特定健診・保健指導の効果に疑問符 エビデンスに基づく制度改善に期待
特定健診・保健指導の心血管疾患リスク抑制効果は限定的で、制度改善が必要だとする論文が「JAMA Internal Medicine」に掲載された。京都大学の福間真悟氏らの研究グループによるもので、同大学のサイトにニュースリリースも掲載された。特定健診・保健指導を実施後も動脈硬化リスク因子に有意な改善がなく、動脈硬化進行の上流に位置するとされる内臓脂肪の蓄積を表す腹囲長なども、短期的な改善しか示されていないという。
2008年にスタートしたメタボ健診の効果を検討
国内では現在、40~75歳未満の国民全員を対象とする特定健診(いわゆるメタボ健診)が行われている。これは、日本人の死因の多くを占め、QOL低下の主要原因でもある、動脈硬化による心血管疾患のおおもとの原因は内臓脂肪の過剰な蓄積であるとの知見に基づき、腹囲を基準に内臓脂肪型肥満をスクリーニングして、腹囲が基準値以上の場合は、リスクの程度に応じて介入の程度が個別化された生活習慣改善の特定保健指導を実施するという制度。2008年にスタートし、毎年、特定健診は約2,800万人、特定保健指導は100万人以上が受けている。
この制度の効果について、「特定健診・保健指導の医療費適正化効果等の検証のためのワーキンググループ」の報告から、「検査値および医療費への一定の効果」は示されている。しかし、効果の検証方法にいくつかの限界があることも指摘されていた。
特定健診を受診した男性7.5万人のデータを詳細に検討
これまで報告された効果検証は、特定健診や保健指導を受けた人と受けなかった人で比較している。この方法では、保健指導を受けた人は健康意識が高く、保健指導を受けなかったとしても生活習慣を改善していた可能性がある。このような健康意識の差が存在すると、保健指導の効果を正しく評価することができない。
これに対し本研究では、「回帰不連続デザイン」という検証方法を用い、特定健診を受け保健指導の対象となることの効果を厳密に検討した。腹囲が基準値を少し超えて指導対象になった人と、基準値を少し下回り指導対象にならなかった人の肥満度の変化等も比較した。この方法により、「保健指導の対象になったかどうか」の違い以外は、健康意識などの評価の難しい特性も含め、特徴の似通った二つの集団を比べることができ、保健指導の対象となったことによる効果を正しく測定できる。
この研究手法を用いて、特定健診を受診した男性約7.5万人のデータを分析したところ、保健指導の対象になった人は、対象にならなかった人と比較して、翌年の体重は0.3kg減少、BMIは0.1減少、腹囲は0.3㎝減少(前年度と比べて0.4%改善)していた。また、保健指導の対象となった人の中で実際に保健指導を受けた人は肥満が2%改善していたが、保健指導実施割合は16%にとどまっていた。この点が、保健指導の対象となった場合の減量効果が低い理由の一つと考えられた。なお、保健指導を受けた3年目以降は、体重、BMIも含めてすべての肥満関連指標が、特定健診受診前と有意差がなくなっていた。
動脈硬化のリスク因子である、血圧、血糖、脂質については、保健指導の対象となった場合においても、また実際に保健指導を受けた場合においても、改善を認めなかった。
つまり、今回の研究では、保健指導は肥満の短期的な軽度改善にはつながったものの、血圧 ・血糖 ・脂質の改善は認められず、国民の健康状態を改善させるためには、保健指導の介入方法を見直す必要性があることが示唆された。
今回の研究の概略
研究結果の波及効果と今後の予定
本研究では、大規模なデータを用いて特定健診・保健指導の効果が厳密に検討された。研究グループではこの結果を、「特定健診を受けて保健指導の対象となることの効果は、従来の報告における効果と比べて限定的であり、制度設計の改善が必要であることが示唆された。指導を必要とする人の多くが実際に指導を受けられる仕組み、腹囲基準による保健指導の対象者の決め方等について検討する必要があり、指導の内容、指導終了後のフォローなど、プログラムを強化するための取り組みも同時に進めることが期待される」と述べている。また、今後の展開として、「効果の高い保健指導制度について調査 ・分析し、全国で行われている保健指導がより健康改善に結び付くために必要な知見を明らかにする予定」としている。
関連情報
メタボ健診・特定保健指導制度の課題を提言 -エビデンスに基づく制度改善に期待-(京都大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Impact of the National Health Guidance Intervention for Obesity and Cardiovascular Risks on Health Outcomes among Japanese Men」。〔JAMA Intern Med. 2020 Oct 5〕
原文はこちら(American Medical Association)