パラアスリートのためのサプリメント、今わかっていることはなにか? 系統的レビューの結果
アスリートのサプリメント利用に関しては多くのエビデンスが蓄積されてきているが、パラアスリートのサプリ利用に関してはまだ知見が少ない。この現状を背景として、現在までにどのような研究がなされ、何がわかっているのかを探るために行われたシステマティックレビューの結果が報告された。やはり知見は限られているようだが、カフェイン、クレアチンなど、7種類のサプリについて考察が加えられている。
脊髄損傷以外のパラアスリートも含む初のシステマティックレビュー
これまでに、脊髄損傷パラアスリートのパフォーマンスに対するサプリの影響を調べたシステマティックレビューが報告されているが、アスリートの障害はもちろん脊髄損傷のみでない。そこでこの研究では、四肢欠損や脳性麻痺など脊髄損傷以外のパラアスリートを対象とする研究も含めたシステマティックレビューが行われた。
システマティックレビューとメタ解析のための優先報告事項(preferred reporting items for systematic reviews;PRISMA)」に準拠し、PubMed、SPORTDiscus、MedLineなどを用いて、2021年5月3日までに発表されたすべての論文を対象とした文献検索を実施。検索に用いたキーワードは、パラリンピック、パラアスリート、障害のあるアスリート、サプリメントなどで、ヒトを対象とする研究のみを適格とした。
2名の研究者によるスクリーニングにより適格性が判断され、最終的に311人の対象者を含む15件の論文が抽出された。
検討対象15件の研究の特徴
15件のうち13件は、クロスオーバー法や無作為化比較試験などの対照を置いた臨床研究で、1件はシングルアーム(対照のない単一条件)の介入、もう1件はケーススタディーだった。パラアスリートの障害の種類は、脊髄損傷が13件で、その他、重複も含めて、二分脊椎、筋ジストロフィー、脳性麻痺、馬尾障害などだった。
6件の研究は、エリートレベルの選手を対象としたことが記されていたが、その他の研究はアスリートの競技レベルを明らかにしていなかった。
論文ではこれ以降、カフェイン、クレアチン、魚油、硝酸塩、ビタミンD、緩衝剤、タンパク質・アミノ酸という7カテゴリーのサプリメントごとに考察を加えている。その一部の要旨を紹介する。
考 察
カフェイン
健常アスリート集団におけるエルゴジェニックエイドとしてのカフェインについては豊富なエビデンスがあるのに対して、パラアスリート集団でのエビデンスは依然限られている。
脊髄損傷アスリート、とくに交感神経が障害されていてカテコールアミン放出反応に影響が生じている場合には、カフェイン摂取による反応が健常アスリートとは異なる可能性がある。一方でカフェインには、スポーツ中の認知能力の向上を通じて、障害によるパフォーマンスへの影響を打ち消す可能性もある。
脊髄損傷アスリートを対象に行われた研究は、健常アスリートと異なりカフェイン摂取による決定的な結果は得られないとするものと、健常アスリートと同様にエルゴジェニック効果を期待し得るとするものが混在している。ただし後者の研究はケーススタディーであり、解釈は制限される。
また、脊髄損傷の病変部位によってカフェインの動態が異なることを示唆する研究もみられた。その研究者は、四肢麻痺のアスリートは低用量でパフォーマンスが最大化されるとし、対麻痺のアスリートには運動の60分以上前にカフェインを摂取することを推奨している。興味深いことに、健常アスリートであっても、ハンドサイクリング(手によって漕ぐサイクリング)はカフェインのメリットがみられないとする研究が存在する。カフェイン摂取のメリットの有無は、パラアスリートか健常アスリートかによるのではない可能性もある。
脊髄損傷アスリート集団の最適なカフェイン摂取量と摂取タイミングを知るにはさらに研究が必要である。加えて、歩行可能なその他の障害のあるアスリートでの研究は、より必要とされる。
クレアチン
クレアチンはパラアスリートに対して健常アスリートと同様のメリットをもたらすと考えられるが、その使用は始まったばかりの段階にある。これまでに、神経筋疾患、外傷性脳損傷、脊髄損傷の患者での臨床検査でクレアチンのメリットが示されている。ただしアスリートでの検討は限られている。
8週間の筋力トレーニングとクレアチン一水和物3g/日の摂取により、脊髄損傷患者の腕の筋肉量が増加したとの報告がある。また、筋ジストロフィーの成人と子どもに、運動プログラムなしで10g/日または5g/日のクレアチン投与を8週間継続したところ、筋力の増加を認めたとする研究もある。
パラアスリート対象の検討としては、車椅子アスリートにおいて、20g/日の2週間の摂取ではプラセボと有意差がなかったとの報告があるが、体内のクレアチン濃度を上げて何らかの影響を発揮するには、より高用量で長期間の介入が必要な可能性がある。
魚 油
魚油に関する研究は1件のみ存在した。車椅子バスケットボール選手8人に3g/日の魚油を30日間投与したところ、筋損傷と炎症マーカーが改善していた。スポーツの負荷以外に、脊髄損傷などの条件はドコサヘキサエン酸の欠乏を招く可能性があり、魚油の摂取がそのリスクを抑制する可能性がある。
硝酸塩
硝酸塩は、車椅子アスリートや腕を使用して自分自身を推進する動作を伴うスポーツのアスリートに、潜在的なメリットをもたらす。それは、上半身の筋肉組織はタイプII線維の割合が高い傾向があり、硝酸塩はタイプI線維よりもタイプII線維への効果が高い可能性があるためだ。ただし介入研究の結果は、タイムトライアルの成績に有益な影響を与えていない。とはいってもその検討では、統計的に有意に至らなかったが、ビート根ジュースと硝酸ナトリウムの条件では、プラセボよりも優れていた。
一方、硝酸塩にはわずかながら毒性が存在する。通常は問題になることはないが、パラアスリートが高用量を長期間摂取するような条件での知見は存在しないため、今後の研究が望まれる。
ビタミンD
ビタミンDは、骨の健康への役割と同化ホルモンとしてよく研究されており、パラアスリートの健康、トレーニング、パフォーマンス最適化にとっても不可欠。赤道から離れた地域に住む人はビタミンD低値のリスクが高く、この点はパラアスリートも同様だ。
車椅子アスリートの筋力とトルクの点でビタミンD摂取を支持する研究がある。その一方で否定的なデータも報告されている。ただし、ビタミンD摂取は身体障害のある人にとって、健康上のメリットをもたらす可能性がある。
例えば下肢切断後の障害者であれば、骨の健康が低下するリスクがあり、それをビタミンDが抑制すると期待される。パフォーマンスのためのビタミンD摂取を支持する決定的なデータはないが、ビタミンDについてはパフォーマンス以外の視点も含めて判断が必要だろう。
緩衝剤
緩衝剤のエルゴジェニック効果は比較的研究されているが、パラアスリート対象の研究は少ない。唯一、エリート車椅子アスリートにクエン酸ナトリウムを投与した研究が存在した。その研究では、血中pHに影響をもたらしたが、1,500mのタイムトライアルに影響を与えなかった。
タンパク質とアミノ酸
タンパク質やアミノ酸の補給は、アスリートの間で一般的に行われている。パラアスリート対象の研究としては、ロイシンを用いた研究が1件みつかった。22名の脳性麻痺のアスリートに192mg/kg/日のロイシンを10週間投与した結果、介入後の筋力と筋量が対照群に比較して有意に高く、炎症マーカーであるC反応性タンパク質は有意に低かったという。
文献情報
原題のタイトルは、「Dietary Supplementation for Para-Athletes: A Systematic Review」。〔Review Nutrients. 2021 Jun 11;13(6):2016〕
原文はこちら(MDPI)