ビタミンEやCのサプリをとるべきか否か 抗酸化作用の期待とパフォーマンスへの影響
運動中の酸化ストレスの増加はフリーラジカルの生成をもたらし、筋肉の損傷、倦怠感、およびパフォーマンスの低下につながる。そのため、抗酸化物質としてのビタミンEやCに、パフォーマンスを高める可能性が期待されている。一方、フリーラジカルは細胞内のさまざまなシグナル伝達経路を活性化するため、抗酸化物質の補給によって、それが影響されるとも考えられる。
このように相反する影響が生じる可能性のあるビタミンEやCの摂取に関するレビー論文が発表された。これまでの研究の条件が異なるため、明確な結論を導くのは困難というのが論旨だが、高地トレーニングを行っているアスリートや短期間のパフォーマンス向上を求めるアスリートを除けば、サプリメントからの補給は有益でない可能性があるという。著者らは、「アスリートがビタミンEやCの摂取推奨量を満たすには、それらが豊富な果物と野菜を摂取することを勧める」と述べている。
サプリメントから摂取すべきか否か
抗酸化サプリメントを摂取しているアスリートの大半は、すでにビタミンCとEの摂取推奨量を満たしていると考えられる。近年、抗酸化サプリメントの使用は、筋肉ミトコンドリアの生合成や肥大などの重要なシグナル伝達を阻害または減衰させる可能性があることが指摘されている。
この研究では、PubMed、Scopus、Web of Sciencesという文献データベースに、2020年10月までに収載された論文を対象としたシステマティックレビューを行った。検索キーワードは、ビタミンC、アスコルビン酸、ビタミンE、トコフェロール、運動、トレーニング、運動パフォーマンス、有酸素、筋力トレーニング、持久力、筋力、筋肥大、および適応。選択基準は、運動トレーニングと組み合わせたビタミンCまたはビタミンEのサプリメント(それぞれ単独、または併用)の影響を検討した論文。2人の研究者が独立してスクリーニングし、適格性を評価した。
ビタミンE摂取と運動パフォーマンスとの関連を検討した研究は、ヒトを対象とするものが21件、動物実験が12件だった。これらには、ビタミンCと同時摂取して影響を検討した研究も含まれている。また、ビタミンCに関しては9件の論文がヒットした。
著者らはこれらの報告をもとに、ビタミンEやCの抗酸化作用に関する検討と、パフォーマンスへの影響に関する検討を行っている。そのうち後者のパフォーマンスに関する検討について、一部を抜粋し紹介する。
ビタミンE、Cの補給とスポーツパフォーマンス
高地トレーニング
高地トレーニングは、活性酸素窒素種(reactive oxygen and nitrogen species;RONS)の生成と酸化ストレスを増加させるため、アスリートに抗酸化サプリへの関心を高める。実際、高地トレーニングを行っている持久力アスリートの間で、抗酸化サプリの使用が急増していると報告されている。
高地の特徴は酸素利用能の低下であり、それに対し生体内ではヘモグロビン等の血液中の重要な酸素運搬成分を増やす。ビタミンEは、赤血球構造の維持という役割の結果として、高地トレーニングでのパフォーマンスを向上させる可能性がある。高地トレーニングでは赤血球溶解が発生することが指摘されているが、ビタミンEの補給により抑制される可能性がある。
一方、高地でのエネルギー消費の増加によって誘発される酸化ストレスのマーカーに、抗酸化ビタミンは有意な影響を及ぼさなかったとの報告もみられる。
ミトコンドリア生合成
ビタミンC(1g/日)とE(400IU/日)の併用が、ミトコンドリア生合成におけるmRNA発現を減少させるという研究結果が報告されている。この阻害作用の多くは、ビタミンEではなく、1日あたり1gという高用量のビタミンCに起因しているとの指摘もある。したがって、筋合成の鈍化が1g/日のビタミンCのみで観察されるか否かを検討する、さらなる研究が必要とされる。
ただ、ミトコンドリア生合成への潜在的なマイナス作用にもかかわらず、ビタミンCとEの併用によって、運動パフォーマンスに悪影響が生じることを示した報告は存在しない。
骨格筋収縮力
動物実験では、ビタミンEとα-リポ酸の同時投与により、負荷をかけていない状態での骨格筋の収縮力が低下することが報告されている。これは主にビタミンEによって媒介されることが示されている。
一方、ビタミンC(500mg/日)とビタミンE(1,200IU/日)の併用が、高強度負荷後の筋収縮力の回復を促すという報告がある。しかしそれを否定する研究も存在する。
全体として、骨格筋の収縮機能に対するビタミンCとEの補給の効果は一貫しておらず、今後の研究が必要。
骨格筋肥大
12週間の筋力トレーニング中にビタミンC(500mg/日)とビタミンE(175IU/日)を併用すると、脚の除脂肪体重と大腿直筋の厚さの増加が減弱したとの報告があるが、対照的に、筋力トレーニングとビタミンC(1g/日)とビタミンE(400IU/日)の併用によって、除脂肪体重が有意に増加したとの報告もある。ただし、前者は高齢者を対象に実施されており、解釈を困難にしている。
抗酸化物質の補給は、ユビキチンプロテアソーム経路への働きを介して蛋白分解を抑制するとの研究もみられる。この点は、追試されるべき知見だろう。ビタミンEの筋肥大と筋力パフォーマンスに及ぼす影響を評価するには、さらに多くの研究が必要。
個別化アプローチを強く推奨
本研究の結論としては、冒頭に記したように、「それぞれの研究対象者の健康状態、補給プロトコル(種類、投与量、期間、タイミング)、運動の種類・強度が異なるため、抗酸化物質補給の効果について明確な結論を出すことは困難」というものだ。また、女性対象にビタミンEの影響を調査した研究はほとんどないという。さらに、ビタミンEは他の抗酸化物質(多くはビタミンC)と併用されることが多いため、ビタミンE単独の効果について結論を出すことはできないとも述べている。
それらの限界点を挙げたうえで、現時点のエビデンスからは、以下に述べる2つの領域を除き、大多数のアスリートの健康または運動パフォーマンスに対するビタミンEサプリメントの一貫したプラスの効果は示されていないとしている。
ビタミンE摂取が有望な2領域とは、1つは高地トレーニングだ。ビタミンE摂取により赤血球の変形が減り、プラスの効果を得られるかもしれない。ただし結論はまだ決定的とは言えず、さらなる研究が必要。
もう1つの点は、摂取後の急性効果だ。抗酸化物質の補給により、回復間隔が短い高強の運動中のパフォーマンスを改善する可能性がある。パフォーマンスの即時向上が望まれる場合に、抗酸化物質の補給がアスリートにとってメリットをもたらすかもしれない。ただしこの点についても、ビタミンE単独摂取の影響はほとんど研究されていない。
まとめると、高地トレーニングまたは急性パフォーマンス向上を期待するアスリートを除いて、ビタミンCの有無にかかわらず、ビタミンEの補給はアスリートに追加のメリットとならないのではないか。抗酸化サプリメントは同化シグナル伝達経路を遮断する傾向があり、筋力トレーニングへの適応を損なう作用も想定される。よって、アスリートはサプリメントのかわりに、抗酸化物質が豊富な果物、野菜等をとり、そのうえでのサプリメント摂取は個別に判断することが強く推奨される。
文献情報
原題のタイトルは、「Antioxidants and Exercise Performance: With a Focus on Vitamin E and C Supplementation」。〔Int J Environ Res Public Health. 2020 Nov 15;17(22):8452〕
原文はこちら(MDPI)