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口腔衛生でパフォーマンスを改善する アスリートの歯科疾患の実態調査

2020年03月23日

エリートアスリートの歯科疾患の有病率と口腔衛生行動の実態を調査した結果が報告された。アスリートの多くが1日2回以上の歯磨きをしているが、虫歯や歯周病、歯の摩耗(erosive tooth wear;ETW)などの歯科疾患が一般人口と同等に存在することがわかった。

口腔衛生でパフォーマンスを改善する アスリートの歯科疾患の実態調査

アスリートと歯科疾患の関連

急性歯科感染症の発症はアスリートにとってトレーニング時間の損失につながるばかりでなく、トレーニングの質の低下につながることが報告されている。エリートレベルではその影響が重要な結果をもたらす可能性も否定できない。

また、スポーツ飲料やエネルギーバー、ジェルなどのスポーツ栄養製品による食事性炭水化物の摂取量の増加、もしくは不適切な摂取により虫歯のリスクが増大するという懸念もある。これらの製品は一般に口腔衛生的観点とは別の面のメリットを期待して摂取される。スポーツ飲料は口腔内環境を酸性に傾ける傾向があるため、歯の摩耗にも関与する可能性がある。さらに、運動に伴う唾液組成の変化やエネルギー消費に伴う免疫抑制により、口腔疾患のリスクがさらに増加することも考えられる。

このようなアスリートの歯科疾患リスクに対し、効果的な口腔衛生戦略によって口腔の健康不良によるパフォーマンスへの影響を最小限に抑えることが可能となる。本研究では、効果的な口腔衛生のための基礎的なデータ収集を目的とし、アスリートの口腔健康行動、歯科疾患のリスク、および口腔衛生のための行動変容の可能性が調査された。

英国のエリートアスリート352人を対象に調査

この調査は、英国のエリートアスリートトレーニングセンターで、2016年のリオデジャネイロオリンピックの出場または候補選手256人とプロアスリート96人、計352人を対象とする横断研究として実施された。年齢は中央値25歳(18~39歳)で、男性が67%。競技カテゴリーは持久力系が40.6%、筋力系が14.2%、混合系が45.2%。

歯科検診に加え、歯磨きの頻度、歯磨き以外の口腔衛生の実施状況、歯科受診状況などをアンケートにより把握した。

アスリートの歯科疾患の実態

歯周病は水泳を除きほぼ100%の有病率

虫歯は全体の49.1%、歯の摩耗が42.0%、歯周病(重症度を表すBPEスコア1~2)が77.3%、BPEスコア3~4の歯周病が21.6%にみられた。カテゴリー別にみると、持久系スポーツのアスリートで虫歯がやや少なく38.5%だった(筋力系は58.0%、混合系は56.0%)。

より細かく競技別にみると、虫歯が多い競技種目は、サッカー(61.5%)、ラグビー(61.1%)などで、ボート競技(33.3%)は少なかった。歯の摩耗は、体操(60.0%)、サッカー、ラグビー(ともに52.8%)などで多く、ボート競技、サイクリング(ともに26.7%)は少なかった。歯周病(BPE1~4の合計)は、ほぼすべての競技で100%か100%に近い有病率だったが、水泳のみ68.6%だった。

口腔衛生行動の実態

大半は1日に2回の歯磨きを実践

94.2%のアスリートが、少なくとも1日に2回歯を磨いていた。

口腔衛生法として、55.9%は電動歯ブラシを使用し、43.7%はデンタルフロスまたは歯間ブラシを、40.9%はフッ化物洗口剤を、35.1%はシュガーレスチューインガムを使用していた。

口腔衛生のリスク因子

28.2%のアスリートが、砂糖を多く(ケーキ、ビスケット、チョコレートなどを週に6回以上)摂取していることがわかった。なお、一般対象のアンケートにおけるこの割合は55%である。

スポーツ栄養製品については、85.7%が少なくとも時々はトレーニング中または競技中にスポーツ飲料を利用すると答えた。58.8%はエネルギーバーを、70.3%はエネルギージェルを利用していた。

歯科受診の頻度等

アスリートの39.5%は、過去6カ月以内に歯科を受診していた。76.2%は歯科専門家から口腔衛生に関するアドバイスを受けたことを覚えており、59.9%は食生活に関するアドバイスを覚えていた。

国民健康保険(national health service;NHS)歯科医への受診が41.0%、プライベート歯科医への受診が45.6%、歯科衛生士への受診が9.9%を占めていた。

口腔衛生に関する行動

大半のアスリートは、喫煙、およびスポーツ栄養製品も含め甘い食べ物や飲み物は、口腔の健康を損う可能性があることを認識していた。

口腔衛生のための行動については以下のように、食間のスナックを減らすことを除いて、ほとんどのアスリートは実行可能と肯定的に考えていた。

「寝る前に歯を磨く」に'はい'との回答が91.6%を占め、「歯磨きを吐き出すが水では洗わない」は70.1%、「フッ化物洗口液を歯磨きのタイミングとずらして用いる」は64.7%、「歯科医/歯科衛生士への定期的な受診」「シュガーレスチューインガムを利用する」はともに57.6%、「食間の甘い飲み物(スポーツドリンクを含む)を減らす」は53.2%、「毎日デンタルフロス/歯間ブラシを使う」は50.6%。これらに対して「食間のスナックを減らす」は'はい'が17.4%、'恐らく'が28.2%、'困難'が31.1%、'いいえ'が22.4%。

考察と結論:スクリーニングとコーチングでアスリートの口腔衛生を改善

スポーツにおける口腔健康の増進は、アスリートの一般的な健康のみならずパフォーマンスの向上につながる可能性を秘めている。しかしアスリートのサポートチームメンバーは、この領域の専門家ではないことが少なくない。コーチや栄養士、その他、アスリートと協力関係にあるメンバーは、アスリートの口腔衛生に関するトレーニングを受ける必要があるかもしれない。

虫歯と歯周病の回避に最も効果的な行動の1つは、フッ化物による口腔衛生を定期的に実施することだ。通常強度のフッ化物歯磨き剤(1,000~1,450ppm)を使用する場合、歯磨きとは異なる時間帯にフッ化物洗口液の使用が推奨される。虫歯のリスクが高いのであれば、より高強度のフッ化物(2,800ppm)の使用や、さらに高強度のフッ化物歯磨き剤(5,000ppm)の使用も検討される。

どのような行動変容テクニック(behavior change technique;BCT)が、アスリートの口腔衛生に関する行動を強化するのかについてのエビデンスは存在しない。しかし、現在の理解に基づけば健康行動のための主要なアプローチはCOM-Bモデル(capability〈能力〉、opportunity〈機会〉、motivation〈動機〉が、behaviour〈行動〉につながる)であり、この行動変容理論に基づく介入が成功する可能性が示唆される。そこに、スポーツ栄養士やスポーツ医学者、歯科専門家などが介入していく余地がある。

本研究の結論としては、エリートおよびプロのアスリートの歯科疾患有病率は一般人口と同様であり、定期的なスクリーニング、スポーツ飲料の過剰利用を控えるなどの行動変容を検討している。これらの発見は、アスリートの口腔の健康を維持・改善し、歯科疾患によるパフォーマンスへの影響を軽減するための介入戦略の設計に有用である。

文献情報

原題のタイトルは、「Oral health-related behaviours reported by elite and professional athletes」。〔Br Dent J. 2019 Aug;227(4):276-280〕

原文はこちら(Springer Nature)

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