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年齢・肥満によらずふくらはぎ周囲長でサルコペニアのスクリーニングが可能

ふくらはぎ周囲長によりサルコペニアをスクリーニングする際のカットオフ値は、年齢や肥満の有無によらず、男性は35cm、女性は33cm程度が妥当であることが、日本人対象の研究から明らかになった。早稲田大学スポーツ科学学術院の川上諒子氏らが、同大学の同窓生を対象とする「WASEDA'S Health Study」のデータを解析した結果であり、「Geriatrics & Gerontology International」10月号に論文が掲載された。

年齢・肥満によらずふくらはぎ周囲長でサルコペニアのスクリーニングが可能

サルコペニアへの早期介入には、簡易なスクリーニング法が必要

筋肉量や筋力が低下した状態「サルコペニア」は、QOLの低下にとどまらず、転倒や骨折および死亡のリスクが高くなる。加齢とともにその有病率は上昇するものの、運動・栄養介入によって予防・改善が可能。そのため、スクリーニングにより早期に見いだすことがポイント。

サルコペニアの診断には、DXA 法(二重エネルギーX 線吸収測定法)などによる骨格筋肉量の測定や、歩行速度の計測などが行われる。ただ、サルコペニアのスクリーニングの対象とすべきは、特定の疾患罹患者に限らず高齢者全体であることから、コスト・時間の負担や放射線被曝のリスクを回避するために、より短時間で行える簡便な判定方法が必要とされる。

簡便なスクリーニング法の一つとして、2019年にアジアサルコペニアワーキンググループ(Asian Working Group for Sarcopenia;AWGS)から、最初にふくらはぎ周囲長を測り、その基準値を下回った場合に、握力や椅子立ち上がりテストなどによって、より詳細に判定するという現場向けの診断基準が発表された。その診断基準におけるふくらはぎ周囲長の判定値は、「男性34cm未満、女性33cm未満」とされている。

ただし、この値に関しては、年齢や肥満の影響が不明であり、骨格筋肉量の測定に用いられるDXA法または生体インピーダンス法(BIA法)のいずれによる診断と相関する値なのかがわからず、また日本人に適用可能か否かも検証されていない。川上氏らの研究は、これらの点を明らかにすることを狙ったもの。

早大卒業生対象の長期観察研究「WASEDA'S Health Study」のデータを解析

この研究には、早稲田大学の卒業生を対象として、運動や食事などの生活習慣が健康に及ぼす影響を長期間観察している「Waseda Alumni's Sports, Exercise, Daily Activity, Sedentariness and Health Study;WASEDA'S Health Study(早稲田大学校友を対象とした健康づくり研究)」のデータが用いられた。

解析対象者の特徴

解析対象は、2015年3月~2020年1月に健康調査を受けた人の中で、ふくらはぎ周囲長と、DXA 法およびBIA法による筋肉量が測定されていた40歳以上の1,239人とした。性別にみた特徴は以下のとおり。

男性は827人で、年齢57±10歳、BMI23.8±3.0kg/m2、体脂肪率20.4±4.7%、ふくらはぎ周囲長は37.6±2.6cmであり、骨格筋量指数(Skeletal Muscle mass Index;SMI.四肢筋肉量を身長の二乗で除した値)は、DXA法では7.9±0.8kg/m2、BIA法では8.3±0.9kg/m2だった。また、サルコペニアの診断基準に採用されている握力は、37.9±5.8kgだった。

女性は412人で、年齢52±9歳、BMI21.4±2.9kg/m2、体脂肪率27.2±5.1%で、ふくらはぎ周囲長は34.4±2.2cmであり、SMIはDXA法で6.1±0.7kg/m2、BIA法で6.4±0.6kg/m2、握力は24.5±3.7kgだった。

サルコペニア群と非サルコペニア群の比較

DXA法による判定で、男性の8.6%、女性の12.9%がサルコペニアに該当

AWGSのサルコペニア診断基準では、DXA法によるSMI判定基準を男性の場合7.0kg/m2未満、女性の場合5.4kg/m2未満として、BIA法では同順に7.0kg/m2未満、5.7kg/m2未満としている。

今回の解析対象者にこの基準を適用すると、サルコペニアの有病率は、DXA法では男性の8.6%、女性の12.9%、BIA法では同順に4.1%、6.6%と計算された。

年齢や体脂肪率に群間差はなく、ふくらはぎ周囲長やSMIは群間差あり

DXA法により判定されたサルコペニア群と非サルコペニア群を比較すると、男性、女性ともにサルコペニア群は、BMI、ふくらはぎ周囲長、SMI、握力が有意に低かった。その一方、年齢や体脂肪率に、有意な群間差は認められなかった。それぞれの数値は以下のとおり。

男性は、サルコペニア群、非サルコペニア群の順に、BMI20.7±1.7 vs 24.1±2.9kg/m2、ふくらはぎ周囲長34.5±1.7 vs 37.8±2.5cm、SMI6.6±0.3 vs 8.1±0.7kg/m2、握力32.1±6.0 vs 38.4±5.5kg(いずれもp<0.001)。年齢59±12 vs 57±10歳(p=0.114)、体脂肪率21.3±4.6 vs 20.3±4.7%(p=0.069)。

女性は、BMI18.7±1.5 vs 21.8±2.8kg/m2、ふくらはぎ周囲長32.1±1.8 vs 34.7±2.0cm、SMI5.1±0.2 vs 6.2±0.6kg/m2、握力22.6±3.6 vs 24.8±3.6kg(いずれもp<0.001)。年齢51±7 vs 52±9歳(p=0.174)、体脂肪率26.8±4.5 vs 27.3±5.2%(p=0.534)。

ふくらはぎ周囲長とサルコペニアの関連

ふくらはぎ周囲長とSMIが正相関

次に、ふくらはぎ周囲長とSMIの関連を検討。その結果、DXA法で計測したSMIとは、男性r=0.78、女性r=0.76、BIA法で計測したSMIとは、男性r=0.81、女性r=0.73であり、いずれも強い正相関が認められた。

なお、握力との関連は、男性r=0.33、女性r=0.31であり、弱い正相関だった。

サルコペニア判定のための最適なカットオフ値は?

続いてROC解析を用いて、ふくらはぎ周囲長によるサルコペニアの予測能を検討したところ、男性のDXA法による診断に対してはAUC0.88、BIA法による診断に対しては同0.93、女性では同順に0.84、0.89となり、高い予測能が確認された。

スクリーニングに最適なふくらはぎ周囲長のカットオフ値は、男性のDXA法による診断に対しては35.8cm(感度81.7%、特異度80.4%)、BIA法による診断に対しては35.4cm(感度91.2%、特異度83.5%)、女性では同順に33.5cm(感度84.9%、特異度72.4%)、32.7cm(感度81.5%、特異度83.6%)という値が算出された。

年齢や肥満の有無によるサブグループ解析でも同様の結果

年齢や肥満の有無の影響を確認するために、サブグループ解析を行った。年齢に関しては60歳未満/以上、肥満に関してはDXA法での体脂肪率が男性25%以上、女性30%以上を肥満と定義して層別化した。その結果、ふくらはぎ周囲長とSMIの有意な相関がすべてのグループで認められた。また、スクリーニングのカットオフ値も上記の値とほぼ同等であることがわかった。

以上一連の結果から、著者らは「ふくらはぎ周囲長は、肥満や年齢に関係なく骨格筋量と正相関し、サルコペニア診断の簡便なサロゲートマーカーとなり得る」と結論をまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Cut‐offs for calf circumference as a screening tool for low muscle mass: WASEDA'S Health Study」。〔Geriatr Gerontol Int. 2020 Oct;20(10):943-950〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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