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高齢アスリート(マスターズアスリート)の栄養をどうするか? 既存のガイドラインからの発展的考察

「Nutrients」誌に「Nutrition for Older Athletes(高齢アスリートの栄養)」というタイトルのレビュー論文が掲載された。高齢のアスリートの性差、加齢に伴う内分泌代謝の変化、高齢者アスリートを支えるための栄養、運動と栄養に関する重要な研究の紹介いう4部からなる論文。そのうち主として栄養にかかわる部分の要旨を紹介する。

高齢アスリートの栄養をどうするか? 既存のガイドラインからの発展的考察

イントロダクション:高齢者アスリートは健康的な老化のロールモデル

栄養と身体活動は、現代の文明社会における健康と幸福を決定する二大要素と言える。加齢によって筋肉機能や持久力が低下するが、そのスピードを栄養と身体活動で緩やかにすることが可能と考えられる。例えば身体活動に関して世界保健機関(World Health Organization;WHO)は、その推奨対象に年齢制限を設けず、すべての年齢層にわたって推奨している。しかし実際には、加齢に伴い座位行動が増え、運動に参加することが難しくなってくる。

この点で、高齢のスポーツ選手(マスターズアスリート)からは、興味深い洞察を得ることができる。マスターズアスリートは一般的にスポーツから引退する年齢を超えて競技会参加のためにトレーニングを続け、その期間は多くの場合、成人前後から数十年に及んでいる。また身体的に活動的であることに加え、マスターズアスリートの多くは健康維持にも熱心である。つまり、マスターズアスリートは健康的な老化のロールモデルとしてみることができる。

マスターズアスリートの栄養でわかっていることは数少ない

しかしながらマスターズアスリートの栄養サポートという点では、明らかでないことが少なくない。マスターズアスリートも、アスリートとしてパフォーマンスを最適化するために、体脂肪を減らそうとする。しかし、安静時代謝率 (Resting Metabolic Rate;RMR) は年齢とともに低下する。となると、摂取すべきエネルギー量をどのように設定すべきであろうか。仮に体脂肪率を維持するために総摂取量を低めに維持した場合、タンパク質やビタミン、その他の微量栄養素の摂取量をどのように満たせば良いのだろうか。加齢により好発してくる怪我の回復と予防のために推奨すべき栄養素は何か。これらの疑問はほとんど解明されていない。

マスターズアスリートのための栄養上の考慮事項

前述のようにマスターズアスリートは、理想的な老化のロールモデルと見なされることが多い。そのマスターズアスリートが競争力を維持するために直面することの多い最も重要な課題は、第1にエネルギーバランスの維持と考えられる。摂取エネルギー量とタンパク質の不足は直ちに筋肉量の減少につながる。女性では閉経移行期のホルモン環境の変化が筋肉と骨の双方に影響を与える可能性がある。

筋肉の老化は転倒や骨折の重要な予測因子であり、骨折等の治療のための安静は劇的な筋肉と骨量の喪失を引き起こす。またエネルギー可用性の低い状態(low energy availability;LEA)は、代謝率の低下、ホルモン分泌の変調などを来す。LEAはアスリート全般で問題となるが、最近の調査結果からマスターズアスリートも依然としてそのリスクにさらされていることが示唆されている。マスターズトライアスリートを対象としたその研究では、推奨栄養所要量(recommended dietary allowance;RDA)に対してエネルギー量は40%、タンパク質は25%低かったという。

リカバリーの最適化

高齢者の最適な炭水化物摂取量は不明だ。ただし、これまでのところ、運動後の炭水化物補給に関する推奨事項が、年齢や性別によって異なるということを示唆するエビデンスはない。よって、マスターズアスリートもリカバリーのために、若年者への推奨と同レベルに摂取するという戦略が有用である可能性がある。さらに運動強度と持続時間に応じて、1時間あたり30~70gの炭水化物を摂取することで、免疫システムの維持にもつながる。

タンパク質については、運動後の筋蛋白質合成(muscle protein synthesis;MPS)を刺激するため、アミノ酸の十分な摂取が重要となる。高齢者に対するタンパク質摂取推奨値として、1.2g/kg/日以上という数値が挙げられているが、レジスタンストレーニング中の除脂肪体重の維持にはマスターズアスリートに対して、1.5~1.6g/kg/日を推奨すべきとの意見もある。とくに、エネルギー摂取量が1,800kcal/日未満になりやすい女性マスターズアスリートでは、タンパク質摂取量が少なすぎる可能性に留意が必要だ。

同化耐性への対応

高齢になるに従い、運動の筋蛋白質合成(MPS)の刺激効果が低下する「同化耐性」が生じてくる。特に女性は摂食に対するMPSの応答がより低下する。

食事や身体活動などの修正可能因子が、加齢に伴うMPSの低下をどのように調節できるかについては、大きな関心が寄せられている。これまでに、タンパク質摂取と運動のタイミングをなるべく近接させること、およびタンパク質摂取量を増やすことで、ある程度は同化耐性を抑えることができるというデータが示されている。推奨栄養所要量(RDA)をやや上回るタンパク質摂取が良いとする報告もある。

怪我の回復のための栄養

スポーツ栄養は、多くの場合、パフォーマンスの向上に焦点を当てるが、一方で受傷したアスリートの栄養にも関心を向けるべきだ。怪我の種類や重症度にもよるが、受傷によりエネルギー消費が15~50%増大し、受傷後の初期には炎症反応と異化ホルモン (コルチゾール、カテコールアミン)の増加、同化ホルモン (成長ホルモン、テストステロン)の低下がみられる。

体脂肪を増やさずに筋肉の廃用萎縮を防ぎ、回復をサポートするために、十分で適切なエネルギー摂取が必要。食欲の低下などにより必要とされる摂取量を満たせない場合、栄養補助食品を用いる戦略が役立つことがある。ただし、サプリメントに依存するのではなく、食品優先のアプローチで検討する必要がある。

論文全体の要約と今後の展望

論文では上記のほかに、筋肉の廃用萎縮の予防、免疫能の維持と感染リスクへの対応、ビタミンDの抗炎症作用、腸内細菌叢とプロバイオティクスなどについて、高齢者アスリートへの適用と留意すべき事項を考察。結論としては、「まとめと今後の展望」として以下のように記されている。

まず、「老化プロセスで発生する生理学的変化は、習慣的な運動トレーニングと適切な栄養によって変更できる可能性がある。マスターズアスリートの栄養要件に関するエビデンスは限られているが、若いアスリートや運動をしていない高齢者向けの現在の栄養ガイドラインに基づいて、いくつかの推奨事項を提案することができる」とし、具体的には下記を挙げている。

マスターズアスリートの栄養戦略の提案

骨の健康に関して

摂取エネルギー量30kcal/kg除脂肪体重/日以上、理想的には45kcal/kg除脂肪体重/日以上。カルシウムとビタミンDサプリの利用

筋肉機能に関して

タンパク質1.2g/kg体重/日以上、1回の食事につき30g以上。ロイシンを1回の食事につき3mg。ω3脂肪酸3g/日

免疫能に関して

炭水化物8g/kg体重/日以上、トレーニング中は30~70g/時。ビタミンD、プロバイオティクスの利用

腸内細菌叢に関して

炭水化物と食物繊維の摂取、サプリの利用、および運動

最後に、重要なこととして、「心理的な健康状態を維持することによって」マスターズアスリートの免疫システムを強化が可能だ」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutrition for Older Athletes: Focus on Sex-Differences」。〔Nutrients. 2021 Apr 22;13(5):1409.〕
原文はこちら(MDPI)

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