デスクワークの男性は蛋白尿が現れやすい 阪大職員の1万人超の健診データを解析
大阪大学職員の定期健康診断のデータを解析した結果から、デスクワークの男性は蛋白尿が出現する頻度が1.35倍高いことが報告された。論文が「Journal of Nephrology」に掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。
これまで座位時間の長さは、メタボリックシンドロームや糖尿病、心血管系疾患、および死亡リスクとの関連が報告されていたが、腎臓に及ぼす影響は明らかでなかった。本研究により座位時間の長さが、腎疾患のリスクにもなり得ることがわかった。
研究の要旨:阪大職員1万人以上の健診データを、就業形態別に比較
この研究は、大阪大学職員1万212人の定期健康診断データを利用したもの。健診受診者に対する質問で、「主な就業形態」を「座位」と回答したデスクワークの男性3,449人は、それ以外の男性1,538人よりも、蛋白尿のリスクが1.35倍であることが明らかになった。
蛋白尿は、腎疾患の主要な特徴の一つで、将来の腎機能の予測因子でもある。本研究の結果は、デスクワークが蛋白尿のリスクであることを示しており、デスクワーク時間の短縮が腎臓病の予防に繋がることが期待される。
大阪大学の男性職員4,987人における蛋白尿の累積発症率(観察期間中央値4.8年)
研究の背景:座位時間の長さがCKDリスクかどうかを明らかにする
近年、透析患者数の増加が続いており、2018年末時点で約34万人、透析医療費は全医療費の約4%(1兆6,000億円)を占めている。透析患者数および透析医療費を減少させるためには、蛋白尿と腎機能の低下(糸球体濾過量の低下)で特徴づけられる「慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease;CKD)」の予防策を確立する必要があり、肥満や喫煙などの改善可能な生活習慣リスク因子を特定することが重要とされる。
長時間の座位は、メタボリックシンドロームや糖尿病、心血管系疾患などの生活習慣病、および死亡リスクと関連することが知られているが、腎臓に及ぼす影響はこれまで明らかでなかった。
研究の内容:
発表された研究は、2006〜18年度の大阪大学職員の定期健康診断データを利用して、デスクワークが蛋白尿の発症に及ぼす影響を検討した。初回健診受診時に、「主な就業形態」を「座位」と回答したデスクワークの男性は3,449人存在した。中央値4.8年の追跡期間中、その群の452人(13.1%)に蛋白尿(尿蛋白1+以上)が出現した。
一方、主な就業形態が「立位」、「歩行」、「物を運ぶ」あるいは「重労働」と回答した男性は1,538人存在した。追跡期間中、それらの群から145人(9.4%)に蛋白尿が出現した。
多変量解析の結果、主な就業形態が座位の群の蛋白尿出現リスクが、その他の男性よりも1.35倍(95%CI:1.11-1.63)有意に高いことが明らかになった。
なお、女性では、座位と蛋白尿の関連は認められなかった。
研究の意義と今後の展望
著者らは、「本研究の成果によりデスクワークが腎臓病のリスクとなる可能性が高いことが明らかになった。この関連性について、今後、他の職種などに対象を広げて調査し、さらに検証をしていく必要がある。長時間労働者の割合が高いことで知られている我が国において、デスクワーク時間の短縮が腎臓病を予防し、増加の続く透析患者数の抑制に繋がることが期待される」と述べている。また近年、スタンディングワークが注目されているが、有効性はいまだ報告されていないことから、その研究の進展も望まれるとしている。
プレスリリース
デスクワークの男性は蛋白尿のリスクが高い可能性が明らかに(大阪大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Occupational sedentary behavior and prediction of proteinuria in young to middle-aged adults: a retrospective cohort study」。〔J Nephrol. 2020 Aug 27〕
原文はこちら(Springer Nature)