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ビタミンD値の変動とストレス骨折リスクの変化に有意な関連 英海兵隊のエビデンス

2020年05月08日

アスリートは、反復する外力によって生じるストレス骨折のリスクが少なくない。同様に、軍隊の兵員にもよくみられる。新兵のストレス骨折発症率は男性で平均3%、女性で9%との報告もみられる。

ビタミンD値の変動とストレス骨折リスクの変化に有意な関連 英海兵隊でのエビデンス

ストレス骨折のリスク因子として、喫煙、栄養不良、遺伝的因子などが想定されている。栄養関連因子として、ビタミンDが予防的介入ターゲットの1つとなり得る可能性が指摘されており、実際、血清25-ヒドロキシビタミンD(25[OH]D)濃度が低いこととストレス骨折の発症率が相関するとの複数の報告がある。

ただし、両者が相関することは因果関係の証明にはならない。例えば、不適切な食生活のためにビタミンDとともにカルシウムの摂取量も少ないことによって、骨折リスクが上昇している可能性もある。両者の相関をより明らかにし、因果関係の解明に迫るために、本論文の著者らは、英国海軍海兵隊員を対象とする調査を行った。

訓練中にストレス骨折を発症した隊員と発症しなかった隊員を比較

この研究は、海兵隊の新兵を対象に行われる32週間にわたるトレーニングで実施された。2009年9月~2010年7月にトレーニングを開始した1,635名の新兵のうち、116名(7.1%)がトレーニング期間中にストレス骨折を発症。そのうち、軍事上の理由で追跡不能となった者などを除く51名(44名)を研究対象とした。これらを、ストレス骨折を来さなかった141名の対照群と比較検討した。

ストレス骨折を来した51名の年齢は20±6歳、VO2max52.2±3.8mL/kg/分で、対照群と有意差はなく、飲酒量、現喫煙者率も有意差がなかった。

ベースラインではビタミンD濃度に群間差なし

32週にわたるトレーニング期間を前半(1~15週)と後半(16~32週)に分けると、51件のストレス骨折のうち前半で9件(17.6%)、後半で42件(82.4%)発生していた。ビタミンD値は、ベースライン、15週経過時点、および32週後のトレーニング終了時点で測定した。骨折を来した場合は、骨折が発生する前までの検体による測定値が解析に利用可能だった。

ベースライン時点のビタミンD値は、秋~冬にトレーニングを開始した者と比較し、春~夏にトレーニングを開始した者のほうが有意に高値だった(61.7±33.1 vs 78.1±24.9 nmol/L,p=0.001)。ただし、トレーニングの前半でストレス骨折を発症した群、後半で発症した群、およびストレス骨折を来さなかった対照群との間には有意差はみられなかった(50.4±21.52 vs 63.74±30.65 vs 68.61±31.51nmol/L,p=0.31)。

ストレス骨折を来さなかった群ではビタミンD濃度が前半に上昇

ストレス骨折を来さなかった対照群は、血清ビタミンD濃度がベースラインから15週時点の間に有意に増加した後(61.8±29.1 vs 72.6±28.8nmol/L,p=0.014)、トレーニング終了の32週時点にはベースライン時値よりも有意に低下していた(52.4±22.7nmol/L,p=0.008)。

トレーニング期間の後半でストレス骨折を発症した群のビタミンD値は、ベースライン時には前述のように対照群と差はなかったが、15週時点までに有意な変化がみられず(57.7±25.3nmol/L,p=0.57)、よって15週時点では対照群よりも有意に低かった(57.7±25.3 vs 72.6±28.8nmol/L,p=0.01)。

この関係を調整オッズ比(aOR)として検討すると、ベースラインから15週目にかけてビタミンD値が高くなることは、トレーニング後半のストレス骨折リスクの低下と関連しており、ビタミンD値の1標準偏差上昇するごとにaOR 0.55(p=0.04)となった。

ビタミンD受容体遺伝子多型の影響

本研究では、ビタミンD受容体の遺伝子多型との関連も検討している。その結果、ベースラインのビタミンD値や、15週目までのビタミンDの上昇の有無に、遺伝子多型の違いが一部関与している可能性が示された。

血清ビタミン値の変動は、食事と皮膚での合成の複合的な結果として生じ、ビタミンDの補給がストレス骨折リスクを抑制すると考えられるが、検討から明らかになった相関は非線形であり、ビタミンDが唯一の関連因子とは言えない。実際、軍隊において同じ食事を摂取し同じ訓練を受けているにもかかわらず、ビタミンDの変動に有意差が生じており、その一部に遺伝的背景の関与か示唆されることから、ある者にとっては十分なビタミンD補給が、他の者にとっては十分でないことも生じると考察される。

以上の検討から著者らは、本研究の結論を「これらのデータは、ビタミンD低値がストレス骨折のリスク増加と関連するという既報の結論を支持するものだ。ただし、ベースラインのビタミンD値のみでリスクが規定されるわけではないことも示された。また、ストレス骨折のリスクが遺伝子多型にも依存することも明らかになったことから、ビタミンD補給を個別化して考慮し、一部の対象にはその量を上乗せする必要がある可能性がある」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Low serum 25-hydroxyvitamin D status in the pathogenesis of stress fractures in military personnel: An evidenced link to support injury risk management」。〔PLoS One. 2020 Mar 24;15(3):e0229638〕
原文はこちら(PLOS)

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