睡眠の質を高める栄養の摂り方を探る! 良い眠りは筋蛋白質の合成を促す可能性も
睡眠不足や睡眠の質の低下などの睡眠障害は、認知機能の低下やうつのリスクとなるといった精神的な影響や、糖代謝の悪化、免疫能の低下といった身体的な影響を及ぼすとともに、スポーツパフォーマンスに影響することも示唆されている。ただし、睡眠障害に対する医薬品による介入には副作用の懸念があり、できるだけ医薬品以外の方法で良好な睡眠を確保したいところだ。その方法の一つとして、食事・栄養による睡眠の質の改善への期待が集まっている。
今回紹介する研究は、いくつかの栄養補助食品の睡眠に及ぼす影響をBox-Behnkenモデルという手法で評価し、最も適するものとそうでないのを特定した後、プラセボ対照二重盲検試験でその効果を確認するという手順で行われた。
良好な睡眠のための最適な栄養補助食品を特定する研究
最初の検討は、55名の健康な男性(27.4±6.2歳)を対象に行われた。
試験24時間前に、カフェイン、エネルギー、炭水化物(40%)、蛋白質(30%)が統一された標準化食が提供され、その後、被験者が試験の募集に応じた順に従って、タルトチェリージュース、高GI炭水化物、α-ラクトアルブミン、アデノシン-5-一リン酸(5'-AMP)、バレリアン、テアニンのいずれかを飲み物として摂取してもらった。
摂取後は、30分間隔で180分まで採血し血中トリプトファン濃度の推移を追うとともに、3種類の5分間の作業テスト(three-choice vigilance task;3CVT)によって、眠気を評価した。
トリプトファンレベルに影響を及ぼす食品
トリプトファンは、睡眠にとって重要な脳内神経伝達物質であるセロトニンの前駆物質。
検討の結果、そのトリプトファンの血中濃度は、飲料中のバレリアンとα-ラクトアルブミンの量にのみ依存し、これらの摂取量が多いほどトリプトファンレベルが高くなることがわかった。
眠気に影響を及ぼす食品
一方、3CVTは、そのスコアが低いほど眠気が強いことを示す。
検討の結果、前記のトリプトファンへの影響とは異なり、3CVTスコアは5'-AMP、テアニン、およびα-ラクトアルブミンとの関連が強く、最も強い関連は、5'-AMPレベルの増加と3CVTの低下との間で認められた。α-ラクトアルブミンは、トリプトファンへの影響と同様に、眠気と正の関係(3CVTの低下)があった。その反対に、バレリアンは眠気を減少(3CVTを上昇)させる関連が認められた。
特定された組合せ
トリプトファンレベルと3CVTの双方の結果から、10gの高GI炭水化物、40gのα-ラクトアルブミン、655mgのテアニン、53μgの5'-AMP、および600 mgのバレリアンの組み合わせが最適と考えられた。この組合わせにより、トリプトファンが2.25μg/mL増加し、3CVTスコアが0.104秒減少すると予測された。
一方、最も不適な組合せは、35mLのタルトチェリー、45gの高GI炭水化物、8gのα-ラクトアルブミン、1,000mgのテアニン、4.5μgの 5'-AMP、および500mgのバレリアンと考えられた。この組合せにより、トリプトファンの増加は0.48μg/mL、3CVTスコアの減少は0.001秒と予測された。
特定された食品の効果を確認する研究
続いての検討は、18名の健康な男性(25.1±6.2歳)に対して行われた。
被験者は睡眠障害の既往がなく、研究参加前に交替勤務や時差のある旅行を行っていない、非喫煙者とした。また研究期間中に薬剤を服用した者はいなかった。自己申告による就寝時刻が01:00より後、または起床時刻が10:00より後である場合は除外された。被験者の自己申告による平均就寝時刻は23:12±00:54、平均起床時刻は08:12±01:18であり、入眠潜時(覚醒状態から睡眠までの所要時間)の平均は15.0±10.2分、睡眠時間は8.1±1.1時間だった。
被験者には、研究を行った大学内の宿泊施設にて、4晩連続で睡眠ポリグラフ検査が施行され、睡眠時間や睡眠の質が評価された(1日目は適応のみで、データ収集は2日目から)。前述の最適化された組合せ、最も不適な組合せ、およびプラセボの3種類のいずれかを、2~4日目に無作為に渡された。渡された飲み物の順序は知らされていない研究者が、睡眠時間と質等を評価する二重盲検法にて検討した。
被験者の食事は、09:30、12:30、19:00に提供され、16:00には軽食が提供された。摂取エネルギー量の平均は10,061±1,112KJ(2,395±265kcal)で、炭水化物51.8±6.2%、蛋白質21.7±6.5%、脂質23.8±6.7%だった。これらの食事と軽食以外の食べ物や飲み物(水以外)の飲食、および、カフェインやアルコールの摂取は禁止された。
21:00に飲み物を受け取り、5分以内に摂取。22:30~08:00までの9.5時間を睡眠してよい時間帯とした。また、20:00から22:30までは30分ごとに主観的な眠気レベルが評価された。このほか、翌日には消化器症状や認知パフォーマンス、姿勢の揺らぎなどが評価された。
最適化された栄養条件では入眠潜時が有意に短縮
入眠潜時は、最適化された栄養を摂取した後が9.9±12.3分、プラセボ摂取後が19.6±32.0分、最も不適な栄養を摂取した後が26.1±37.4分で、最適化された栄養摂取後は他の2条件に比べて有意に短かった(p=0.02)。
測定された睡眠関連の他の変数(睡眠時間、入眠後の覚醒、レム睡眠時間など)は、条件間の有意差はなかった。また、翌日の消化器症状、主観的覚醒度、自己認識能力、認知能力、姿勢の揺らぎに、条件間の有意な差は認められなかった。
睡眠障害のない人にも有効な副作用のない介入法になり得る
プラセボに比較し、最適化された栄養では入眠潜時が49%減少した。一方、最も不適な栄養では入眠潜時が対プラセボ比で33%増加した。これらのデータは、血中トリプトファンレベルと3CVTによって睡眠に良いと予測された栄養の摂取が、実際に効果的であったことを示唆している。
著者らは、本研究で示された重要な点の一つとして、「この効果が睡眠障害のない対象者であるにもかかわらず認められた点にある」と述べている。この点については、睡眠障害のある対象者での検討も必要であることを意味する一方、それ以外の多くの対象者に有効である可能性が考えられる。また、翌日のパフォーマンスに悪影響は認められず、薬剤でみられるような持ち越し効果がないことも、栄養による介入のメリットと言える。
加えて著者らは、睡眠前の蛋白質の摂取が、睡眠中の筋蛋白質合成に影響を及ぼす可能性が既報によって示唆されていることから、本検討で示された栄養介入が睡眠の質を高めると同時に、アスリートのパフォーマンスにも資する可能性を指摘している。
文献情報
原題のタイトルは、「Optimisation and Validation of a Nutritional Intervention to Enhance Sleep Quality and Quantity」。〔Nutrients. 2020 Aug 25;12(9):E2579〕
原文はこちら(MDPI)