ベジタリアンは骨折に要注意! リスクが有意に上昇するとの前向き研究の結果報告
ベジタリアンやビーガンなどの菜食主義者のアスリートも増えているようだが、骨折リスクを念頭に置いておいたほうが良いかもしれない。菜食主義者は骨折リスクが有意に高いことが、前向き研究の結果から明らかになった。
5万人以上を17年半追跡し、菜食主義者の骨折リスクを検討
この研究は、英国で行われたベジタリアン食に関するコホート研究「EPIC-Oxford研究」のデータを解析したもの。1993~2001年に登録された5万4,898人を平均17.6年追跡した。
ビーガン、ペスクタリアン、ベジタリアン、および雑食の4群で比較
骨折リスクは研究登録時の食事調査をもとに、全体を4群に分類して比較した。主な身体関連指標、生活習慣関連指標、食事摂取量とともに以下に示す。
非ベジタリアン
肉も食べる雑食者、いわゆる一般的な食生活の人。2万9,380人(53.5%)。50.1±13.1歳、女性76.9%、BMI24.5±4.0、摂取エネルギー量1,979±536kcal/日、カルシウム摂取量1,005±314mg/日、蛋白質エネルギー比17.0±3.0%、中~高強度運動をする人の割合30.7%、栄養補助食品利用者55.4%。
ペスクタリアン
魚は食べるが肉は食べない人。8,037人(14.6%)。42.7±13.3歳、女性82.3%、BMI23.0±3.4、摂取エネルギー量1,896±527kcal/日、カルシウム摂取量1,033±349mg/日、蛋白質エネルギー比14.7±2.4%、中~高強度運動をする人の割合39.4%、栄養補助食品利用者64.3%。
ベジタリアン
肉と魚を食べないが乳製品や卵は食べる人。1万5,499人(28.2%)。40.0±13.5歳、女性76.9%、BMI22.9±3.5、摂取エネルギー量1,879±529kcal/日、カルシウム摂取量1,030±369mg/日、蛋白質エネルギー比13.6±2.1%、中~高強度運動をする人の割合39.0%、栄養補助食品利用者56.9%。
ビーガン
肉や魚、乳製品を食べない完全菜食主義者。1,982人(3.6%)。38.9±13.6歳、女性63.9%、BMI22.1±3.0、摂取エネルギー量1,754±553kcal/日、カルシウム摂取量591±237mg/日、蛋白質エネルギー比13.3±2.3%、中~高強度運動をする人の割合45.3%、栄養補助食品利用者51.9%。
多くの点で差異がみられるが、とくにビーガンのカルシウム摂取量(591mg/日)が他群に比較し極端に少ないことがわかる。なお、ついでながら日本人の平均摂取量は本研究のビーガン群より少なく、令和元年国民健康栄養調査では505mg/日。
栄養補助食品の利用や女性の閉経状態・出産歴など多因子で調整し検討
骨折の発生は、医療保険データベースから把握した。追跡期間中に3,941件の骨折が記録されていた。部位別では、腕が566件、手首が889件、大腿骨近位部が945件、脚が366件、足首が520件、その他の主要部位(鎖骨、肋骨、椎骨)が467件。
菜食主義と骨折リスクの関係は、雑食者のリスクを基準に他の3群のリスクを比較し検討した。解析にあたり、骨折リスクに影響し得る因子(年齢、性別、研究登録年、BMI、身長、飲酒・喫煙・身体活動習慣、民族、居住地域、栄養補助食品の使用、生活水準、女性の出産歴・閉経状態〈閉経前/閉経後〉・ホルモン補充療法の施行)を調整し、影響を除外した。
大腿骨近位部骨折は、全タイプの菜食主義者で有意にリスク上昇
統計解析の結果、菜食主義による以下の骨折の有意なリスク上昇が認められた。
ビーガンでは総骨折、大腿骨近位部骨折、脚の骨折などがハイリスク
ビーガンでは、まず、すべての骨折の合計(総骨折)の有意なリスク上昇が認められ、HR1.43(95%CI:1.20~1.70)だった。推算発生件数で比較すると、非ベジタリアンに比べて10年間で1,000人当たり14.9件(95%CI:7.9~24.5)増加すると見積もられた。
部位別にみても、大腿骨近位部(HR2.31,1.66~3.22)、脚(HR2.05,1.23~3.41)、その他の主要部位(HR1.59,1.02~2.50)の骨折リスクが有意に高かった。
大腿骨近位部骨折リスクは、ビーガン以外の菜食主義タイプでもハイリスク
大腿骨近位部骨折に関しては、ビーガン以外の菜食主義タイプでも有意にハイリスクだった。具体的には、ペスクタリアンでHR1.26(1.02~1.54)、ベジタリアンではHR1.25(1.04~1.50)だった。
推算発生件数で比較すると、非ベジタリアンに比べてペスクタリアンでは10年間で1,000人当たり2.9件(0.6~5.7)、ベジタリアンでは2.9件(0.9~5.2)、大腿骨近位部の骨折が増えると見積もられた。
蛋白質やカルシウム摂取量で調整しても、なお有意なリスク上昇
骨折リスクに影響しうる因子として、前記したもの以外に、蛋白質摂取量やカルシウム摂取量が挙げられる。本研究では、調整因子にそれら2項目を追加した場合の解析も行っている。その結果、それらで調整してもなお、骨折リスクの有意な上昇が認められた。
具体的には、ビーガンの総骨折がHR1.30(1.08~1.56)、大腿骨近位部骨折がHR1.94(1.35~2.77)、脚の骨折がHR1.81(1.04~3.15)であり、ペスクタリアンでも大腿骨近位部骨折がHR1.25(1.01~1.55)だった。
著者らは本研究を「ベジタリアンやビーガンの総骨折および部位別の骨折リスクを前向きに検討した初めての研究」だと述べている。限界点として、栄養補助食品を細分化して調査しておらず、カルシウムサプリメントの摂取状況が不明であることなど挙げたうえで、結論としては「肉を食べない人、とくにビーガンは、総骨折および一部の特定部位の骨折、なかでも大腿骨近位部骨折のリスクが高い」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Vegetarian and vegan diets and risks of total and site-specific fractures: results from the prospective EPIC-Oxford study」。〔BMC Med. 2020 Nov 23;18(1):353〕
原文はこちら(Springer Nature)