康・栄養調査に参加した20~89歳、約2,600人のデータを解析
全国300地区から登録された8,815人から、今回の研究では、90歳以上の人や健康上の理由のため運動不能な人、解析に必要なデータが欠落している人を除外し、2,609人(男性43.4%)を解析対象とした。
身体活動指数(PAI)の三分位で群分け
身体活動量の評価には、大規模疫学研究の嚆矢と言える米国のフラミンガム研究で採用された「身体活動指数(physical activity index;PAI)」を用いた。
このPAIの算出には、身体活動に費やした時間を、各強度別身体活動に対応する酸素消費量の重みづけ係数と乗算した。係数は、激しい活動(ジョギングや肉体労働など)では5.0、中等度の活動(家事、ウォーキングなど)は2.4、わずかな活動(座位での仕事、車の運転、食事、入浴など)は1.5、座位行動(テレビの視聴や読書など)は1.1、非活動(臥位)は1.0。
本研究では対象全体を、性別および年齢階級(20~59歳と60~89歳)ごとにPAIの三分位で3群に分け、それぞれの第1三分位群を「身体不活動」と定義した。なお、年齢階級を60歳で分けたのは、職を離れて生活習慣が大きく変わりやすい年齢が60歳のことが多いと考えられるため。実際に本研究において、60歳未満では男性の6.1%、女性の35.3%が非就労者であるのに対して、60歳以上ではその割合が同順に55.0%、76.6%と大きく異なった。また、60歳未満の男性の72.2%、女性の76.0%が配偶者と同居しており、60歳以上でのその割合は84.6%、65.5%だった。
PAIとの関連を検討した社会経済的因子とその他の因子
社会経済的状況については、就労の有無、教育歴、同居する配偶者の有無、ひと月あたりの世帯支出、自宅所有権(持ち家か賃貸か)などについて評価した。世帯支出に関しては、三分位で群分けしたところ、第1三分位群は10万6,000円未満、第2三分位群は10万6,000円以上16万2,000円未満、第3三分位群は16万2,000円以上だった。
これらのほかにも、飲酒・喫煙習慣、心筋梗塞・脳卒中の既往についてもPAIとの関連を検討した。
就労の有無、配偶者の同居か否かがポイント
では結果をみていこう。
まず、対象者の就業状況や配偶者との同居については前述のとおり、60歳未満では男性、女性ともに就労者が多く、60歳以上では少なかった。配偶者との同居の有無も前述のとおりであり、60歳以上の女性では同居している割合がやや低かった。
学歴については、60歳未満では約半数(男性48.1%、女性51.7%)が大学卒業で、60歳以上は男女ともに高校卒または中学卒が多数だった。
PAIは男性30代、女性は40代が最も高く、年齢階級が上がるほど下がる
PAIと年齢との関係をみると、最も高いのは、男性は30~39歳で中央値38.6、女性は40~49歳で38.0だった。年齢階級層が上がるほどPAIが低下し、80~89歳では男性30.8、女性32.9だった。
PAIに影響を及ぼし得る因子(年齢、飲酒・喫煙習慣、心筋梗塞・脳卒中の既往、教育歴、世帯支出など前記の因子のすべて)を調整した多変量ロジスティック回帰分析により、身体不活動(PAIの第1三分位群)に該当することに有意に関連する因子を検討した。
就労していないと年齢・性別を問わず、身体不活動のオッズ比が有意に高い
その結果、60歳未満/以上、および男性/女性で分類した4グループのすべてにおいて、就労していないことが身体不活動に該当することと有意に関連していた。
就労している人を基準とすると、60歳未満の男性はOR3.38(95%CI;1.43~7.99)、60歳以上の男性はOR2.17(1.51~3.14)、60歳未満の女性でOR1.46(1.04~2.04)、60歳以上の女性でOR1.72(同1.15~2.57)だった。
配偶者の同居か否かは、年齢・性別により関連性が異なる
配偶者との同居か否かも、身体不活動と有意な関連がみられた。ただし、年齢と性別により関連の有無が異なっていた。
60歳以上の男性は配偶者と同居していない場合に身体不活動のOR1.63(1.03~2.56)と有意な関連があったが、60歳未満の男性はOR0.81(0.49~1.34)であり、関連は有意でなかった。
一方、60歳未満の女性は配偶者と同居していない場合に身体不活動のOR2.01(1.37~2.94)と有意な関連があり、60歳未満の女性はOR01.31(0.92~1.87)であり、関連は有意でなかった。
日本と海外の相違に留意した政策立案が求められる
その他の検討項目の教育歴や世帯支出については、身体不活動か否かとは関連がなかった。この点について著者らは、「海外からの報告では、学歴が短いことや世帯収入が少ないことが身体不活動と関連しているとの報告が多い。しかし本研究の結果から、日本ではそれらの影響は小さい可能性がある」と述べている。
結論として、「日本人の身体不活動を解消する施策において、介入すべき対象の特定に際しては、就業状況と家族構成に焦点をあてる必要があるのではないか」とまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Association between socioeconomic status and physical inactivity in a general Japanese population: NIPPON DATA2010」。〔PLoS One. 2021 Jul 15;16(7):e0254706〕
原文はこちら(PLOS)