バナナ、アボカド、スイカ...トロピカルフルーツ摂取量のバイオマーカーを考察
まもなく迎える夏本番。夏と言えば、トロピカルフルーツ。海辺のリゾート地で食べるのはもちろん、都会のビルの中で冷たく冷やしたトロピカルフルーツに、一服の涼を求めてリゾート気分を味わうのも良い。
トロピカルフルーツの消費が拡大中。ただし摂取量の把握は困難
トロピカルフルーツは熱帯地方に起源をもち、おもに熱帯または亜熱帯地方で栽培されている。世の中には約800種類のトロピカルフルーツがあるが、広く流通しているのはそのうちのごくわずかだ。ただしトロピカルフルーツの人気は世界中で高まっていて、例えば、アボカドの生産量世界一を誇るメキシコでは、その生産量が1961年から2017年にかけて1,900%増加したという。また2007年から2017年の間にマンゴーの1人あたり消費量は、米国では1kgから1.8kgに、欧州では0.4kgから0.7kgに増加したとされる。
トロピカルフルーツを含む果物類および野菜類の摂取は、健康的な食生活に欠かせない。しかしそれらの正確な摂取量を把握する方法は、いまだ課題が残されている。
食事摂取量の調査には、食物摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire;FFQ)が広く利用されているが、果物や野菜の摂取量については、それらが健康に望ましい食べ物であるという理解のために、一般に過大報告されることが多いとされる。また、果物や野菜の具体的な種類まで調査されることはあまりなく、とくにトロピカルフルーツに関しては、平均摂取量が少ないために、ほとんど注意が払われていない。そのような摂取頻度・量が少ないものまで調査対象にすると、回答者の負担が膨大となってしまう。
16種類のトロピカルフルーツ摂取量のバイオマーカーを探索
これに対して、特定の食品または食品グループに固有の化合物に由来する食品摂取バイオマーカーを利用する試みがなされている。現在、トロピカルフルーツの摂取のバイオマーカーとして、血漿ビタミンCやカロテノイドが検討されているが、他の食品の影響や対象者個々のベースライン値の影響、生体内での上限(飽和動態)の影響などのため、実用には限界がある。
このような状況を背景とし、140を超える一般的な食品の摂取バイオマーカーの確立を目指して設立された「Food Biomarkers Alliance(FoodBAll)」の活動の一環として、今回の研究が行われた。
文献のシステマティックレビューとメタ解析により、トロピカルフルーツ摂取バイオマーカーを探索し、その可用性を検討。検討対象としたトロピカルフルーツの種類は、世界の消費量が多い、バナナ、マンゴー、パイナップル、パパイヤ、アボカド、ザクロ、キウイ、グァバ、パッションフルーツ、アセロラ、ドラゴンフルーツ、ココナッツ、スイカ、マスクメロンなど16種類。文献検索には、Scopus、PubMed Central、Web of Scienceという三つのデータベースを用い、2016年3月に検索を実施し、2019年1月に更新。2020年4月に最終検索を行い新規の報告がないことを確認した。
ヒットした1,235件の論文から解析対象とする条件を満たすものが40件抽出され、これに参考文献や二次検索から抽出された5件を追加し、45件の論文を解析対象とした。検討の結果、バイオマーカーの候補物質は、バナナ、アボカド、スイカでのみ見つかった。
バナナのバイオマーカー
硫酸ドーパミン、メトキシチラミン硫酸塩、メトキシオイゲノールグルクロニド、サルソリノール硫酸塩、ヒドロキシインドール酢酸、6-OH-MTβC硫酸塩の六つが、バナナのバイオマーカーとなり得る可能性が見いだされた。
硫酸ドーパミンについては無作為化クロスオーバー試験で、尿検体中の硫酸ドーパミンが対プラセボ比7倍の濃度(P <0.001)であり、摂取量と相関する(R2=0.89)との報告がある。その他、メトキシチラミン硫酸塩(r=0.22)、メトキシオイゲノールグルクロニド(R2=0.8)、サルソリノール硫酸塩(R2=0.89)とバナナ摂取量との相関が報告されている。
アボカドのバイオマーカー
ペルセイトール、マンノヘプツロースの二つが、バナナのバイオマーカーとなり得る可能性が見いだされた。アボカド摂取量との相関は、ペルセイトール(ρ=0.33,p<0.0001)、および、マンノヘプツロース(ρ=0.2702,p<0.0001)ともに有意と報告されている。
スイカのバイオマーカー
シトルリンがスイカのバイオマーカーとなり得る可能性が見いだされた。
スイカを大量に摂取していた少女のシトルリン血漿濃度が10倍上昇していたとの報告や、6人の健康な成人ボランティア対象の検討から、スイカ摂取の1時間後に血漿シトルリンがピークに達し、8時間後も有意に高く、24時間後に基準値に低下した、などの報告がある。
著者らは、「トロピカルフルーツ摂取量のバイオマーカーの特定には、さまざまな用量の果物を摂取した条件でのクロスオーバー試験など、多くの試験デザインを用いた研究、食事摂取量に関する詳細な情報を包括的に網羅した横断研究を行う必要がある」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Biomarkers of intake for tropical fruits」。〔Genes Nutr. 2020 Jun 19;15(1):11〕
原文はこちら(Springer Nature)