肥満は誰の責任? 悪いのは社会か個人か、それとも教育か 一般市民の意識調査
周知されているとおり、世界中で肥満が増加している。1980年には8億5,100万人だった肥満・過体重が2013年には21億人と倍以上になった。肥満の原因の大半が過剰摂取と不活発な生活習慣に帰することは明らかだが、多く人がそのような生活習慣になってしまった責任は、いったいどこにあるのだろうか。
この質問に対する答を、一般市民がどのように考えているかを調査した結果が、ドイツから報告された。ドイツもまた、男性の67.1%、女性の53.0%が過体重以上であり、肥満が社会問題になっている国の一つだ。
肥満への偏見
肥満の増加とともに、肥満に対する偏見の高まりも看過できないとの指摘がある。肥満への偏見が生じる理由の一つは、医療者は肥満(日本では肥満症にあたる状態)を慢性疾患であり治療対象としているのに対して、一般の人々や社会は肥満を疾患とはみていないことがあるとされる。そのような誤解のために、メディアも肥満を茶化した取り上げ方をすることがある。このような偏見が、過体重や肥満の人の適切なケアの妨げになる可能性も指摘されているところだ。
では、肥満者は、自分が太っている原因をどのように考えているのだろうか。また、その考え方は、肥満でない人と比べて違いがあるのだろうか。これらを明らかにする試みはこれまであまり行われていない。本研究では、肥満の発症と健康的な食事に関する個人と社会の責任について、ドイツの一般生活者がどのような意見をもっているのかを把握する目的で実施された。
ドイツの人口構成にあわせてサンプリングし、千人以上から有効回答
この研究は、ドイツの社会調査や市場分析サービス企業により電話ベースで実施された。同国の人口構成にあわせて割り当てられた対象者から、18歳以上の2,361人に連絡をとり、そのうちの42.5%(1,003人)から回答を得た。また、これとは別に肥満者354人を対象としてインタビュー形式での調査が行われた。このインタビューには専門的スキルをもった面接員があたり、約25分かけて行った。
調査項目は、社会人口統計学的質問(年齢、性別、婚姻状況、教育、職業、移住歴など)や身長、体重といった基礎的な変数のほか、体重管理や栄養、肥満の責任、肥満への政治的なアプローチ、遺伝子型に基づく食事の推奨などのトピックに対する考え方を尋ねる質問で構成されていた。
最終的な解析対象となった合計1,357人の背景は、年齢50.5±18.5歳、女性51.1%、既婚者53.0%、被雇用者53.5%、高等教育の入学資格保有者37.7%だった。
肥満の有無、性別、年齢、教育歴で、肥満の原因や減量法、責任の捉え方に有意差
それでは結果をみてみよう。肥満の原因や解消法、肥満の責任を一般市民はどのように考えていて、属性によってその傾向は異なるのだろうか。
体重が増える原因のトップは「身体活動量が少ない」
まず、体重増加の一般的な原因として上位に挙げられたのは、トップが身体活動量の少なさ(82.7%)で、摂取カロリーが過剰(80.5%)が続き、意志力の欠如(72.1%)が3位だった。
回答者が肥満かそうでないかで分けた解析でも、これらについては有意な差はみられなかった。ただし、4位以下に挙げられた項目では有意差のあるものもみられた。例えば、非健康的な食品が安いため(p<0.000)や、食品業界の広告戦略(p=0.015)、栄養に関する知識の欠如(p=0.027)を挙げた割合は、肥満者よりも非肥満者のほうが高かった。
また、性別での解析では、男性よりも女性において、食品の量が多すぎること(p=0.015)、医学的な理由(p=0.001)、遺伝的な理由(p=0.040)、政治的な理由(p=0.002)を挙げる割合が高かった。年齢別では、医学的理由、非健康的な食品が安いため、食品業界の広告戦略、栄養に関する知識の欠如は、若年層での回答が有意に多かった(いずれもp<0.000)。
教育歴との関連では、教育歴が長いほど、意志力の欠如(p=0.002)、非健康的な食品が安いため(p<0.000)、食品業界の広告戦略(p<0.000)との回答が有意に多かった。
減量の方法のトップは「身体活動を増やす/スポーツをする」
次に、減量手段として一般的なものとして上位に挙げられたのは、身体活動を増やす/スポーツをする(75.4%)、摂取カロリー制限(55.3%)、炭水化物制限(49.4%)、脂質制限(48.1%)だった。また77.3%は、食べ物・飲み物の選択が重要と回答していた。
属性別の比較で有意差のあった回答として、以下のような違いが認められた。
まず、肥満の有無別では、非肥満者よりも肥満者のほうが、摂取カロリー制限、炭水化物制限、脂質制限を多く挙げていた(いずれもp<0.000)。なお、全数解析でトップだった身体活動/スポーツについては、肥満者よりも非肥満者で多く挙げられたが、群間差はわずかに有意に至らなかった(p=0.053)。
性別では、男性よりも女性のほうが、摂取カロリー制限(p=0.001)、炭水化物制限(p=0.036)を挙げた割合が高かった。年齢別では、身体活動/スポーツは若年層(p<0.000)、脂質制限は高齢層(p=0.002)のほうが多く回答に挙げていた。
教育歴との関連では、教育歴が短いほど、脂質制限を挙げる回答が多かった(p=0.002)。
健康的な食事の責任者は「本人」がトップで、肥満者のほうが有意に高率
続いて、健康的な食事の責任はだれが負うのかとの質問では、本人を挙げる回答が89.1%と大多数を占めた。2位は家族で74.7%、3位は食品業界で62.8%だった。4位以下は、学校(58.9%)、飲食店(55.5%)、医療(47.8%)、メディア(46.4%)、健康保険(36.8%)、政治(34.6%)と続いた。
属性別に比較すると、肥満の有無では、肥満者は非肥満者に比較し、本人が責任を負うとの回答が多かった(p=0.011)。
性別では、男性よりも女性のほうが、本人(p<0.000)、家族(p<0.000)、食品業界(p=0.010)、メディア(p=0.038)を多く挙げていた。年齢別では、メディア(p=0.038)、健康保険(p=0.003)を挙げた割合が、若年層より高齢層で高かった。
教育歴との関連では、教育歴が長いほど、家族(p<0.000)や飲食店(p=0.031)を挙げる割合が高く、反対に、教育歴が短いほど健康保険(p=0.001)を挙げる割合が高かった。なお、全数解析でトップだった、責任を負うのは本人との回答は、教育歴が長いほど挙げる割合が高かったが、有意水準には至らなかった(p=0.068)。
健康的な食事のための教育や政治介入の捉え方
最後に、健康的な食事のための学校での教育、食品業界のマーケティング戦略、政治的な介入などの捉え方について質問した結果をみてみよう。
肯定的な回答が多かったのは、幼稚園での健康的な食事の推進(88.4%)、学校での栄養教育(86.1%)、旬の食品や地産品の消費推進(82.8%)、食品に使われている砂糖を減らすなどの改善(78.3%)、意識向上キャンペーン(76.1%)といった項目だった。
一方、特定の食品への課税(41.6%)、非健康的な食品の値上げ(49.4%)、非健康的な食品の広告禁止(52.2%)、非健康的な食品に警告表示を付けるラベリング(67.6%)、健康的な食品の値下げ(69.7%)などは、支持が比較的少なかった。
属性別に比較すると、肥満の有無では、旬の食品や地産品の消費推進を肯定的に捉える回答は、非肥満者より肥満者に多かった(p=0.030)。
性別では、男性よりも女性のほうが、学校での栄養教育(p=0.027)、旬の食品や地産品の消費推進(p<0.000)、食品に使われている砂糖を減らすなどの改善(p=0.001)、意識向上キャンペーン(p=0.005)を支持する声が大きかった。年齢別では、旬の食品や地産品の消費推進、健康的な食品の値下げという2項目以外、すべての項目において、若年層より高年層の方が強く支持していた。
教育歴との関連では、教育歴が短いほど、非健康的な食品の広告禁止を支持する割合が高かった(p<0.000)。
まとめと結論
本研究から、一般生活者のほとんどは、肥満は本人の姿勢によって引き起こされ、食習慣には本人に責任があると感じていることが明らかになった。また、非肥満者よりも肥満者のほうがそのように感じている割合が高いことや、肥満に対する批判的な捉え方に関連する因子も示された。
著者らは、「肥満に関連する偏見を減らすには、肥満の複雑かつ真の原因に関するより多くの教育とコミュニケーションが必要。また、健康的な食事を前進させるための多くのアプローチが、比較的受け入れられやすいことが明らかになったことから、一般生活者が健康的な生活習慣を達成するための環境整備に取り組むべきだ」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Responsibility of Individuals and Stakeholders for Obesity and a Healthy Diet: Results From a German Survey」。〔Front Psychiatry. 2020 Jul 3;11:616〕
原文はこちら(Frontiers Media)