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栄養士のアドバイスをアスリートやコーチはどう理解しているのか? 構造化インタビューで調査

栄養士がアスリートやコーチに対して、利用可能エネルギーを満たすようアドバイスをした場合に、アスリートやコーチがどのように解釈し行動変容するのかしないのかを、半構造化インタビューで調査した、アイルランドでの研究結果が報告された。研究の結果から、摂取すべき量は言葉ではなく視覚で伝えること、アドバイスとパフォーマンスの結果を結び付けて伝えることなど、いくつかの推奨事項を導き出している。

栄養士のアドバイスをアスリートやコーチはどう理解しているのか? 構造化インタビューで調査

推奨される摂取量を満たすというアドバイスの受け止め方を調査

利用可能エネルギーが少ない状態が続くと、生理学的適応が生じて長期的な健康やスポーツパフォーマンスへの悪影響が懸念される。利用可能エネルギー不足(Low Energy Availability;LEA)や、スポーツにおける相対的エネルギー不足(Relative Energy Deficiency in Sport;RED-S)は性別を問わず発生することが知られている。これには、アスリートに対する栄養指導の機会が不十分である場合に加え、アスリートの周囲の人間、例えば家族や他のアスリートやコーチからの期待やプレッシャーが関与していることがあり、対策が必要とされる。ただし、アスリートやコーチのLEAやRED-Sに対する認識と、それに対する栄養学的アドバイスの反応を調査した研究は少ないことから、本論文の著者らは、半構造化インタビューによる検討を行った。

半構造化インタビューの方法

インタビュー参加者は、アイルランドにおけるスポーツの統合的な組織である「Sport Ireland」の支援を受けている競技団体に連絡を取り、アスリートとコーチに対し本調査について通知を依頼。以下の適格条件を満たすアスリートとコーチを募集した。

  • (1)スポーツ栄養士から、より多くのエネルギーを摂取するようにアドバイスされているアスリート
  • (2)より多くのエネルギーを摂取するようにアドバイスされているアスリートのコーチ

インタビューに要した時間は約20分。質問内容の作成に際しては、当初の案を最終的な解析対象に含まれていない2名のコーチに実施し、「所要時間を短縮する必要がある」との指摘によって2問削除した。削除によって収集される情報に実質的な影響は生じなかった。新型コロナウイルス感染症感染防止のための社会的距離を確保するため、すべてZoomを介して行われた。

主な質問内容は、回答者の人口統計学的因子のほか、スポーツ/コーチングの種類、1週間にトレーニング/コーチングに費やす時間、エネルギー摂取量を増やすことの認識(具体的には、理解度、受け止め方、より多く食べることの長所と短所)、行動の変化(アドバイスに対する認識の変化)など。

適切なエネルギー摂取のメリットと課題

インタビューの回答者は、アスリート9名(女性6名、男性3名)、コーチ9名(女性3名、男性6名)であり、すべて国際大会に参加しているエリートレベルで活動していた。

アスリートは26±3歳でトレーニング時間は27±7時間/週、競技種目はボートが4名、近代5種が2名、陸上、ボクシング、柔道が各1名。コーチのコーチング時間は16±10時間/週で、競技種目は水泳と陸上が各3名、自転車、ボート、クリケットが各1名。

適切なエネルギー摂取のメリット

アドバイスにそって適切なエネルギー量を摂取することについて、6名のコーチと2名のアスリートが、トレーニングの一貫性が向上し、パフォーマンスが向上することを確認したと回答した。また、4名のアスリートと3名のコーチは免疫能に着目し、適切なエネルギー量摂取によるパフォーマンス向上につながるもう一つのメリットとして、怪我や疾患の再発が減ったことを挙げた。

あるアスリートは、「気分が良くなり、状態は良好になった。免疫能は極めて良好に感じられ、ほとんど病気にかからなくなった。また、明らかにパフォーマンスにも大きな影響を与えた」と語り、あるコーチは、「メンバーの誰かが常に病気にかかっているような状態は大きな問題だ。個々のアスリートにとっても風邪やインフルエンザなどのためにトレーニングを中断しなければならなくなり、それが上達の壁になることがある」と語った。

適切なエネルギー摂取の課題

5名のコーチと5名のアスリートは、適切なエネルギー量を摂取するには、その食事の準備に要する時間管理が課題となると回答した。また、経済的負担を挙げる声もあった。

あるコーチは、「食事を提供するスキルと予算がないことが障壁だ」とし、またアスリートからは、「アドバイスされた量を食べるのは非常に難しい。自分で作るのではなく用意されているとしても、何回かに分けなくては食べきれない」という声もあった。

また、適切なエネルギー量を摂取することには、体重が増えるリスクを伴うという指摘もみられた。あるアスリートは、「体重を増やすことについては懐疑的だ。実際に体重は増え、まだ痩せてはいたものの、それ以上食べる必要はないのではないか、食べ過ぎてはないかと不安を感じた」と述べていた。

メッセージの伝え方と実践的適用

スポーツ栄養士からのアドバイスの方法に対する提案もあった。

あるコーチは、「もっと食べるようにと助言されたとしても、アスリートは食べるべき分量を彼ら自身で判断できるとは限らないと思う。指示した量が、実際にどのように見えるのかをもう少し視覚的に伝える工夫が必要」と語った。

また、アスリートからは摂取すべき食事の量について、組織的な一貫性の不備を指摘する声があった。

「コーチは、スキンフォールド(皮下脂肪厚計)の値を見て困惑していた。我々のトレーニングのために必要な摂取量を、彼は理解していないのだと思う。コーチは我々全員が少し食べ過ぎていると思っていたのではないか」というアスリートの回答があり、別のアスリートも「我々が1日に5,000kcalを食べる必要があることを、コーチは理解はしているのだと思うが、あまり気に入っていないようだ」と答えていた。

これらのまとめとして著者は、以下の4項目を実践的な適用として掲げ、検討すべきと述べている。

  1. 健康とパフォーマンス促進のために摂取すべき量を示すときは、言葉ではなく視覚に訴える方法を用いる
  2. より頻繁に(たとえば、最初は2週間ごとに)アスリートにインタビューして信頼関係を築き、フィードバックを求めて、適切なエネルギー量摂取に対するアスリート個々のニーズをよりよく理解し、意思決定を共有する
  3. 栄養アドバイスをパフォーマンスの結果に関連付ける。例えば、トレーニングや競技会でのより良い結果など、短期および長期のパフォーマンス目標の達成における栄養の役割を強調する。つまり、アスリートが日常的に一貫したトレーニングを行えるように支持する
  4. アスリートやコーチ、チームの他のメンバー、例えば理学療法やメディカルのスタッフを含めて行うセミナーは、協調的アプローチを強化し、メッセージの伝達性の向上に役立つことがある

文献情報

原題のタイトルは、「Athletes’ and Coaches’ Perceptions of Nutritional Advice: Eating More Food for Health and Performance」。〔Nutrients. 2021 Jun 3;13(6):1925〕
原文はこちら(MDPI)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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