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日本人が野菜を1日350g摂取すると疾病負担を大きく減らせる 4つのシナリオで検証 東大など

2021年06月30日

「健康日本21(第二次)」では、日本人の野菜摂取量の平均を350g/日にすることが目標として掲げられている。この目標が達成されると、日本人の疾病負担は大きく減らせるかもしれない。そのような予測分析の結果が報告された。東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室の田中詩織氏らが、野菜摂取量の変化による障害調整生命年への影響を試算した結果であり、「BMC Public Health」に論文が掲載された。

日本人が野菜を1日350g摂取すると疾病負担を大きく減らせる 4つのシナリオで検証 東大など

健康日本21(第二次)の野菜摂取量に関する目標の達成期限は2022年度

野菜の摂取量が多い食生活は、大多数の人にとって健康にプラスになる。しかもそのことは大多数の日本人が理解している。ところが日本人の野菜摂取量は減少傾向にある。例えば、令和元年(2019年)度の「国民健康・栄養調査」による野菜摂取量は平均280.5g/日で、これは10年前の平成21年(2019年)度の295.3g/日より約15g少ない。

そこで田中氏らは、予測される日本人の野菜摂取量の2040年までの変化が、心血管疾患、がん、糖尿病性腎臓病に伴う障害調整生命年(DALYs)にどのように影響するかを試算した。

野菜摂取量の変化を予測する4つのシナリオ

野菜摂取量については、以下に示す4つの予測シナリオを立てて検討した。

シナリオ1:1995年以降の傾向が今後も続くシナリオ

シナリオ1の野菜摂取量は、1995年以降の「国民健康・栄養調査」のデータを基に、近年の摂取量減少傾向がそのまま続くと仮定したシナリオ。このシナリオでは、2040年時点での平均摂取量が237.7g/日まで低下することになり、4つの中で最低水準で推移する。なお、論文ではこのシナリオを‘reference’とし、他の3つのシナリオを比較する基準としている。

シナリオ2:健康日本21がほぼ目標どおりに達成されるシナリオ

健康日本21では野菜摂取量350g/日という目標が、2022年度中に達成されることを目標としている。シナリオ2はこの目標にほぼ一致する、2023年中に日本人の野菜摂取量が350g/日になり、そのまま2040年まで維持されるという、4つの中で最善のシナリオ。

シナリオ3:健康日本21の目標が期限より遅く達成されるシナリオ

シナリオ3は、健康日本21の目標達成が2022年度中には無理で、2040年度に達成されるという、二番目に良いシナリオ。

シナリオ4:過去の野菜価格高騰時の摂取量を勘案したシナリオ

シナリオ4は、野菜価格高騰のため摂取量が過去最低だった2004年の摂取量である240.2g/日に向かって、2040年まで摂取量が減り続けるというシナリオ。このシナリオでも、シナリオ1よりは摂取量が高値で推移する。

疾病負担は障害調整生命年(DALYs)で評価

疾病負担の評価に用いた「障害調整生命年(disability-adjusted life years;DALYs)は、疾病による障害や早期死亡のために失われた健康的な生活の損失の程度を表す指標で、数値が小さいほど疾病負担が少ないことを意味する。

この研究では、2017年の世界の疾病負担研究(Global Burden of Disease;GBD)の日本のデータと、1990~2016年の社会人口統計学的データ(性・年齢別の人口構成など)、および喫煙・飲酒習慣、BMIなどのデータを基に、統計学的手法により2040年までの変化を予測した。

野菜摂取量が増えるシナリオではDALYsの上昇が抑制される

予測分析の結果、全年齢で見た場合は平均寿命が延長する影響を受けて、DALYsは上昇することがわかった。しかし、日本人の野菜摂取量が増えるシナリオでは、DALYsの上昇が抑制されることが示された。

がん、糖尿病性腎臓病、心血管疾患について、2040年時点のDALYsの95%信頼区間が重複しない(有意差のある)データを以下にピックアップしてみる。なお、シナリオ1とシナリオ4の間には、ほとんど有意差は示されなかった。

がん:全年齢の男女合計でも有意に疾病負担が減少

がんについては、全年齢かつ男女合計の2040年時点のDALYsが、シナリオ1の5510.8(5372.1~5653.2)に対し、シナリオ2が5201.5(5070.5~5335.9)、シナリオ3が5201.6(5070.7~5336.0)であり、有意に抑制されると予測された。また、50~69歳もシナリオ1の6380.6(6326.7~6435.1)に対し、シナリオ2は6260.8(6207.8~6314.2)、シナリオ3は6254.4(6201.5~6307.8)と有意に低かった。

性別にみた場合も、女性は全年齢のシナリオ1が3457.3(3354.9~3562.9)に対し、シナリオ2が3227.1(3131.5~3325.6)、シナリオ3が 3220.6(3125.2~3318.9)で有意に低く、とくに20~49歳の女性は、シナリオ1が634.7(611.6~658.6)に対して、シナリオ2は544.2(524.4~564.7)、シナリオ3は516.5(497.8~536.0)と、大きく抑制されることがわかった。

糖尿病性腎臓病:男性・女性ともにシナリオ2は全年齢層の予測分析が有意

糖尿病性腎臓病については、男性の全年齢でシナリオ1が1965.9(同1928.3~2004.4)に対し、シナリオ2では1804.2(1769.6~1839.5)と有意に低値だった。女性も全年齢のシナリオ1が2765.0(2727.3~2803.3)に対し、シナリオ2では2386.0(2353.4~2419.0)と有意に低値だった。

また20~49歳の女性は、シナリオ1の335.5(332.0~339.1)に対し、シナリオ2の195.6(193.6~197.7)、シナリオ3の292.1(289.0~295.2)だけでなく、シナリオ4も324.7(321.3~328.1)と有意に低値だった。このほか、50~69歳の女性も、シナリオ1の1630.7(1612.3~1649.2)に対し、シナリオ2は1417.6(1401.6~1433.7)、シナリオ3は1584.4(1566.6~1602.4)で有意に低値だった。

心血管疾患:20~49歳の女性では有意に抑制される

心血管疾患については20~49歳の女性のシナリオ1が298.8(95%CI;290.5~307.4)であるのに対し、シナリオ2では274.8(267.2~282.7)、シナリオ3でも263.1(255.8~270.6)であり、有意に低値だった。

20~49歳の女性の野菜摂取量が増えた場合の影響がとくに大きい

これらの結論として著者らは、「野菜摂取量が増えると、日本人のがん、糖尿病性腎臓病、心血管疾患のDALYsが大幅に軽減される」とまとめている。

なお、20~49歳の女性の野菜摂取量が増えた場合にDALYsが大きく低下する傾向がみられたが、これは若年女性の野菜摂取量が将来的に低下することが予測されているためであり、その予測どおりにならないことが期待される。

文献情報

原題のタイトルは、「Projections of disability-adjusted life years for major diseases due to a change in vegetable intake in 2017–2040 in Japan」。〔BMC Public Health. 2021 Apr 21;21(1):770〕
原文はこちら(Springer Nature)

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