若年アスリートに対するアンチ・ドーピング教育の効果を検証 イギリスの研究
若年アスリートに対するアンチ・ドーピング教育の効果を無作為化比較試験で検討した結果がイギリスから報告された。講義形式やオンラインなどの手法にかかわらず、ドーピングの捉え方を改善し感受性を抑制するという、有意な効果が認められたという。
ドーピングに関しては、とくに若年期アスリートへの教育の重要性が指摘されている。例えば世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)の元事務局長のDavid Howman氏は、「我々の最大の懸念領域は、まだエリート領域に到達したことがなく、そこへの突破を試みている若い人である」と述べている。しかし若年者に対する教育は、必ずしも介入効果が高いとは報告されていない。
「iPlayClean」の手法で介入
これまでにさまざまな手法でアンチ・ドーピング教育が行われているが、本研究は「iPlayClean」というオンライン等を用いてアスリート本人とそのコーチ、保護者に対して、エビデンスに基づいた教育を行う新しい手法による介入効果を検討した。
対象は、英国内33のチーム・学校・団体に所属する14~18歳のハイレベルアスリート1,081名。本人のほかに少なくとも保護者1名とコーチ1名が、講義形式またはオンラインでアクセスすることを条件とした。対象者全体は以下の4群に分類された。プログラム登録のみの対照群314名、講義のみを受ける群254名、オンライン配信のみの群251名、講義とオンライン配信を受ける群262名。
介入前と介入直後(介入前評価から8週間後)、および、さらにその8週間後に、青年期スポーツドーピングインベントリ(Adolescent Sport Doping Inventory;ASDI)により、ドーピングに対する態度と感受性をリッカートスケールで評価した。例えば、ドーピングに対する態度は、「スポーツで成功するためには薬物(Performance enhancing drug;PED)を使用する必要がある」「PEDの合法化は自分にメリットとなる」といった質問、ドーピングの感受性については、「パフォーマンスを向上させることがわかっている場合はPEDを使いたい」「怪我をした際にはPEDを使いたい」いった質問で、「大変そう思う」を最高点の7点、「全くそう思わない」を1点とした。
ドーピングに対する態度、感受性ともに、どの介入法でも有意に改善
ドーピングに対する態度への効果
介入前と介入直後とでのドーピングに対する態度のスコアの差を、対照群を基準に比較すると、すべての介入法で有意に改善していた。具体的には、対照群に比し、講義のみの群は-4.8ポイント、オンラインのみの群は-4.4ポイント、講義+オンライン群は-4.0ポイントの差があった(いずれもp<0.01)。
この効果は、介入終了から8週間後も以下のように、引き続き有意な状態に保たれていた。講義のみの群-5.4ポイント、オンラインのみの群-3.7ポイント、講義+オンライン群-3.9ポイント(いずれもp<0.01)。
ドーピングの感受性への効果
介入前と介入直後とでのドーピングの感受性のスコアの差を、対照群を基準に比較すると、すべての介入法で有意に改善していた。具体的には、講義のみの群は-4.3ポイント、オンラインのみの群は-3.2ポイント、講義+オンライン群は-4.6ポイントの差があった(いずれもp<0.01)。
介入終了から8週間後の評価では、講義のみの群は-5.1ポイントで引き続き有意な状態に保たれていた(p<0.01)。一方、オンラインのみの群は-2.2ポイント、講義+オンライン群は-3.2ポイントで、有意でなくなっていた(いずれもp=0.07)。
教育効果がいつまで継続するか、ドーピング率低下につながるかの検証が必要
以上の結果から著者らは、「この研究は、介入により少なくとも8週間はアンチ・ドーピングの好ましい態度とドーピング感受性の抑制が可能であることを示している」とし、研究の今後の方向性については「この結果が介入後どの程度持続させることができ、かつ、態度と感受性の改善が実際に若いハイレベルアスリートのドーピング率を低下させるのかという点に興味をひかれる」と述べている。
また、「介入方法の違いは、その効果の持続に関して、態度よりも感受性のほうが重要のようだ」との考察に加えて、「この調査結果から、オンラインアンチ・ドーピング教育が、禁止物質を使用せずに多くのアスリートを公正でクリーンな競争の価値観に導く、費用効果の高い方法であると示唆される」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「The effects of the iPlayClean education programme on doping attitudes and susceptibility to use banned substances among high-level adolescent athletes from the UK: A cluster-randomised controlled trial」。
〔Int J Drug Policy. 2020 Jun 17;82:102820〕
原文はこちら(Elsevier B.V.)