ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)は骨格筋ミトコンドリアへ影響し運動能力に影響する
ケトン体の一種のβ-ヒドロキシ酪酸が、骨格筋のミトコンドリア機能に影響を与え、運動パフォーマンスを向上させるという動物実験の結果が報告された。持久力などの一部の指標に有意な変化が認められたという。
研究の背景~ケトン体をめぐる最近の動向
ケトン体は、糖の代替エネルギーとして産生される。長い間、ケトン体は有害な代謝産物とされてきたが、近年はケトン体、とくにβ-ヒドロキシ酪酸(β-HB)の機能性が注目されている。β-HBは、酸化ストレスの抑制、抗炎症、心血流量・心拍数増加などの作用の報告があり、スポーツにおける新しいエルゴジェニックエイドとしても提案されている。
げっ歯類では炭水化物制限食により、脂質プロファイルの改善、軽量化などが認められる。ヒトにおいてはサイクリストの持久力が向上したとの報告がある。一方、β-HBの急性摂取により、脂肪酸酸化の増加にもかかわらず高強度パフォーマンスが低下したとの報告もあり、β-HBを摂取する際には、運動種目を考慮しなければならないことが示唆される。
ケトン体は肝臓以外の組織のミトコンドリアでエネルギー利用されることから、筋肉のミトコンドリア含有量の多寡によってその影響は異なることが考えられる。しかし、β-HBを外因性に摂取した場合のトコンドリアへの影響についてはほとんど知られていない。そこで著者らは、ミトコンドリア機能に焦点を当て、β-HBの継続摂取による持久力への影響をマウスで検討した。
筋肉によって異なる影響が確認される
3週齢のマウスを2群に分け、1群は通常食、別の1群はβ-HB添加食で飼育。6週間に飼育中に毎週トレッドミルを用いたパフォーマンステストを行った後、屠殺し筋肉組織等の検討を行った。
2週目時点の持久力が向上
6週時点の体重は、対照群24±0.76g、およびβ-HB群24±0.46gで有意差がなかった。血中β-HBレベルはベースラインでは同等だったが、2週後、6週後はβ-HB群が有意に高値だった。β-HB群は、2週目に摂取量の減少が認められた(対照群2.7±0.1 vs β-HB群2.2±0.1g/日,p=0.020)。摂取エネルギー量、飲水量に有意差はなかった。
週ごとに行ったトレッドミルテストの結果は、ベースラインの走行距離は同等だったが2週目はβ-HB群が有意に長かった(p=0.033)。ただし、その他の週は有意差がなかった。同様に、最高速度や疲労困憊に至るまでの時間、垂直方向の仕事量についても、第2週のみβ-HB群が有意にまさっていた。
遅筋と速筋での違い
脂肪酸代謝と蛋白質の酸化的リン酸化は、遅筋でありミトコンドリア密度の高いヒラメ筋では2週間で低下した。その一方、速筋でありミトコンドリア密度の低い前脛骨筋では低下が認められなかった。電子顕微鏡検査の評価では、ミトコンドリア数の減少はヒラメ筋でのみ観察された。
この結果から、ミトコンドリアへの影響がマウス骨格筋の機能と関連があり、β-HBの急性摂取ではなく、持続的な摂取が運動能力に影響を与える可能性が示唆された。
文献情報
原題のタイトルは、「β-Hydroxybutyrate Increases Exercise Capacity Associated with Changes in Mitochondrial Function in Skeletal Muscle」。〔Nutrients. 2020 Jun 29;12(7):E1930〕
原文はこちら(MDPI)