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月経サイクルにあわせた栄養介入でパフォーマンス向上・脱水や筋肉痛を抑制 文献レビュー

女性アスリートの月経サイクルを考慮に入れた栄養介入により、パフォーマンスが向上し、脱水リスクや筋肉痛などのダメージを抑制できるとする、文献レビューに基づく考察をまとめた論文が発表された。「International journal of environmental research and public health」誌の女性の生理学と身体能力に関する特集号に掲載された研究報告。

月経サイクルにあわせた栄養介入でパフォーマンス向上・脱水や筋肉痛を抑制 文献レビュー

4割の女性がトレーニングやパフォーマンスに月経周期からの悪影響を受けている

女性アスリートのパフォーマンスが月経の影響を受けることは古くから知られている。その理由は、例えば体温変動の影響であったり、発汗や体液量の変化とそれに伴う脱水傾向、電解質レベルの変化、鉄の状態の変化など多岐にわたると考えられる。日常的にスポーツを行っている女性の4割が、月経サイクルによってトレーニングやパフォーマンスへの悪影響が生じているとする研究報告もみられる。

特定の月経フェーズではなく、月経サイクル全体の変化を検討した研究は少ない

女性アスリートに対する何らかの介入研究を行う際には、このような月経サイクルの影響を考慮して、月経フェーズが一致するように研究条件を設定することか多い。逆に言えば、特定の月経フェーズでなく、月経サイクル全体を対象として女性アスリートのパフォーマンス等の変化を検討した研究は少ない。本研究の著者らは、これまでに報告されている月経と栄養介入の関連についての研究の文献検索によって、この点を明らかにすることを試みた。

文献検索の方法について

PubMed、Medline、Google Scholarを用い、活動的な女性に対する水分補給、ビタミン等の微量栄養素の介入、および食事による生物活性化合物の摂取の影響を調査した、2011~2021年の研究報告を検索した。検索キーワードとして、女性アスリート、運動パフォーマンス、月経周期、卵胞期、体液バランス、脱水、水分補給、電解質、鉄、カルシウム、微量栄養素、ビタミン、ミネラル、食事性生物活性化合物、ポリフェノール、フラボノイド、ω酸脂肪酸、栄養補助食品、ハーブなどを設定した。

ヒットした1,443件をタイトルと抄録によってスクリーニングし198件に絞り込み、全文スクリーニングにより最終的に23件を抽出した。なお、除外基準はヒト以外での研究、生殖年齢以外の女性対象の研究、慢性疾患を有する対象者の研究、対象者が非活動的な人の研究など。

23件の報告からのナラティブレビュー

23件のうち22件はランダム化された研究で、19件は1つ以上の対照群が置かれていた。論文ではこれ以降、水分補給介入、微量栄養素による介入、ω3脂肪酸と植物性化合物ベースのサプリメントによる介入という3つのカテゴリーに分けて考察を加えている。

水分補給介入

10カ国から11件の研究が報告されていた。うち9件は卵胞期、1件は黄体期、別の1件は異なる2つの月経フェーズでの検討だった。

2つの月経フェーズで行った研究では、市販の炭水化物と電解質を含む飲料を用いて、卵胞期後期と黄体期中期の水分補給戦略を評価していた。黄体期中期では体液貯留が3.5%増加したが、電解質バランスに有意な影響を与えなかった。

黄体期での研究では、サッカー固有のスキルに対する水分摂取の影響を検討していた。水分摂取は非水和条件に比較し自覚的運動強度を86%に低下させ、乳酸レベルを51%抑制した。しかし、サッカーのパフォーマンスについては有意な向上を認めなかった。

卵胞期に行われた9件の研究の中の1つは、炭水化物のマウスリンスの影響を検討していた。5秒間の炭水化物のマウスリンスはレクリエーションランナーの持久力を有意に改善せず、60分間の走行距離は1.6%増加にとどまった。それに対して持久力トレーニングを行っていない対象での検討では5秒間の炭水化物マウスリンスにより、75%VO2peakでの65分の運動で自覚的運動強度が約12%低下していた。

このほかの卵胞期での研究では、中程度からハイレベルの持久力のあるアスリートを対象とした研究で、深海のミネラルウォーターが市販の炭水化物ベースの飲料や通常の水よりも唾液浸透圧の回復が速いという報告や、経験豊富なレクリエーションランナー対象の研究で、炭水化物と電解質溶液の摂取により、ランニングタイムがそれぞれ16%、3.7%向上したといった報告がみられた。

微量栄養素による介入

微量栄養素の介入研究は、日本と米国から報告されていた。

米国での研究では鉄欠乏性貧血状態にあるボート競技アスリート対象に鉄補給の効果が検討され、エネルギー代謝効率の向上が示された。月経フェーズによる変化は認められなかった。

日本での研究ではサイクリストに対するカルシウムベースの介入が行われ、10分間のタイムトライアルに変化を与えなかった。しかし、運動誘発性骨吸収マーカーの有意な抑制が認められた。

ω3脂肪酸と植物性化合物ベースのサプリメントによる介入

植物性化合物ベースサプリメントの介入研究が9件存在した。卵胞期での研究が3件、黄体期での研究が3件で、他に複数の月経フェーズで検討した研究も存在した。

4件はカフェインを利用しており、卵胞期の初期と後期の双方でハーフスクワットの平均速度の有意な上昇を報告した研究もあった。ただし、黄体期中期ではカフェインのエルゴジェニック効果は有意でないという。別の研究では、卵胞期初期、排卵前期、および黄体中期のすべてで、カフェイン摂取によるサイクリングパフォーマンスの有意な上昇を報告していた。

このほか、ビターオレンジ(ダイダイ)に含まれるシネフリンや、アントシアニン、ビート根ジュースなどでの介入結果が報告されていた。

著者はこれらの報告の全体的な傾向として、本質的に単一の月経フェーズで完了するパフォーマンステストからの知見に制限されるとし、月経サイクルによりホルモンの変動があるため、ある月経フェーズでの栄養介入の効果が別のフェーズでも同様に認められるとは限らない可能性があると述べている。その上で、「水分補給や微量栄養素等の摂取によって、有酸素能力、筋力の向上や、運動にともなう脱水、筋損傷、骨代謝への影響のリスク抑制が期待できることが明らかになった」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Impact of Nutrition-Based Interventions on Athletic Performance during Menstrual Cycle Phases: A Review」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 Jun 10;18(12):6294〕
原文はこちら(MDPI)

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