欧州25カ国15万人の子どもたちのスポーツ参加、睡眠時間、スクリーンタイムの比較
欧州25カ国15万人以上の子どもたちの身体活動、スポーツへの参加、睡眠時間、スクリーンタイムなどを国別に比較した結果が報告された。世界保健機関(World Health Organization;WHO)が公表しているデータを分析した結果であり、子どもたちの身体活動量や睡眠時間などの不均一性が浮き彫りにされている。
成人後のNCDsにつながる小児期の身体活動量の低下
小児期の習慣は、青年期、成人期にも引き継がれる傾向があるため、子どものころに健康的な身体活動習慣を身につけることが、その後の人生において健康上のメリットにつながると考えられる。しかし、外での遊び、レクリエーション活動への参加、能動的手段による移動の機会が減少するにつれて、子どもたちは世界的に不活発になりつつある。同時に、学校と余暇時間の双方で、座位行動の時間が増加している。とくに、それらよって生じる小児肥満は、成人後の生活習慣に関連した非感染性疾患(Non-Communicable Diseases;NCDs)の患者数増大の一因として指摘されている。
WHOは小児肥満に関する調査研究として、欧州小児肥満サーベイランスイニシアチブ(European Childhood Obesity Surveillance Initiative;COSI)を過去に4回実施している。今回紹介する研究論文は、4回目のCOSIのデータを分析したもの。
6~9歳の児童15万人超のデータを分析
4回目のCOSIは2015~17年度(キルギスタンのみ2017~18年度)に、36カ国で実施された。COSIのプロトコル上、対象となる子どもの年齢は各国の判断で6~9歳から選択できるが、ほとんどの国では7歳児を対象に行っていた。
36カ国からのデータのうち、国別の比較が可能なデータは25カ国分であり、そのうち15万651人分のデータが本検討に用いられた。国別の対象者数は、デンマークやアイルランド、サンマリノは1,000人未満、エストニア、イタリア、スペイン、トルコは1万人以上であり、幅広く分布していた。この相違は、調査対象年齢の児童数の違いのほかに、学校制度の違い、および各国の行政機関の意欲の違いによると考えられた。
調査項目の多くに、国ごとの大きな差が存在
調査項目は、身体活動に関するものとして、アクティブな遊び、スポーツへの参加、能動的手段での移動(主として徒歩や自転車による通学)を質問し、そのほかに、スクリーンタイム(テレビの視聴やスマホの操作時間など)と睡眠時間。
それでは順番に結果をみていこう。
アクティブな遊び
平均すると、子どもの5人に4人が少なくとも1時間/日をアクティブな遊びに充てていた。この数字は国によって異なり、モンテネグロとチェコでは、ほぼすべての子どもたちが、少なくとも1日1時間、アクティブに遊んでいたが、マルタとタジキスタンでは3人に2人未満だった。
さらに、チェコ、キルギスタン、リトアニア、モンテネグロ、ルーマニアの5カ国では、60%の子どもが1日2時間以上、アクティブな遊びに充てていた。デンマーク、カザフスタン、マルタ、ポーランド、スペイン、およびタジキスタンでは、その割合は25%以下だった。
スポーツへの参加
平均すると、過半数(53.9%)の子どもはスポーツやダンスなど身体活動のクラブに所属していなかった。一方で30.2%は週に1~3時間、15.9%は4時間以上、スポーツの練習に充てていた。
これらの数値は国により大きく異なる。デンマーク、ラトビア、イタリア、サンマリノでは、子どもたちの少なくとも80%がスポーツクラブまたはダンスクラブに所属していた。その反対に、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、トルコでは、80%以上がそれらのクラブに所属していなかった。後者の国々はまた、週に4回以上スポーツを実践する子どもの割合が10%未満と最も低くかった。一方、ラトビアはその割合が41.1%と最も高く、モスクワ地域(36.1%)とクロアチア(33.4%)がそれに続いた。
デンマーク、エストニア、スペイン、チェコ、マルタ、ポーランドの6カ国では、10人に4人以上の子どもが週に1~3時間、スポーツトレーニングを行っていた。その他の国ではすべて、その値が低かった
能動的手段での通学
平均すると、2人に1人の子ども(50.0%)が能動的手段(徒歩や自転車)で通学していた。10人に1人は能動的手段と自動車の利用を組み合わせていた。
国による大きな差はこの質問でも認められた。能動的手段での移動は、タジキスタンでは大半の子ども(94.0%)が該当したのに対し、ポルトガル、マルタ、アイルランドでは20%程度だった。後者の3カ国では、ほとんどの子供(70%以上)が自動車で学校に通っており、タジキスタンではその割合はごくわずか(約3%)だった。
中央アジア諸国では、能動的手段で通学する子どもの割合が高かった(トルクメニスタン80.5%、キルギスタン71.5%、カザフスタン70.9%)。クロアチア、エストニア、モンテネグロでは、4人に1人の子どもが能動的手段と自動車を利用していた。
スクリーンタイム
子どもたちのスクリーンタイム(テレビの視聴やスマホの操作時間など)は、60.2%が1日あたり2時間未満、25.2%が2~3時間、14.6%が3時間以上だった。スクリーンタイムが少ない(1日2時間未満)の割合は、イタリアの32.3%からスペインの80.0%まで、国により大きな差がみられた。
1日約1時間をスクリーンタイムとして費やしている子どもの割合は、約4分の1(26.5%)から半分以上(58.9%)に分布し、1日約2時間をスクリーンタイムとして費やしている子どもの割合は、16.8%から41.6%に分布した。
睡眠時間
平均すると1日の睡眠時間は9~11時間の範囲に84.9%が該当した。
この値が最も低い国はアイルランドで、推奨睡眠時間を満たしていたのは子どもたちの半数だった。ポルトガルとスペインでは、95%を超える子どもたちが9~11時間睡眠していた。
平均的に約5%の子どもが睡眠時間9時間未満だった。国別では、デンマーク、アイルランドは該当する子どもがほぼないに等しく、ブルガリア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタンでは15%を超えてた。
性別による違い
上記の結果を性別に比較し解析した結果もまとめられている。
アクティブな遊び
10カ国のデータの比較では、男児に比べて女児はアクティブな遊びを行っている割合が低かった。サンマリノ、スペイン、トルコでは、男児と女児の差が5ポイントを超えていた。
スポーツへの参加
ほとんどの国で、女児は男児よりもスポーツへの参加率が低かった。女児は男児よりもスポーツやダンスクラブに所属していない割合が高く(56.3 vs 51.8%)、週に4回以上トレーニングを行っている割合は低かった(11.8 vs 19.7%)。
スクリーンタイム
ほとんどの国では1日3時間以上をスクリーンタイムに充てる子どもは、女児よりも男児の方が多かった。
能動的手段での通学や睡眠時間
徒歩や自転車で通学する割合、および睡眠時間に関しては、性別による大きな差は認められなかった。これらの結果を著者は、「欧州の6~9歳の子どもたちの身体活動、スクリーンタイム、睡眠時間に大きな差が存在することが明らかになった。これらに対し、各国が対策を強化する際に優先順位をつけるうえで有用な情報となり得る。身体活動の増加と過睡眠時間の確保のため、国ごとのローカルアクションが求められる」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Physical Activity, Screen Time, and Sleep Duration of Children Aged 6-9 Years in 25 Countries: An Analysis within the WHO European Childhood Obesity Surveillance Initiative (COSI) 2015-2017」。〔Obes Facts. 2020 Dec 22;1-13〕
原文はこちら(Karger AG)