糖尿病の犬の飼い主は糖尿病になりやすく、その逆の関連もあり 一方、猫では関連なし
ペットの糖尿病も今では珍しいことではない。しかし、自分が飼っている犬が糖尿病だとしたら、犬の健康を心配するだけでなく、あなた自身の健康も気を付けたほうがよいかもしれない。
飼い犬が糖尿病の場合、その飼い主が糖尿病になるリスクが高いというデータが、英国医師会雑誌「BMJ」に発表された。飼い主が糖尿病の場合には、その飼い犬が糖尿病になるリスクも高いという。一方、このような関係は、猫とその飼い主の間ではみられないとのことだ。
スウェーデンの獣医保険データを解析
健康のために身体活動を増やす目的で犬を飼い、散歩をしている人も少なくない。保健指導において、そのように提案することもあるだろう。実際に、犬を飼うことで飼い主の肥満が抑制され、かつ飼い犬も肥満になりにくくなることを示したデータが既に報告されている。では、肥満の次に起こりがちな糖尿病はどうだろうか、という疑問がこの研究の出発点だ。
この研究では、スウェーデンの獣医保険のデータベースからペットの糖尿病発症を把握した。2004~2006年に、20万8,980件の飼い犬と飼い主のペアと、12万3,566件の飼い猫と飼い主のペアが登録されていた。飼い主の糖尿病発症は、同国の患者登録制度のデータから把握した。
ヒトの糖尿病罹患率は1,000人年あたり7~8、犬は同1.3、猫は同2.2
犬の飼い主の年齢は中央値57歳(四分位範囲51~63歳)、女性50.8%、猫の飼い主の年齢は中央値55歳(四分位範囲50~61歳)、女性56.6%。犬は中央値5.4歳(2.7~8.6歳)、メスが51.0%、猫は中央値5.6歳(3.0~9.0歳)、メスが46.4%。
2007~2012年まで追跡したところ、犬の飼い主の2型糖尿病罹患率は、1,000人年あたり7.7で、猫の飼い主では7.9だった。一方、ペットの1,000匹あたりの糖尿病罹患率は、犬が1.3、猫は2.2だった。
犬のペットとその飼い主について、双方が糖尿病でないペアが94.6%を占め、飼い主が糖尿病で犬は糖尿病でないペアが5.0%、犬のみが糖尿病のペアが0.4%だった。猫のペットとその飼い主については、双方が糖尿病でないペアが95.0%を占め、飼い主が糖尿病で猫は糖尿病でないペアが4.5%、猫のみが糖尿病のペアが0.4%だった。
犬と人は関連があり、猫と人は関連がない
それでは結果をみてみよう。つまり、飼い主またはペットが糖尿病の場合に、それぞれが糖尿病でない場合に比べて糖尿病発症リスクがどの程度高くなるのかということだ。
飼い犬が糖尿病だと飼い主が糖尿病になりやすい
まず、犬との関係をみてみる。
糖尿病のない犬の飼い主と比較すると、糖尿病のある犬の飼い主の糖尿病発症の粗ハザード比(HR)は1.38(95%CI:1.10~1.74)だった。糖尿病発症に影響を及ぼし得る因子(飼い主の年齢、性別、出生地、居住地域、人口密度、教育歴、婚姻状況、可処分所得、および犬の性別、年齢、犬種など)で調整すると、HR1.32(95%CI:1.04~1.68)と関連はやや弱くなったものの引き続き有意であり、飼い犬が糖尿病である場合には飼い主も糖尿病になりやすいことが明らかになった。
飼い主が糖尿病だと飼い犬が糖尿病になりやすい傾向
反対の関係はどうだろうか。つまり、飼い主が糖尿病だと飼い犬も糖尿病になりやすいのだろうか。統計解析の結果は、粗HR1.28(95%CI:1.01~1.63)であり、その傾向が認められた。
ただし、糖尿病発症に影響を及ぼし得る前記の因子で調整後にはHR1.11(95%CI:0.87~1.63)で有意でなくなった。
飼い猫が糖尿病でも飼い主が糖尿病になりやすいわけではない
続いて猫との関係をみてみる。
糖尿病のない猫の飼い主と比較すると、糖尿病のある猫の飼い主の糖尿病発症の粗HRは0.99(95%CI:0.74~1.34)だった。糖尿病発症に影響を及ぼし得る因子で調整後はHR1.00(95%CI:0.74~1.36)であり、いずれにしても有意な関連はなかった。
飼い主が糖尿病でも飼い猫が糖尿病になりやすいわけではない
飼い主が糖尿病でない場合に比較すると、飼い主が糖尿病の場合、飼いネコの糖尿病発症の粗HRは1.00(95%CI:0.78~1.28)、糖尿病発症に影響を及ぼし得る因子で調整後はHR0.99(95%CI:0.77~1.27)であり、有意な関連はなかった。
このような関連の背景として、飼い犬と飼い主の運動量や食べ物は、飼い猫や飼い主に比べて似通っていることが多いのではないかと著者らは考察している。
文献情報
原題のタイトルは、「The shared risk of diabetes between dog and cat owners and their pets: register based cohort study」。〔BMJ. 2020 Dec 10;371:m4337〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group)