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正常体重の人にみられる代謝異常は、脂肪の“質”が原因の可能性 順天堂大学スポートロジーセンター

肥満に代謝異常を伴いやすいことは周知されており、特定健診(メタボ健診)でも内臓脂肪肥満が種々の代謝異常の上流にあることを前提にスクリーニングが行われている。しかし近年、日本人では非肥満者にも心血管代謝リスク因子が重複している人が少なくないと報告されるようになった。そのような人の代謝異常には、脂肪の“質”が関連しているのかもしれない。その可能性を示す、順天堂大学スポートロジーセンターの研究グループの研究結果が、「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」に論文掲載されるとともに、同大学のサイトにニュースリリースが掲載された。

正常体重の人にみられる代謝異常は、脂肪の“質”が原因の可能性

研究の概要:正常体重者約100名を対象とするグルコースクランプ法による知見

研究結果の概要は、正常体重の日本人男性約100名を対象に、全身の代謝状態や脂肪分布に関する網羅的な検査を実施した結果、「脂肪貯蔵機能」や「アディポネクチン濃度※1」の低さが、インスリン抵抗性※2、高中性脂肪血症、肝脂肪蓄積などの代謝異常の本質的な原因であることが示されたという内容。

日本人をはじめアジア人では、太っていなくても生活習慣病になってしまう人が多いことが知られているものの、そのメカニズムはよくわかっていなかったが、本研究の成果によりその一因を説明できる可能性があるという。また国内で行われている、ウエスト周囲長によって内臓脂肪蓄積を考慮したうえでの生活習慣病の予防対策、いわゆる「特定健診」で介入対象とならない正常体重者における代謝異常の予防や治療には、脂肪組織の“質”に着目した取り組みが必要であることも示唆する結果と言え、研究者らは「予防医学の観点からも極めて有益な情報であると考えられる」としている。

※1 アディポネクチン:脂肪組織から分泌され、肝臓や骨格筋に存在する受容体に結合し、それぞれの臓器の脂質の燃焼を促進することなどにより、インスリン抵抗性を改善する働きをもつ。肥満に伴い、その血中濃度が低下することが知られている。
※2 インスリン抵抗性:膵臓から分泌され血糖を下げるホルモンである「インスリン」の感受性が低下して、効きにくくなった状態。主に肥満に伴って出現し、糖尿病の原因になるだけでなく、メタボリックシンドロームの重要な原因の一つと考えられている。肝臓・骨格筋・脂肪組織にそれぞれインスリン抵抗性が個別に生じる。本研究では、脂肪組織にインスリン抵抗性がある人では骨格筋にインスリン抵抗性が生じているという関連性を認めた。

研究の背景:日本人では太っていなくても代謝性疾患になりやすい理由は何か?

人体で脂肪は主に、中性脂肪として皮下脂肪や内臓脂肪という脂肪組織に蓄えられている。しかし、主に空腹時などでは脂肪をエネルギーとして利用するために、脂肪組織に蓄えられた中性脂肪が分解され、遊離脂肪酸※3となって放出される。脂肪組織は、そのようにエネルギーのタンクとしての役割を持つ一方で、「アディポネクチン」という脂肪燃焼を促進するホルモンの分泌も行っている。そのアディポネクチンは、肝臓や骨格筋に存在する受容体に結合して各臓器の脂質の燃焼を促進させ、インスリン抵抗性を改善するように働く。

しかし肥満者では、脂肪組織の機能の低下が生じており、そのために代謝異常を引き起こされると考えられている。例えば、肥満になると脂肪組織の「脂肪貯蔵機能」が低下し、脂質が遊離脂肪酸として体中にあふれ、それに伴いアディポネクチンの分泌量は低下してしまう。それらの影響で肝臓や骨格筋に脂肪が蓄積し、生活習慣病である糖尿病やメタボリックシンドロームの根源であるインスリン抵抗性が引き起こされるというメカニズムが想定されている。

一方、アジア人は正常体重(BMI※4が25未満)であるにもかかわらず、生活習慣病になってしまう人が多く存在しており、その原因として、アジア人では脂肪組織の“質”である「脂肪貯蔵機能」「アディポネクチン濃度」の低下が遺伝的に生じやすいことが示唆されている。しかしながら、それら脂肪組織の“質”の低下が、どのように代謝異常と関連しているかはよくわかっていない。

本研究では正常体重の日本人における脂肪組織の質の低下と代謝異常が、どのように関連するのかを解明することを目指して調査を行った。

※3 遊離脂肪酸:人の体では、脂肪は主に中性脂肪として皮下脂肪や内臓脂肪といった脂肪組織に蓄えられている。しかし、主に空腹時などでは脂肪をエネルギーとして利用するために脂肪組織に蓄えられた中性脂肪が分解され、遊離脂肪酸となって放出される。この放出や貯蔵をコントロールしているホルモンがインスリン。
※4 BMI(body mass index.体格指数):その人がどれくらい痩せているか、太っているかを示す指数。体重(kg)を身長(m)で2回割って算出した値。国際的には25以上を過体重、30以上を肥満とするが、日本人は体重増加の健康への影響が現れやすいため、25以上で肥満とされる。

研究の方法と結果:脂肪組織インスリン感受性とアディポネクチン値の高低で比較

本研究では、BMIが正常範囲内(21~25)の日本人男性94名を対象に、脂肪組織インスリン感受性※5と血中アディポネクチン濃度の二つを指標とし、脂肪組織の質を評価した。

前者の測定には2-ステップ高インスリン正常血糖クランプ法※6という、検査に一人あたり10時間以上要する特別な検査法を用いた。なお、100人に近い正常体重者を対象に、この検査法を用いて行うという研究は、世界でも前例がない規模だという。

※5 脂肪組織インスリン感受性:インスリンは脂肪組織にも作用し、遊離脂肪酸の脂肪細胞から放出されるのを抑制し、脂質を脂肪細胞に貯蔵させる作用がある。このような状態を「脂肪組織インスリン感受性が高い状態」という。しかしながら、肥満者では脂質を貯蔵する脂肪細胞が容量オーバーとなり、十分にインスリンが作用しなくなる(脂肪組織インスリン抵抗性)。これにより「脂肪貯蔵能」の低下が生じ、脂肪細胞から脂質が遊離脂肪酸としてあふれだす(この状態を「リピッドスピルオーバー」という)。放出された遊離脂肪酸は、肝臓や骨格筋といったインスリンが作用する臓器に到達すると、細胞内に異所性脂肪(脂肪肝・脂肪筋など)として蓄積し、細胞内で毒性を発揮してインスリン抵抗性が生じると考えられている。
※6 2-ステップ高インスリン正常血糖クランプ法:肝臓、骨格筋のインスリン抵抗性を精密に計測する方法。安定同位体でラベルされたブドウ糖とインスリンを点滴で持続的に投与することで、肝臓と骨格筋でのインスリンの効き具合をそれぞれ別個に計測できる。

測定後、脂肪組織インスリン感受性と血中アディポネクチン値が、それぞれ高い/低いという組み合わせで4群に分け、代謝的特徴を比較した(図1)。

その結果、脂肪組織インスリン感受性が高い2群(図1の①、②)では、アディポネクチンの高低にかかわらず代謝異常を認めなかった。しかし脂肪組織インスリン感受性が低い群(図1の③)では、アディポネクチンが高くてもインスリン感受性が低下し、中性脂肪値の上昇や肝脂肪蓄積といった軽度の代謝異常が認められた。さらにアディポネクチンが低い群(図1の④)では、それらの代謝異常がより顕著になり、HDL-コレステロール(善玉コレステロール)の低下も生じることがわかった。

図1 各群における骨格筋インスリン感受性と血中の中性脂肪

図1 各群における骨格筋インスリン感受性と血中の中性脂肪

対象者を、「脂肪貯蔵機能」の指標となる脂肪組織インスリン感受性、および、血中アディポネクチン濃度の中央値を用いて、それぞれの高低で4群(①~④)に分けて、骨格筋インスリン感受性と血中の中性脂肪値を比較した。脂肪組織インスリン感受性が高い2群(①、②)では、アディポネクチンの高低によらず代謝異常を認めなかった。一方、脂肪組織インスリン感受性が低い群(③、④)では、アディポネクチンが高くてもインスリン感受性低下、中性脂肪値上昇、肝脂肪蓄積といった軽度の代謝異常を認めた。さらにアディポネクチンが低い群(④)では、それらの代謝異常がより顕著になり、HDL-コレステロール(善玉コレステロール)の低下も生じることがわかった。
(出典:順天堂大学)

以上の結果から、正常体重の日本人男性において、「脂肪貯蔵機能」の低下が代謝異常の本質的な原因であること、さらに「アディポネクチン濃度」の低下が加わると、その程度がより顕著になることが明らかとなった。

今後の展開:脂肪の“量”に加えて“質”の評価が重要な可能性

今回の研究により、正常体重の日本人男性において、代謝異常の本質的な原因は、脂肪組織の“質”であることが明らかになった。

国内では、特定健診で内臓脂肪の蓄積(ウエスト周囲長が男性85㎝以上、女性90㎝以上)に着目した介入が行われている。これは主として、脂肪の“量”にフォーカスをあてた生活習慣病の予防政策と言える。しかし今回の研究で、太っていなくても代謝異常を発症しやすい日本人にとって、脂肪組織の“質”、とくに「脂肪貯蔵機能」に着目した予防や治療の必要性が示唆された。今後、この知見の生活習慣病予防への応用が期待される。

また、中性脂肪が高い、HDL-コレステロール(善玉コレステロール)が低い、肝脂肪が多い、などといった臨床データによって、正常体重者における脂肪組織の“質”の低下をある程度予測できる可能性もある。

同研究グループでは、やせている若年女性の耐糖能異常者でも「脂肪貯蔵機能」の低下が生じていることを、世界で初めて報告している。今後は「日本人における脂肪組織の“質”の低下がなぜどのように生じるのか、どのような介入法により改善されるのかを明らかにするべく、さらなる研究を進めていく」という。

プレスリリース

正常体重でも代謝異常となる原因に脂肪の「質」が関連~太っていなくても生活習慣病になる原因?~(順天堂大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Adipose insulin resistance and decreased adiponectin are correlated with metabolic abnormalities in non-obese men」。〔J Clin Endocrinol Metab. 2021 Jan 23;dgab037〕
原文はこちら(Oxford University Press)

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