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米国で急増するスポーツ栄養士の大学アスリートへの介入 その有用性と課題を示唆するナラティブレビュー

米国の大学生アスリートに対して栄養管理や教育にかかわるフルタイムの登録栄養士(registered dietitians)の数は、過去10年間で4倍以上に増加したという。急増するスポーツ栄養士の有用性を評価する一方で、主要栄養素や微量栄養素の摂取不足、一部の主要栄養素の過剰摂取などの課題が残るとするナラティブレビューが発表された。その要旨を紹介する。

米国で急増するスポーツ栄養士の大学アスリートへの介入 その有用性と課題を示唆するナラティブレビュー

イントロダクション:大学運動部所属の登録栄養士が取り組んできた3つの課題

米国の大学の運動部で最初のフルタイム登録栄養士が採用されたのは、1994年だった。その後、2010年に「Collegiate and Professional Sports Dietitians Association;CPSDA(大学・スポーツ栄養士協会)」が設立され、新規の需要を満たすために大学運動部で働く登録栄養士が指数関数的に増加している。過去10年間にわたる大学運動部の登録栄養士が取り組んできた課題は、不十分な主要栄養素、不十分な微量栄養素、過剰な主要栄養素という3つに集約される。

主要栄養素の摂取不足による利用可能エネルギー不足(Low Energy Availability;LEA)は、学生アスリートのすべての競技種目で一般的にみられる。LEAは、意図的または非意図的に発生し、多くの場合、アスリートの栄養所要量に関する知識の欠如を伴う。また、スポーツに伴う相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport;RED-S)では、倦怠感、感染症のほか種々の疾患リスクが高くなり、パフォーマンスは低下する。

次に、微量栄養素の摂取不足だが、これも健康状態やパフォーマンスと直接的な相関が存在する。反対に、一部のサプリメントが大学生アスリートの疾患予防に有用な可能性を示唆する研究報告もある。

続いて一部の主要栄養素の過剰摂取については、アメリカンフットボールのラインマンなど、体型を最大化することでアドバンテージを得られる場合にそれが認められやすい。複数の縦断的研究から、このようなポジションの選手は高血圧性心疾患や冠状動脈疾患による死亡、左室肥大が有意に多いことが報告されている。

文献検索の手法

この研究では、スポーツ栄養士が学生アスリートの健康とパフォーマンスに与える影響を調査する目的で文献検索が行われた。この領域の報告はまだ少ないため、研究手法はナラティブレビューが採用された。

文献検索にはPUBMEDおよびWeb of Scienceを用いた。検索キーワードは、「栄養士/アスリート」「アスリート/栄養/知識」とし、2021年3月31日までの過去10年間に公表され、英語で執筆されたヒト対象の研究を検索した。「栄養士/アスリート」で121報、「アスリート/栄養/知識」で253報がヒットし、研究対象や手法を検討した結果、アスリートの栄養知識を評価した8件、栄養士の有効性を評価した6件、計14件の研究が抽出された。

学生アスリートの栄養知識の必要性

スポーツ栄養士がいないNCAA(全米大学体育協会)ディビジョンIの大学生アスリート123人を対象に、スポーツ栄養の知識に関するアンケートを行った結果、十分な知識と判定される水準は75%であるのに対し、平均スコアは56.9%であり、12人のみが75%以上だった。チームやレベル、性別、または以前に栄養教育を受けていたか否かで有意差はなかった。

大学バレーボール選手77人を対象にスポーツ栄養知識アンケートを行った研究では、70%が合格点とされる設定のところ、平均は46±9%であり、合格点に到達したアスリートはいなかった。

196人の学生アスリートに、過去の飲食習慣に対する栄養知識と後悔について調査した結果も報告されていた。それによると、平均スコアは男性48%、女性49%、サプリメントに関連する質問では25%未満であり、これらはすべて適切な知識を表す下限を下回っていた。栄養知識と栄養関連の後悔との間に関連性は認められず、調査対象者がたとえ知識があったとしても、学生アスリートの行動変容には多くの支援が必要と考えられた。

NCAAディビジョンIの女子大学生アスリートの食事摂取量と食習慣を評価した研究では、ほとんどのアスリートに満たしていない栄養素が認められた。総摂取エネルギー量と炭水化物は推奨の下限値を下回り、エネルギー要件を満たすのはわずか9%であり、さらに73%は定期的に朝食を食べていなかった。

ディビジョンIIIのフットボール選手を対象とした研究では、栄養知識アンケートの平均スコアが55.2%であり、知識が不十分であることを示していた。また果物と野菜を毎日摂取しているのは半数未満だった。栄養教育を受けたアスリートは、他のアスリートよりも有意に高い結果を示した。

スポーツ栄養士の有用性

スポーツ栄養士による教育介入を受けた大学生アスリートと、ポジションの一致した教育介入を受けていない大学生アスリートを比較した研究では、体重変化は両群間で類似していたが、摂取エネルギー量、タンパク質、および炭水化物の摂取量が、介入を受けた群で有意に増加しており、かつ介入群では体脂肪率が有意に低下していた。また介入群では、シャトルランテストが有意に向上した。

女性アスリートでは、本人だけでなくコーチも摂取エネルギー量の不足に気付いていないことがある。バレーボール選手に対し、スポーツ栄養士が4カ月にわたって個別介入した調査結果が報告されている。それによると、介入前は推奨されるエネルギー要件を満たしておらず、介入によって大幅に改善したことが示されている。この効果は、チームの平均でみても有意だった。

ディビジョンIの陸上競技女性アスリートでのケーススタディーでは、継続的な体重減少を示し月経機能障害を生じている状態に対し、スポーツ栄養士の1カ月の栄養カウンセリングプログラムの後、体重減少が止まり体脂肪率が増加。16カ月の追跡期間中にわたってパフォーマンスへの悪影響はみられなかった。

3大学のNCAAディビジョンIの野球選手の栄養行動を調査した報告もある。その研究では2つの大学はフルタイムのスポーツ栄養士が存在し、他の1大学はスポーツ栄養士がいなかった。調査の結果、スポーツ栄養士のいる大学といない大学で、アスリートの食生活に有意差が認められた。具体的には、スポーツ栄養士のいない大学のアスリートは、ファストフードや甘味炭酸飲料の摂取率が高く、反対にスポーツ栄養士のいる大学のアスリートはマルチビタミンの摂取率が高く、トレーニング終了後の早い時間帯に食事をとり、朝食欠食率が低く、3食を自分で用意している割合が高く、遠征前に食事を事前に計画していた。

また、スポーツ栄養士は学生アスリートの教育だけでなく、他のスタッフをトレーニングする役割も果たしていることを示す研究も存在した。

著者らは結論として、「これらの主として観察研究からスポーツ栄養士の有用性が認められた。次のステップは、前向きコホート研究や比較対照研究などのより厳密な研究により効果を検証することで、大学運動部におけるスポーツ栄養士の必要性を示していくことだろう」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutrition Knowledge of Collegiate Athletes in the United States and the Impact of Sports Dietitians on Related Outcomes: A Narrative Review」。〔Nutrients. 2021 May 22;13(6):1772〕
原文はこちら(MDPI)

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