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消防士の健康を睡眠で守る「不眠症と悪夢への介入研究」の成果 韓国からの報告

2021年01月13日

どんな仕事にもそれぞれに特有のストレスがついてまわる。職種によって、身体的なストレスの強いもの、精神的なストレスの強いものがあるが、なかには双方のストレスが強くかかる職業もある。消防士もその一つに挙げられる。

消防士の健康を睡眠で守る「不眠症と悪夢への介入研究」の成果 韓国からの報告

消防士は火災現場での消化活動では、重装備での暑熱環境下で熱中症リスクを含めて強い身体的ストレスを強いられ、人名救助という精神的ストレスもかかるが、それだけでなく、交替勤務や心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder;PTSD)の影響による睡眠障害の有病率も高いとされる。そのような消防士の睡眠障害に対する介入効果の研究結果が韓国から報告された。交替勤務や頻繁な派遣などのため長期の治療を行えない消防士向けに開発された介入法であり、その有意な改善効果を確認できたという。

睡眠障害のリスクが高い消防士対象の介入法の開発

交代勤務者は睡眠障害の頻度が高いことが知られている。消防士の睡眠障害の頻度については、米国からは37.2%という数値の報告がある。本研究においても後述するように、ベースライン時点においては、臨床的に不眠症と判定される程度の睡眠習慣の消防士が過半数を占めていた。また韓国からは、消防士の不眠症の症状が、消火と緊急救助の出動頻度に関連している可能性が指摘されている。

消防士はPTSDのリスクも高い。危険性の高い現場で事故などを繰り返し目撃するためで、消防士のPTSD有病率は6.5~37%と報告され、また19.2%の消防士は悪夢を見ると報告されている。悪夢もまた睡眠障害や不眠症の主要な原因の一つである。

不眠症に対して認知行動療法が一定の効果があるが、消防士のような頻繁な交替勤務や他の地域への派遣などによる治療中断は考慮されておらず、治療を完結するうえで支障がある。そこで韓国では、そのような勤務形態の消防士へも適用可能な短期間で終了する不眠症治療法の開発が進められた。同国の消防士の睡眠を改善する目的で「睡眠パネル研究(Sleep Panel Study;SLEPS)」と呼ばれる研究が実施され、その一環として新たに開発された消防士向けの不眠症治療プログラムの効果を検討した結果が、今回紹介する論文だ。

介入対象と介入プログラム

対象は、韓国内から募集された消防士45名で、うち6名は介入中に転勤等の理由で脱落し、解析は39名で行われた。年齢は43.33±9.32歳で、84.6%が男性、勤務歴9.98±7.62年であり、61.5%が交替勤務で就業していた。

睡眠改善プログラムの内容と評価指標

介入プログラムは、90分のセッションを週3回(90分の対面グループセッションが2回と20分の電話セッションが1回)で構成されている。

最初のセッションのテーマは「睡眠教育」。ここでは以下のような内容を伝える。前夜の就寝がいかに悪くても毎日同じ時刻に目を覚まし、眠くない限り就寝しない/就寝しない限りベッドに入らない/休日に起きているときにベッドで過ごす不必要な時間を減らし、夜勤の翌日の睡眠時の睡眠環境に対処する/部屋を暗くする、耳栓で騒音をシャットアウトする、など。この睡眠教育の後、セラピストとともに個々の睡眠目標を設定し、睡眠日誌のつけ方が伝えられた。

2回目のセッションのテーマは「悪夢」。横隔膜呼吸とリラクゼーションの仕方を伝え、セラピストの指導により、悪夢をほかの夢に変える方法が助言された。3回目の最後のセッションは「変化の維持」をテーマとし、個別のセッションとして電話で行われた。

これらの介入の効果の評価には、睡眠日誌に基づく入眠潜時(就寝から入眠までの所要時間)、覚醒回数、入眠後の覚醒回数、合計睡眠時間、睡眠効率、不眠症重症度(Insomnia Severity Index;ISI)、不穏な夢と悪夢の重症度(Disturbing Dream and Nightmare Severity Index;DDNSI)、日中の眠気(Epworth Sleepiness Scale;ESS)という睡眠関連指標、および、うつ症状に関連する患者健康質問票-9(Patient Health Questionnaire-9;PHQ-9)、PTSDチェックリスト-5(PTSD Checklist-5;PCL-5)うつ症状-自殺傾向スケール(Depressive Symptom Inventory-Suicidality Subscale;DSI-SS)というメンタルヘルス状態の評価指標を用いた。

評価指標の多くが有意に改善

介入前後で比較すると、評価した指標の多くで有意な改善が認められた。具体的にいくつかをピックアップすると、以下のとおり。

まず、睡眠に関連する指標として、入眠潜時は33.51±34.79分から21.79±21.80分(p=0.048)、覚醒回数は0.88±1.11回から0.58±1.00回(p=0.015)、就寝時間は6:50±0:48から6:30±0.38(p=0.39)、睡眠効率は80.87±12.97%から87.33±10.05%(p=0.005)、不眠症の重症度(ISI)は15.33±4.78から10.87±4.86(p<0.001)、悪夢の重症度(DDNSI)は5.08±6.74から1.75 ±4.51(p=0.003)、日中の眠気(ESS)は8.51±4.05から7.05±3.28(p=0.016)と、有意に改善した。

不眠症の重症度(ISI)に関して、臨床的カットオフ値(15点)を超える有病率は、介入前には53.8%と半数以上だったが、介入による寛解率が76.19%であり、介入後の有病率は15.4%に低下していた。

メンタルヘルス状態に関しても、うつ症状(PHQ-9)が6.79±5.09から4.67±4.65(p=0.009)と、有意に改善していた。

文献情報

原題のタイトルは、「The Development of a Sleep Intervention for Firefighters: The FIT-IN (Firefighter's Therapy for Insomnia and Nightmares) Study」。〔Int J Environ Res Public Health. 2020 Nov 24;17(23):E8738〕
原文はこちら(MDPI)

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