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国際スポーツイベントでのケータリングの理想形は? コモンウェルスゲームズのケーススタディ

国際スポーツイベントにおけるケータリングは、現在行われている方法が最善なのだろうか? 改善の余地はないのだろうか? もし改善の余地があるのなら、それはどのような点だろう? これらの疑問をあぶり出し、改革の方向性を示した論文が発表された。2018年のコモンウェルスゲームズでケータリングの運営にかかわった、さまざまな立場の関係者12名にインタビューしてまとめた報告であり、「より適切なメニューの提供のために関係者は変化の必要性を認識しているにもかかわらず、障壁が存在する」と結論されている。

国際スポーツイベントでのケータリングの理想形は?

現在のケータリングシステムは最善か?

スポーツイベントでのケータリングは、アスリートや運営関係者の食欲を満たすだけでなく、アレルギーへの対応はもちろん、近年では世界的な健康問題を視野に入れ、かつ持続可能性にも配慮が求められる。国際大会であれば、アスリートの出身国、文化的背景(ハラール食など)も考慮が必要となる。

これまでのところ、各イベントでのケータリングがどのように行われるかは主として入札業者と地元の組織委員会の裁量に委ねられていて、大規模な国際大会でケータリングを提供可能な業者は数が少ないこともあり、毎回同じ業者が運営に参画することが多い。しかし、現在のケータリングシステムが最善か否かは検討されていない。

アスリートの栄養という点では、イベントにスポーツ栄養士が同行できる参加国はまだ少ないため、ケータリングシステムに不足があるとしたら、それが成績に影響を及ぼすこともあるだろう。本論文の著者らはこれらの点を、国際大会のケータリング運営関係者に対する半構造化インタビューによって明らかにすることを試みた。

2018年のコモンウェルスゲームズ関係者にインタビュー

対象としたのは2018年に開催されたコモンウェルスゲームズ。コモンウェルスゲームズは、イギリス連邦加盟国・地域により4年ごとに行われる競技会で、2018年大会はオーストラリアで開催された。大規模なスポーツイベントでは一般に、選手村でのケータリングと競技会場内でのケータリングに分かれ、互いに独立して運営され個別に入札される。通常は選手村のケータリングシステムのほうが規模が大きく複雑。本研究でも選手村のケータリングサービスが調査された。

2018年大会では、アスリートと関係者、約8,000人が選手村に滞在。食堂には約4,000席が設けられ、ピザ、パスタ、アジア料理、アフリカ料理、ハラール食などが、24時間にわたり提供された。サービス方式は、夏/冬のオリンピック、パンアメリカン競技大会、アジア競技大会など、多くの国際大会と同様の方式が採用されていた。

研究者によるインタビューは、12名の運営関係者に対して行われた。12名の立場は、プロジェクトマネージャー、セカンドマネージャー、栄養チーム、受託業者など多岐にわたった。

8件のメインテーマが明るみに

論文ではインタビュイー(インタビューを受けた側)の回答から代表的なコメントを具体的に挙げたうえで、その内容の解析により、検討すべき8件のメインテーマを絞りだしている。ここではその8件のテーマについてのみ紹介する。

テーマ1:初期の計画段階から栄養専門家が参画する必要性

栄養専門家のケータリングチームへの早期の関与、栄養介入が重要であることが、計画段階では認識されていたが、これを可能にするために予算を割り当てる必要があった。

テーマ2:計画とプロセスに改善の余地

メニュー計画と食材調達の時間枠が限られており、結果として提供する食品の変更が避けられなかった。ケータリング業務の範囲が会場に限定され、組織の階層とスポンサーシップの問題により、食品提供への統合的なアプローチが妨げられた。

テーマ3:メニュー改善の必要性

参加者の満足度の向上を狙ううえで、コストや参加者の特性、調理担当者の創造性などの要因の影響があった。

テーマ4:調理担当部門と栄養チームを統合するテクノロジーが必要

今回だけでなく過去の大会に関しても、栄養表示が懸念事項として挙げられた。テクノロジーによりシステマティックに改善できる可能性があるが、限られた予算、過去のイベントで採用されたアプローチに固執する傾向のある組織委員会の保守的な見解、トレーニングを受けていないスタッフの労働力などの障壁が認められた。

テーマ5:食物アレルゲンと不耐性の問題

食物アレルギーのある人のニーズに応える必要性は高まっているが、認識していないスタッフも存在する。アレルゲン除去が容易なキッチンやグルテンフリーメニューの開発などの提案がみられたが、食材の調達を含むコストが懸念された。

テーマ6:システムコントロールの障壁

計画段階と運用段階の双方において、システムコントロールの推進に対する抵抗が認められた。障壁は組織委員会レベルにあると特定され、運用レベルでの組織の変更は困難と認識されていた。

テーマ7:スタッフの経験とトレーニングが重要

運用プロセスを理解し経験のある個人への期待が大きかった。とくに適応性が高く柔軟性があり、マルチスキルであることが、環境変化の対応に重要な特性として認識されていた。ケータリングスタッフに対する栄養チームによる介入(トレーニング)も、その重要性が認識されていた。

テーマ8:クライアントの知識、理解、期待が高まっている

アスリートは自身の健康を重視し、自分が何を食べるべきかについてよく教育されている。そしてアスリートやチームは、特定のメニュー項目と文化的に適切な食品を要求する。この要求に応えるには、イベント開催前にチームとのコミュニケーションが必要であると考えられた。

関係者内での不均一性

インタビューに回答した関係者内での不均一性もみられた。調理担当部門と栄養チームは、初期の計画段階から協力すること(テーマ1)を重視しており、その上で栄養チームは関係者それぞれの役割を理解する必要性について、さらにコメントを加えていた。

食物アレルギーに対するニーズの高まり(テーマ5)はすべての関係者が認識していたが、ケータリングスタッフの食物アレルゲン管理の意識が欠如していることに関しては、安全責任者と栄養チームがとくに強く懸念を表明していた。また、栄養チームはイベント全体(選手村と会場)のケータリングでの提供内容の調和を重視していたが、調理担当部門は食品供給のロジスティクスとコストにより強い関心を持っていた。

著者らは、「栄養の重要性に対する意識の高まりと、食物アレルギーの問題の増加に対応し、現在のシステムを変更することに関係者は概してオープンであることがわかった。ただし、組織の階層構造および予算による障壁により、変更する力が制限されている」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Inclusion of Nutrition Expertise in Catering Operations at a Major Global Sporting Event: A Qualitative Case Study Using a Foodservice Systems Approach」。〔J Acad Nutr Diet. 2021 Jan;121(1):121-133.e1〕
原文はこちら(Elsevier)

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