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職業上の身体活動は健康に有益? 有害? レビュー36報のアンブレラレビュー

2020年12月05日

身体活動にはさまざまな健康上のメリットがあることは確かだ。しかし、健康増進を目的とした余暇時間の身体活動ではなく、仕事のために行う身体活動、いわゆる肉体労働も、やはり健康に良いのだろうか? この疑問に対する一つの答が報告された。これまでの研究報告のシステマティックレビューを対象とした、アンブレラレビューの結果であり、英国スポーツ運動医学会の「BMJ Open Sport Exerc Med」に論文が掲載された。

職業上の身体活動は健康に有益? 有害? レビュー36報のアンブレラレビュー

職業上の身体活動が全死亡リスクと相関するとの報告もある

世界保健機関(WHO)のガイドラインでは、余暇時間の身体活動(leisure-time physical activity;LTPA)と、職業上の身体活動(occupational physical activity;OPA)の差についての明確な記載はみられない。つまり、両者に同等のメリットがあることを意味していると解することも可能だ。ところがWHOガイドラインの作成時にエビデンスとして参照された研究のほとんどは、余暇時間の身体活動の効果を検討した研究である。

実際のところ、LTPAとOPAでは、健康への影響が異なるとの報告があり、「PAパラドックス」と呼ばれる現象の存在が示唆されている。例えば、前向きコホート研究では、LTPAが全死亡(すべての原因による死亡)のリスク低下と関連しているのに対し、OPAは反対にリスク増大と関連しているとの報告がある。この相違が、普遍的なものなのか、職種、身体負荷、死因等により異なるのかは明らかになっていない。

今回紹介する研究は、OPAと癌、冠動脈疾患、全死亡による死亡率との関係や用量反応関係を明確にするために行われた研究であり、WHOの身体活動と座位行動に関するガイドライン作成のためのレポートに基づくもの。

文献検索の対象と方法

文献検索には、PubMed、CINAHL、Web of Science、Embase、Sportdiscussが用いられた。各データベースの開始時点から2019年12月2日までの文献を対象とし、OPAやシステマティックレビュー、メタ分析などに関するキーワードで検索。ヒットした573件の論文をスクリーニング後、独立した2名の研究者が73件の論文をレビューし、採否を検討。結果の不一致は3人目の研究者との協議にて検討し決定した。

最終的に36報のレビュー論文が抽出された。OPAとの関連が解析されていた最も多い疾患は癌で、論文数は24報だった。その他は、冠動脈疾患と変形性関節症がそれぞれ3報、全死亡が2報であり、高血圧、2型糖尿病、不眠症、メンタルヘルスが各1件だった。肥満や認知機能、健康関連の生活の質(health-related quality of life;HRQOL)に関するレビューは抽出されなかった。

エビデンスの質は、「高」「中」「低」「非常に低い」の4種類に分けて判定。高に該当するものはなく、中が8件、低が22件、非常に低いが6件だった。

全体的にLTPAに近い効果があるものの、男性の全死亡などはマイナス効果の可能性

結果は、OPAと健康アウトカムとの関連、その用量反応関係、およびOPAとLTPAの比較という三つの視点でまとめられている。

OPAと健康アウトカムとの関連

158件の個別研究を対象とする17報のレビュー論文の解析により、OPAと23項目の健康アウトカムが検討された。その結果、OPAによる、結腸癌、子宮内膜癌、前立腺癌、脳卒中、冠動脈疾患、メンタルヘルスに対するメリットが確認された。

その一方でOPAは、変形性関節症(リスク比〈RR〉1.45,95%CI:1.20~1.76)、睡眠障害(RR2.76,1.71~4.45)、男性の全死亡(RR1.18,1.05~1.34)、精神疾患(元の論文にRRの記載なし)の有意な悪化と関連していた。また、高血圧、腎臓癌、食道癌、女性の全死亡とは、有意な関連がみられなかった。

OPAと健康アウトカムの用量反応関係

5件の個別研究を対象とする3報のレビュー論文の解析により、OPAとアウトカムの用量反応関係が検討された。

結腸癌に関しては、OPAが210METs・時/週多いごとにRR0.86(95%CI:0.80~0.91)の有意なリスク低下が認められた。同じレビューでは、直腸癌に関しては有意な関連は認められていない。また、高血圧との用量反応性を検討した他のレビューでも、有意な関連は認められていない。

脳卒中に関しては、用量反応性を検討するのに十分なデータが得られなかった。

OPAとLTPAの比較

OPAとLTPAの比較では、検討可能であったアウトカムのほとんどで、影響の方向性と影響の大きさのいずれも、ほぼ同等と考えられた。

ただし、冠動脈疾患、2型糖尿病、および遠位結腸癌に関しては、OPAよりLTPAのほうがより高い保護効果を示し、有意な群間差が存在した。それぞれのリスク比は以下のとおり。冠動脈疾患はOPAがRR0.84(95CI:0.79~0.90)に対して、LTPAはRR0.74(0.70~0.79)、以下同様に、2型糖尿病はOPA0.85(0.79~0.92)、LTPA0.74(0.70~0.79)、遠位結腸癌はOPA0.61(0.53~0.70)、LTPA0.40(0.30~0.53)。

なお、OPAでマイナスの影響が認められた前述のアウトカム(男性の全死亡、変形性関節症、睡眠障害)については、LTPAでのリスク比がレビューされていなかったため、OPAとの比較ができなかった。

以上より著者らは、「OPAは多くの健康関連アウトカムに対する好ましい影響が認められたが、いくつかのアウトカムとはこのましくない関連を示すエビデンスも存在した。今後は、社会経済的地位、身体活動以外の生活習慣因子などの交絡因子を考慮した研究、およびそれらに基づくシステマティックレビューの定期的な更新を実施していく必要がある」と結論を述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「How does occupational physical activity influence health? An umbrella review of 23 health outcomes across 158 observational studies 」。〔Br J Sports Med. 2020 Dec;54(24):1474-1481〕
原文はこちら(British Association of Sport and Exercise Medicine)

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