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急な減量による腎機能低下のリスクを、格闘技アスリート対象研究報告から検証

体重別階級のあるスポーツのアスリートが行うことのある、試合前の急な減量による腎機能低下のリスクを検討したレビュー論文が発表された。からだを脱水状態にすることを主体とした減量戦略の危険性を投げかけている。

急な減量による腎機能低下のリスクを、格闘技アスリート対象研究報告から検証

急速な減量の大部分は脱水により達成されている

体重別階級のあるスポーツでは、試合前に減量して軽量カテゴリーで参加することで、対戦相手より優位に立とうとする戦略を用いることが少なくない。この戦略が対戦成績の向上に結び付いていないとする複数の研究が報告されているにもかかわらず、多くの格闘技アスリートがこれを実施している。

試合前の急速な減量の手段として、食事制限のほか、水分制限、サウナの利用、暖房のきいた部屋でのトレーニングなどが用いられるが、それらの大半は体内の水分量を減らすことで体重減を達成しようとするものだ。体重の7割程度が水分であることから、水分を減らすことは最も手っ取り早い減量法と言え、これを年に10回程度繰り返す格闘技アスリートも存在する。

脱水による腎血流量の低下は、腎機能低下のリスクとなり得る。しかしアスリートの試合前の急速な減量の影響を、腎機能の点から検討した研究の包括的レビューはこれまで実施されていない。

文献検索の手法について

この研究では、Web of Science と PubMed が文献検索に用いられた。2005~2021年2月までに発表された論文を対象とし、採用基準は査読付きジャーナルに掲載された英語の原著論文であり、検討対象は7日以内に約5%の減量を行った格闘技アスリートであり、年齢や性別は問わなかった。レビュー、メタ解析、アブストラクト、引用、オピニオン、書籍、ステートメント、レター、エディトリアルなどは除外した。

検索キーワードとして、「急速な減量」「腎臓」「腎機能」などを用いた。2名の研究者が独立して採否を検討し、意見の不一致は3人目の研究者を含めた討議により解決した。ヒットした726件から前記の条件を満たすもの抽出し、かつハンドワークにより特定した論文を加え、合計10件の研究をレビューの対象とした。

急速な減量は急性腎障害のリスク

10件の研究が検討対象としていたアスリートは合計171人で、競技種目はレスリングが4件、総合格闘技が3件で、柔道、テコンドー、ムエタイがそれぞれ1件ずつ。腎機能の評価に用いられていた指標は、血清クレアチニン(Cr)、尿素窒素(BUN)が多く、脱水は尿比重で評価されていた。

本研究ではメタ解析等は行わず、各研究を紹介するかたちで論文をまとめている。以下はその要旨の抜粋。

レスリング選手での検討

18人のレスリング選手(21.9歳、範囲17.8~31.7歳) を対象とする研究では、2~3週間かけて、主として炭水化物と脂質の摂取量を減らしていた。タンパク質摂取量は2g/kg/日を維持することを推奨していた。1日あたりの摂取エネルギー量は800~2,000kcalに設定されていたが、実際には500~1,000kcalだった。最後の2日間は主としてサウナでの運動による発汗という極端な脱水戦略が用いられていた。減量幅は-5.7±1.5kg(-8.2±2.3%)だった。減量幅が大きいほど血清クレアチニンが高いという有意な相関が認められた。また除脂肪体重の減少と血清クレアチニンの上昇も有意に相関していた。

24 人のレスリング選手(19.33±0.70歳、173.00±8.26cm) を対象とする研究では、研究者からの事前の説明により、実際に減量を行ったのは参加者の62.5%だった。その60%は試合の7~1日前に急速な減量を行い、40%は14~8日かけて減量していた。減量群では体重が-5.73%低下し、水分量は-5.30%減であり、BUNの有意な上昇が認められた。

69人のレスリング選手(22.51±2.49歳、174.54±6.59cm、78.98±15.87kg)を対象とする研究では、対象の55%が1~7日間での急速な減量を行った。体重は-4.55±1.87%減少し、BUNが有意に上昇していた。

16人のレスリング選手(22.5±3.9歳、79.4±7.2cm、81.4±9.7kg)を対象とする二重盲検プラセボ対照試験も実施されていた。参加者は3日間で5%の減量を課せられ、8人にはプラセボとして小麦粉が与えられ、他の8人にはクエン酸ナトリウム(緩衝剤)が与えられた。両方の群で尿比重が大幅に増加した(1.0176±0.0041から1.0290±0.0028,p<0.001)。ただし16時間の回復中に正常値に戻った。食事の割当てによる尿比重の群間差は有意でなかった。

総合格闘技選手での検討

40人の総合格闘技選手(男性38人、女性2人、25.2±0.7歳、1.77±0.01m、75.8±1.5kg)を対象とする研究では、競技の2時間前の評価で39%は有意な脱水状態(尿比重1.021超) であり、さらに11%は重度の脱水状態(同1.030超)と判定された。

14人の男性総合格闘技選手(23±4歳、1.76±0.4m、76.8±9.3kg)を対象とする研究では、40℃の環境下での60Wで3時間のサイクリングにより5%の脱水を誘発していた。尿比重は有意に上昇し、20分後時点でも対照群よりも有意に高く、24時間後も有意差が持続していた。

ある1人の男性総合格闘技選手(22歳、1.80m、80.2kg)を2カ月間観察するという研究も報告されていた。8週間で80.2kgから65.7kgへの減量を目指し、主として低炭水化物ダイエットを続け、後半には脱水戦略も用いた。この間に血清クレアチニンはベースラインから約50%増加した。この論文の著者らは、「これは急性腎障害と言える」と結論付けていた。

柔道選手での検討

8人の柔道選手(19.3±2.0歳、178.1±6.3cm、81.7±10.7kg)を対象とする研究。減量期間は7日間で、水分と食物摂取の制限によって行われ、カロリーを含まないビタミンと電解質サプリメントが利用されていた。平均-6%の減量で、クレアチニンはベースラインから7日後に有意に上昇していた。

テコンドー選手での検討

10人のテコンドー選手(21.1±5.48歳、1.74±0.08m、71.6±11.1kg)を対象とする研究。トレーニング強度の強化、防寒着使用、断食、脱水などにより、4日間で-5%減量していた。段階的な減量を行った対照群ではクレアチニンに有意な変化がみられなかったが、急速な減量を行った群では有意に上昇していた。

ムエタイ選手での検討

21人のムエタイ選手(男性13人、女性8人、25.8±2.52歳、1.71±0.08m、68.03±11.56kg)を対象とする研究。減量期間は3日で、主として摂取エネルギー制限 (1日あたり-1,000kcal、炭水化物30g未満)によってなされていた。平均-4.1%の体重減が生じ、BUNは23.7±3.4 mg/dLとなり有意に増加していた。男性ではクレアチニンも上昇していた(1.03±0.09mg/dL)。

これらの報告のまとめとして本論文の著者は、「格闘技選手の急激な体重減少は、重大な急性腎障害を引き起こすことがある。腎機能マーカーの上昇は主に意図的な脱水に起因していると思われる」と結論を述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of Rapid Weight Loss on Kidney Function in Combat Sport Athletes」。〔Medicina (Kaunas). 2021 May 31;57(6):551〕
原文はこちら(MDPI)

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