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「食品リテラシー」とは? 用語定義のコンセンサスはあるか、スコーピングレビューで考察

2021年08月05日

「食品リテラシー」という言葉を見聞きする機会が増えている。「摂取する食品を選択する際の情報識別力」といった意味で使われることの多い言葉だと考えられるが、本当にそうだろうか。自分以外の人、ほかの研究領域やほかの国では意味が違っていたり、もっと別の意味を含んでいたりする可能性はないだろうか。というのも、「食品リテラシー」という言葉の定義が明確になっていないためだ。

「食品リテラシー」とは? 用語定義のコンセンサスはあるか、スコーピングレビューで考察

「食品リテラシー」に触れている論文の8割超は直近5年間に公表されたもの

このような状況を背景に、現在、「食品リテラシー」という言葉がどの程度使われているのか、どのように使われているのかを検討したスコーピングレビューの結果が発表された。それによると、これまで「食品リテラシー」という言葉が使われた学術論文の83%は直近の5年間に公表された論文で占めているという。食品リテラシーは、最近になって急速に注目され始めたようだ。

すでに数十種類の定義が提案されている

これまでにも食品リテラシーを定義づける試みはなされてきた。例えば、現在までに38種類の定義が提案されているとする報告がある。それらは一貫性が確保されておらず、この領域の調査研究の阻害要因となっていることが指摘されている。食品リテラシーの評価法を国際的に標準化する試みも始まっているが、多難である状況が報告されている。

関連ページ:食品リテラシーの評価法の国際的標準化 その開発の状況

既報論文を基に食品リテラシーの定義付けを試みた研究も報告されている。ただし、それらの研究では、報告された国、期間、概念、研究領域などを限定したうえでレビューを行っており、食品リテラシーという用語の使われ方の全体像は明らかになっていない。それに対して本論文の著者らは、査読システムのあるジャーナルに掲載され、食品リテラシーという用語が使われている論文や記事であれば、文脈等にかかわらず解析対象とするスコーピングレビューを行った。

「食品リテラシー」のみをキーワードとして検索

このスコーピングレビューは、システマティックレビューとメタ解析の優先報告で示されているスコーピングレビューのガイドライン(PRISMA-ScR)に則して実施された。PubMed、Science Direct、Embase、Scopus、EBSCO、ProQuest、GoogleScholarという7件の文献データベースを用い、査読のあるジャーナルに掲載され食品リテラシーという用語を用いている2019年12月31日までに発表された論文や記事を検索。検索キーワードは「食品リテラシー」のみで、発表の時期は問わなかった。

3,361報がヒットし重複や英語以外の論文や記事、書籍などを除外し2,086報をタイトルと抄録に基づきスクリーニングし、1,046報を抽出。それらについては全文を精査し、最終的に549報を解析対象とした。

解析では、抽出された論文や記事の筆頭著者の所属する国、その国の国民所得、論文や記事が発表された年、論文や記事の形式を特定。また、食品リテラシーという用語の使用頻度に基づき、著者のこの用語への認識の程度を以下の1~3の3段階に分類した。

  1. 弱い認識:さまざまな文脈で食品リテラシーという用語をまれに一貫性なく使用している論文や記事
  2. 中程度の認識:食品リテラシーという用語をある程度頻繁に一貫して使用している論文や記事
  3. 深い認識:食品リテラシーという用語を関連する文脈の中で頻繁かつ一貫して使用している論文や記事

「食品リテラシー」という用語の使用頻度

論文や記事内での「食品リテラシー」の使用頻度は1~189の範囲にあり中央値は2と、大きく偏っていた。549報中243報(44%)は1回のみ使用し、160報(29%)は2~5回使用していた。

著者の食品リテラシーという用語への認識が弱いと判断されたのは、この用語を1~5回使用していた403報(73%)、中程度の認識と判断されたのは6~43回使用していた101報(18%)、深い認識と判断されたのは44回以上使用していた45報(8%)だった。

論文や記事は全大陸、41カ国から報告されていた。筆頭著者の所属国で最も多いのはオーストラリア(127報)で、カナダ(116報)、米国(112報)、英国(37報)、イタリア(18報)が続いた。筆頭著者の所属国を国民所得で分類すると、高所得国(25カ国)が多く、上位中所得国(11カ国)、低位中所得国(5カ国)と続き、低所得国からの報告はなかった。

論文・記事のスタイルは、原著論文が429報(78%)と大半を占め、他は総説が32報(6%)、オピニオンが27報(5%)、短報18報(3%)、ケーススタディ10報(2%)、分類不能33報(6%)だった。

食品リテラシーという用語を用いている論文や記事が掲載されたジャーナルは、研究業績の評価サイトである「In Cites」にある235領域のうち72領域のジャーナルに及んでいた。これらには、農業、ビジネス、医学、経済学、教育、環境科学、地理学、ホスピタリティ、心理学/精神医学、社会学、スポーツ科学が含まれていた。全体としては「公衆衛生、環境および労働衛生」、「栄養および食事療法」などの領域で頻繁に利用されており、具体的なジャーナル名では、「Nutrients」(27報)、「Public Health Nutrition」(16報)、「Appetite」(16報)、「Canadian Journal of Dietetic Practice and Research」(15報)、「Journal of Nutrition Education and Behavior」(14報)などが多かった。

「食品リテラシー」という用語を使用した論文・記事は、最近になるほど増加しており、全体の83%は本研究のための検索が行われた直近の5年間(2015~2019年)に集中していた。

「食品リテラシー」の定義

全体の15%にあたる82報は、「食品リテラシー」という用語を論文や記事のタイトルに使用していた。これら82報で、合計51の異なる定義が引用されていた。

最も多く引用されていた定義は、VidgenとGallegosによる2014年に発表された論文で、66報(41%)だった。2番目はCullenらの2015年の論文で12報(7%)、続いてKolasaらの2001年の論文が7報(4%)、Verladoの2015年の論文が5報(3%)であり、その他の33の定義はそれぞれ1報のみに引用されていた。

被引用回数の多い上位4論文の定義のうち、食品スキルの全般的な定義に必要と考えられる、行動や食品の選択、文化、食品システムなど6領域すべてに対応しているものはなかった。

以上の解析の結論として、「食品リテラシーという用語は定義があいまいなまま、時間の経過とともに多くの研究領域で頻繁に用いられるようになった。この分野の研究を進めていくにあたり、国際的に標準化された定義に関するコンセンサスが必要である」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Are We Closer to International Consensus on the Term ‘Food Literacy’? A Systematic Scoping Review of Its Use in the Academic Literature (1998–2019)」。〔Nutrients. 2021 Jun 10;13(6):2006〕
原文はこちら(MDPI)

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