運動は午前よりも午後に!? 代謝改善効果に有意差 時間運動学からのアプローチ
糖代謝異常のある人がトレーニングを行う際、午前中に行うよりも午後に行ったほうが代謝や運動パフォーマンスへの効果が大きいというデータが報告された。保健指導に時間運動学をとり入れていくうえで参考になるかもしれない。
時間運動学を生かすためのエビデンス
体内時計と呼ばれる「概日リズム」の乱れが代謝に影響を及ぼすことに関しては、多くの報告が存在する。また食事を食べる時間により代謝が異なることに着目した「時間栄養学」の臨床への応用が広がっている。さらに、運動をする時間の違いによる影響を考慮した「時間運動学」も研究が進められている。しかし、時間運動学の代謝性疾患治療への応用にはまだエビデンスが限られているのが現状だ。
32名の糖代謝異常のある男性に12週間、運動介入
この研究の対象は、BMI26を上回る糖代謝異常のある35名の男性。運動トレーニングを午前中(8~12時)に行う「AM群」と、午後(15~18時)に行う「PM群」に二分し12週間トレーニングによる介入を実施。グルコースクランプ法により糖代謝への影響、およびWmaxやVO2maxなどにより運動パフォーマンスの変化を比較検討した。AM群、PM群の割り当ては参加者個々の生活パターンにより、可能なほうを選んでもらった。インスリン療法の施行、腎機能障害、血圧高値、不安定な体重変動などの除外基準に3名が該当し、データ解析はAM群12名、PM群20名、計32名で実施された。
運動介入は、有酸素運動とレジスタンストレーニングで構成され、週3回、12週間実施された。70%Wmaxで30分間の自転車エルゴメーターやレジスタンストレーニングを、3~4名ごとに監視下で実施し、そのプログラム参加率は平均98%だった。
運動トレーニングを開始する前の主な背景は、AM群、PM群の順に、年齢61±5歳、57±7歳、糖尿病患者12名中4名、20名中8名、BMI30.3±2.6、29.8±2.3、体脂肪率28.6±2.3%、29.0±3.2%、VO2max(mL/kg/分)26±4.0、26.5±4.5、Wmax(W/kg)1.9±0.4、2.0±0.3、空腹時血糖値(mg/dL)120.6±37.8、122.4±37.8など。
午後の運動のほうが、糖代謝、体組成、運動パフォーマンスに好影響
それでは運動介入による各パラメーターの変化をみてみよう。
PM群で末梢のインスリン感受性が改善
まずは糖代謝について。
末梢でのグルコース取り込み量の変化(μmol/分/kg除脂肪量)は、AM群はΔ-0.5±5.5に対しPM群はΔ5.2±6.4であり、PM群で改善し有意差があった(p=0.03)。またグルコースの酸化量の変化(μmol/分/kg除脂肪量)は同順にΔ-2.6±2.4、Δ0.8±3.3であり、やはりPM群で改善し有意差があった(p=0.04)。
同様に、空腹時血糖値の変化(mg/dL)も、AM群Δ9.0±14.4に対しPM群-5.4±18.0であり、後者で改善し有意差があった(p=0.02)。
PM群で体脂肪率が減少
次に、体重や体組成について。
体重の変化(kg)は、AM群0.7±1.6、PM群-0.6±2.5で、PM群では減少していたが群間差は有意でなかった(p=0.11)。BMIの変化も同様に、0.2±0.5、-0.2±0.8で、PM群では減少していたが群間差は有意でなかった(p=0.11)。
しかし体脂肪率の変化については、AM群はΔ-0.3±0.7ポイントに対し、PM群はΔ-1.0±0.9ポイントであり、PM群で有意に減少していた(p=0.03)。
PM群でWmaxが上昇
続いて運動パフォーマンスについて。
VO2maxの変化(mL/kg/分)は、AM群Δ1.8±2.2に対しPM群はΔ3.0±2.1とより大きかったが、群間差は有意でなかった(p=0.18)。その一方、Wmaxの変化(W/kg)については、AM群はΔ0.2±0.1に対し、PM群はΔ0.4±0.2 であり、p値は0.05だった。
時間運動学の今後に期待
これらの結果から、糖代謝異常のある人において、午後の運動トレーニングが午前中のトレーニングと比較し、より大きな代謝改善につながる可能性が示された。また、午後の運動は、運動能力の向上と体脂肪量の減少という点でも、午前中の運動より大きなメリットが期待できると考えられた。
なお、本研究の限界点として著者らは、割付けが無作為化されていないこと、AM群よりPM群のほうが対象者数が多いこと、および全体の対象者数が十分とは言えないといった点を挙げ、より大規模な無作為化比較試験の施行など、この領域の今後の研究の充実に期待を表している。
文献情報
原題のタイトルは、「Exercise training elicits superior metabolic effects when performed in the afternoon compared to morning in metabolically compromised humans」。〔Physiol Rep. 2021 Jan;8(24):e14669〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)