日本人オリンピックアスリートは一般人口より長寿 戦後開催大会参加選手を調査
適度な強度の運動が健康に良いことはよく知られている。では、高強度の運動はどうだろうか。この疑問に対する一つの答えとなるデータが報告されている。オリンピックに参加した日本人アスリートの死亡率を解析した結果、一般人口に比較しそのリスクが低く全体に長寿であることがわかった。また、オリンピック参加回数や負荷の高い競技種目で、死亡率に違いがみられた。大阪市こころの健康センター(兼大阪大学医学部招へい教授)の喜多村祐里氏らの研究によるもので、「BMJ Open Sport & Exercise Medicine」に掲載された論文から、一部を紹介する。
戦後開催されたオリンピック参加日本人選手を追跡
喜多村氏らはまず、オリンピック参加者名簿やJOC(日本オリンピック委員会)のホームページをもとに日本体育大学が作成した代表選手のリストを入手。第5オリンピアード(1912年・ストックホルム)以降の夏季・冬季オリンピックに参加した日本人選手のその後の経歴を追い、大手新聞社のお悔やみ情報や世界中のオリンピックアスリートのデータベース、Wikipedia等の公開情報源を利用して、死亡に関する情報を確認。また戦死による影響を避けるため、第二次世界大戦後に開催された大会参加者3,546人に絞り、死亡日が不明の場合は当該月の月初、死亡月が不明の場合は当該年の7月1日に死亡したものとし、生死が確認できなかった人は除外して、最終的に3,381人(男性2,263人、女性1,118人)を解析対象とした。
日本人平均に対する標準化死亡比は有意に低値
94万76.82人年の追跡により、153人(4.53%)の死亡が確認された。性別にみると、男性は144人(6.36%)、女性は9人(0.81%)だった。
厚生労働省「人口動態統計」で報告されている日本人全体の死亡率を基に、性別、年齢、観察期間で調整して標準化死亡比(Standardized Mortality Ratio;SMR)を算出。結果は0.29(95%CI:0.25-0.34)となり、オリンピック参加経験のある元アスリートは、一般人口よりも死亡率が有意に低いことがわかった。
オリンピック参加者内での比較
オリンピック参加回数での比較
オリンピック参加回数が1回の人(2,280人,69.30%)を基準として、複数回の人の死亡率への影響を検討した。すると、参加回数が2回の人(722人,21.95%)の死亡率比(RR)は1.52(95%CI:1.04-2.23)、参加回数が3回以上の人のRRは1.87(95%CI:1.08-3.25)であり、参加回数が多いほど死亡率が高いという傾向が有意に認められた(傾向性p=0.005)。
競技種目での比較
参加競技種目の運動負荷強度を、米国心臓病学会のタスクフォース※に従い、9種類のカテゴリーに分類。静的運動強度および動的運動強度がともに「低」の競技種目(射撃、ゴルフ、カーリング)を基準として、他のカテゴリーの種目のアスリートの死亡率を検討した。すると、ほぼすべて(静的強度が「中」で動的強度が「低」の競技以外)の種目で、死亡率の上昇が認められた。
これらの検討から著者らは、「日本人オリンピック選手が一般人口よりも長寿であることが示された。参加回数が多いほど死亡率が高いが、それでもなお一般人口よりも低い。競技種目との関係では、運動負荷の強い競技で死亡率が高いことがわかった」と結論づけている。
なお、参加回数が多いほど死亡率が高いという関係について、「連続的に成功するためには長期間、高強度の運動を続けていたと考えられ、その影響ではないか」と考察し、「参加回数が多い選手の引退後の経過をサポートすることの必要性が示唆される」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Mortality of Japanese Olympic athletes: 1952-2017 cohort study」。〔BMJ Open Sport Exerc Med. 2019 Nov 13;5(1):e000653〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)