食品リテラシーの評価法の国際的標準化 その開発の状況
国際的に標準化された食品リテラシーの評価法の開発の試みが進められている。その現状が先ごろ報告された。この領域の専門家の意見をデルファイ法で集約し、現段階で119項目のコンセンサスが得られているという。
提唱されている食品リテラシーの定義は38種類に及ぶ
「食品リテラシー」という用語は、食品に対するニーズを満たすために必要な知識、スキル、行動を表す用語として使用されている。2001年に最初の定義が論文として公表され、され以降にさまざまな定義が提唱されてきており、その数は38種類に及ぶ。
一般に食品リテラシーは、計画・管理、食材の選択、準備、および食事という四つの段階(領域)に分類されるが、その詳細は各定義が提唱された社会文化的背景の違いや研究者の考え方によって大きく異なる。食品リテラシーに関する研究の発展と国際比較のためには、何らかの統一された定義、評価ツールがあることが望ましい。
本論文の著者らは、食品リテラシーの定義と評価ツールのコンセンサスを得ることを目的として、以下の検討を進めている。
3段階のステップを経て意見を集約
この作業は、三つのステップで構成されている。
まず最初に、専門家のコンセンサスのための提案として、アイテムプールを生成するための文献検索が行われた。その後、専門家のコンセンサスを得るためのデルファイ法(意見を集約するためにステートメントの候補を作成したうえで、合意と再検討を繰り返す手法)が2ラウンドに分けて行われた。最初のラウンドでは、食品リテラシー指標の開発に携わった研究者が参加。2回目は、「食品リテラシー」という用語を使用した論文の著者らが参加した。
ステップ1:4領域、11種類、229項目のアイテムプールを生成
文献検索では、次のコンテンツ検証プロセスの基礎とするため、最終的な検討に必要とされる項目より多くのアイテムをプールすることを目的に実施され、4領域、11種類、229項目のアイテムが抽出された。主な領域と種類は、以下のとおり。
領域1. 食事の計画と管理
食品とコスト、時間の優先について(20項目)、定期的に食物にアクセスできるように食物摂取を計画する(15項目)、食料の必要性(栄養、味、飢餓)と利用可能な資源(時間、コスト、技能、設備)のバランスをとる(28項目)
領域2. 食品の選択
複数のソースから食品にアクセスし、長所と短所を理解する(16項目)、食品に何が含まれているか、産地はどこか、どのように保管し使用するかを決定する(21項目)、食品の品質を判断する(17項目)
領域3. 食事の準備
入手可能なものからおいしい食事を作るスキル(27項目)、安全な食品衛生と取り扱いの基本原則を理解する(32項目)
領域4. 食事を摂る
食品が個人の幸福に影響を与えることを理解する(15項目)、食物摂取のバランスに個人差があることの認識(15項目)、社交的な環境での食事(15項目)
ステップ2:食品リテラシー指標の開発者により、151項目に絞り込み
ステップ2のラウンド1には、これまでに食品リテラシー指標を開発し報告したことのある研究者29名が招待され、18名(62%)が参加した。国別の内訳は、カナダが6名、オーストラリア5名、オランダ4名、イタリア3名。
一定の関連性ありと評価した参加者が71%を上回った場合(content validity index;CVIが71%以上)に、その項目はラウンド2の検討項目として採用された。その結果、229項目のアイテムプールから、151項目が抽出された。
ステップ3:食品リテラシー関連の論文著者により、119項目を抽出
ステップ3のラウンド2には、これまでに食品リテラシーという用語を用いた論文を発表したことのある研究者が、28カ国から244名招待された。そのうちラウンドに参加したのは85名(35%)であり、国別の内訳はオーストラリア18名、カナダが16名、米国12名、英国10名など。日本の研究者も1名招待されたが参加していなかった。
ラウンド1と同様にCVI71%以上となった項目を抽出。最終的に119項目が残った(採択率79%)。論文中にはその119項目がすべて、関連文献とともに示されている。
食品リテラシー評価法の国際標準版の作成のハードル
このほか、本研究では、国際標準の食品リテラシー評価法を開発することに対する意見を自由記述で求めた。論文中に取り上げられている意見の一部を紹介する。
自由記述の例
- これらの項目が適切であるかどうかを判断する前に、測定対象を定義する必要がある
- 品質をどのように決定するかによって、評価すべき項目は異なる。地産品が良いのか、栄養価の高いものが良いのか、コストなのか?
- 「品質」の意味は何か? その意味は人によって異なる可能性がある
- 冷蔵庫がない環境、食品マーケットからの距離なども考慮する必要がある。また、自分たちの食糧を自分たちで栽培・採取している貧しい人々を考慮すべきか否か?
- 健康食品の入手可能性を評価していない
- このトピックは非常に重要だが、言い回しに欠陥があると思われる
- これらの質問は、生活苦のために食料にコストをかけられない人に恥をかかせてしまうリスクがある
- 高度な知識を持っているが経済状況のためにできていないのか、そうではないのかの区別をつけにくい
- 食品リテラシーを評価するのか、健康食品のリテラシーを評価するのか、それを検討する必要がある。現行の質問票はあまりにも内容が広範囲すぎる
- この質問票は、味覚や文化的関連性などではなく、健康への影響を中心に評価するように見受けられるが、コンポーネントの定義にそれが示されていない
本論文の著者は結論を以下のようにまとめている。
「この調査の結果から、定義についてはコンセンサスがあるようにみられるが、質問票全体として食品リテラシーを完璧に測定することは困難であることを示している。国際的に使用可能な食品リテラシー調査指標の開発を進めていくには共通の理解を形成する必要があり、さらなる作業が求められる」
文献情報
原題のタイトルは、「Measuring Food Literacy: Progressing the Development of an International Food Literacy Survey Using a Content Validity Study」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 Jan 28;18(3):1141〕
原文はこちら(MDPI)