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運動性蛋白尿のメカニズムをマラソン・ウルトラマラソンから探る

2020年04月15日

腎機能障害がないにも関わらず運動後のみ蛋白尿がみられる「運動性蛋白尿」は、いまだ明確な機序がわかっていない。ランニングやサイクリング、水泳など比較的運動強度の強いスポーツでみられることが多く、尿蛋白排泄量はときに運動前の10~25倍に増加する。

運動性蛋白尿のメカニズムをマラソン・ウルトラマラソンから探る

現在想定されている運動性蛋白尿が生じるプロセスは、運動負荷により糸球体透過性が亢進すること、および腎尿細管での蛋白再吸収が低下することだが、何がそのプロセスに影響しているのか定かでない。また、運動の持続時間よりも運動強度との関連が強いと考えられている。ただし実際には、長時間の身体活動後にも蛋白尿の出現がみられる。

本論文の著者らは、長時間運動と運動性蛋白尿との関連を、マラソンとウルトラマラソンの参加者を対象に検討した。

マラソンは前後の2回、ウルトラマラソンではレース中も含め計4回、採血・採尿

マラソン、ウルトラマラソンともに経験豊かなアマチュアランナーを被験者として募集した。走行距離は、マラソンは42.195km、ウルトラマラソンは100km。

マラソンの被験者からは、レースの直前と直後に血液および尿を採取した。ウルトラマラソンの被験者からは、レースの直前と直後に血液および尿を採取したのに加え、25km走行するごとに尿を採取した。

被験者の背景は以下のとおり。

マラソンの被験者

24名の完走者が登録された。性別はすべて男性で、平均年齢は48.68±6.66歳。4名に高血圧の既往があったが、腎疾患や糖尿病、心血管疾患の既往者はいなかった。ただし出走前の尿検査で微量蛋白尿または血尿がみられた4名は除外され、20名のデータを検討対象とした。その20名の平均年齢は49.3±6.85歳、マラソン経験は9.35±5.32年、トレーニング走行距離は170.5±87.37km/月、マラソン大会出場経験は17.03±16.19回、ベストタイムは3時間24分±26分、BMI24.96±2.00、体脂肪率15.44±4.89%。

ウルトラマラソンの被験者

17名の完走者が登録された。性別はすべて男性で、平均年齢は40.18±4.57歳。疾患既往者はなく、出走前の検査でも有所見者はいなかった。ウルトラマラソン経験は6.31±7.57年、トレーニング走行距離は228.4±105.22km/月、マラソン大会出場経験は48.38±116.39回、マラソンのベストタイムは3時間23分±23分、BMI24.26±2.28、体脂肪率13.56±5.8%。

両方のレースで尿アルブミン/クレアチニン比が著明に増加

レース成績

マラソン被験者のレース記録は、最速の3時間11分から4時間29分に分布し、平均は3時間50分で、平均走行ペースは5分26秒/kmだった。

ウルトラマラソンのレース記録は、最速の9時間52分から13時間34分に分布し、平均は10時間47分で、平均走行ペースは6分28秒/kmだった。

尿アルブミン/クレアチニン比

蛋白尿の程度は、尿に排泄されるアルブミンをクレアチニンで補正した「尿中アルブミン/クレアチニン比(albumin/creatinine ratio;ACR)」で検討。

マラソン被験者のACRは出走前が6.41±5.53mg/gCrだったものが完走後には21.96±18.62mg/gCrと3.85倍に、ウルトラマラソン被験者は5.37±3.07mg/gCrから49.64±50.38mg/gCrへと9.54倍に、いずれも有意に上昇していた。

後半4分の1でACRが急激に上昇

ウルトラマラソン群で行われた25mごとの採尿検体を用いてレース中の変化を検討すると、25km地点では8.8mg/gCr、50km地点では11.1mg/gCr、75km地点では15.7mg/gCrとゆるやかに上昇したが、100km完走直後は前述のように49.6mg/gCrであり、最後の25kmでACRが急激に上昇していた。

なお、ランニングペースは、25~50kmは9.9km/時、50~75kmは8.8km/時、75~100kmは8.4km/時であり徐々に低下。ACRが急上昇した区間のランニングペースが最も遅かった。

乳酸値やケトン体、炎症マーカーはACRと相関しない

血糖値やインスリン、乳酸値、β-ヒドロキシ酪酸(ケトン体)、およびC反応性蛋白(CRP)やインターロイキン-6(IL-6)という炎症マーカーは、いずれもレース後に有意に上昇した。ただし、IL-6を除いてACRとの間に有意な相関はみられなかった。レース前とレース後のIL-6はACRと有意な負の相関がみられた。

運動の強度よりも継続時間が運動性蛋白尿に関与している可能性

著者らは本検討にあたり、運動中の代謝の変化や炎症が運動性蛋白尿と関連すると仮定していた。しかし検討の結果、炎症マーカーのIL-6を除いて代謝マーカーとの関連は認められず、IL-6との相関も強いものでなく(r=-0.59,p<0.05)、「解釈が困難」と述べている。

その一方で、ウルトラマラソン群の検討においてランニングのペースは徐々に低下したのに相反し、ACRは徐々に増加していたことから、運動性蛋白尿は運動の強度よりも継続時間との関連が強い可能性があると考察している。

結論としては、「運動性蛋白尿は単一の原因ではなく、代謝や炎症、および筋損傷など複数の要因によって引き起こされると考えられる」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Factors influencing post-exercise proteinuria after marathon and ultramarathon races」。〔Biol Sport. 2020 Mar;37(1):33-40〕
原文はこちら(Termedia)

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