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1型糖尿病のアスリート、「症例報告」の時代から次のステップへ

2020年01月23日

小児期から若年期に発症することが多い1型糖尿病では、インスリン分泌が枯渇し生存のためにインスリン療法が必須となる。低血糖のリスクは、インスリン分泌がいくらかは保たれている2型糖尿病より高く、そのような病態で運動することは低血糖リスクをより高めるために、1型糖尿病患者の運動は長い間、積極的に推奨されてこなかった。さらに1型糖尿病でありながらアスリートとして活躍するようなケースは稀であり、それが実現された場合、症例報告として発表されたり、マスコミで大きく取り上げられる時代が続いていた。しかしそのような時代は終わりを告げようとしている、というのが本レビューの趣旨である。

1型糖尿病のアスリート、「症例報告」の時代から次のステップへ

1型糖尿病における運動の意義

身体活動や運動は糖尿病関連合併症の予防と管理のためのセルフケアにおいて重要であることは論を俟たない。1型糖尿病においても同様であり、最近も自己申告による余暇時間における身体活動量と合併症の有病率が逆相関することなどが報告されている。しかしながら身体活動量を適切にコントロールしないと血糖値は急激に変動し、とくに低血糖リスクが高まる。この点が、1型糖尿病患者の60%が身体的に不活発であるとされる大きな理由である。また同じ1型糖尿病でも女性患者は男性患者に比べより身体活動量が少ないことが報告されている。

しかし、インスリン製剤や血糖測定システムに関する技術革新は、かつてに比し血糖管理を遥かに容易なものにしてきている。加えて過去50年にわたる知見の蓄積が強い味方となっている。

糖尿病と運動に関する初期の研究

インスリンが発見された当時の糖尿病治療の主要ターゲットは、現在のような2型糖尿病中心ではなくむしろ「より重度な糖尿病」と考えられていた1型糖尿病であった。そして、その「より重度な糖尿病」に対して、運動はほとんど効果がないと考えられていた。

その後、運動により血液中のグルコース量が減ること、運動を行う日はインスリンの投与量を減らし食物摂取を増やすべきであることが徐々に明らかになってきた。しかし運動時にどの程度インスリン投与量を減らせばよいのかは個人によって大きく異なること、インスリン投与量を変更せずに20分以上運動を継続する場合は炭水化物の補食がほぼ必ず要することなども、同時に明らかになってきた。

運動強度の重要性

運動に伴う低血糖を防ぐために補食として炭水化物をとる必要があることは、1型糖尿病患者に対し潜在的な体重・血糖管理上のメリットを減少させるかもしれないと考えられたことから補食以外の方法により低血糖を防ぐ手段が模索された。そうした中、直感的な理解に反するが、運動強度を上げると血糖値の低下を防ぐように作用することがあるとわかってきた。

1980~90年代には既に、嫌気性活動で発生する筋肉でのグルコース消費の増加レベルとは不釣り合いな肝グリコーゲンの分解亢進や、カテコールアミン誘発性高血糖が生じることが明らかになっていた。しかし高強度の運動を終了した後の低血糖リスクや、高強度のインターバル運動時にも低血糖に対して保護的作用を発揮するのか否かについては結論が出ていない。

現在の推奨

米国糖尿病協会と米国スポーツ医学会の双方により、1型糖尿病患者の運動に関するエビデンスに基づく推奨事項が公表されている。それによれば、1型糖尿病患者も一般人と同様に週に150分以上の中等度から高強度の運動が推奨される。また、週に2~3回はレジスタンストレーニングを行うこと、連日激しい運動を続けることは避けたほうが良い可能性があることなども記されているが、無作為化比較試験のデータはなく、エビデンスレベルは高くない。

2017年には「1型糖尿病の運動管理」というコンセンサスステートメントが発表された。1型糖尿病のアスリートや活動量の多い患者が活用できる内容だ。ただし年齢や性別による相違が考慮されていない点に注意を要し、推奨事項の適用に際しては個別に判断することが望まれる。

低血糖リスクを抑制する方法

低血糖リスクを高めるため、インスリンの筋肉への投与は避けるべきである。また、環境温度も重要で、寒冷ではインスリンの分布が遅くなり高血糖になりがちだが、温暖の場合はその反対のことが起きる。

有酸素運動中にレジスタンストレーニングや高強度の負荷を含めることも、血糖値の低下を抑制するかもしれない。また現在のガイドラインには記載されていないが、午前中の空腹時のレジスタンストレーニングや高強度運動は、午後の摂食後の運動とは対照的に、血糖値を上昇させる可能性がある。これは、食事に関連し投与するボーラスインスリンがないことによる循環血液中のインスリン量の減少と、脂質利用を亢進する成長ホルモンやコルチゾールレベルが高いことによるものと考えられる。よって一部の1型糖尿病患者には朝食前の運動が推奨されるケースがある。

技術革新

1980年代初頭に家庭用の血糖測定器(self monitoring of blood glucose;SMBG)が販売されたとき、1型糖尿病の治療に革命がもたらされた。その後の技術革新は目覚ましく、インスリン製剤の進歩と相まって、安全に運動を行うための土台がより堅固なものになってきた。SMBGの登場からわずか20年後には最初の連続血糖測定システム(continuous glucose monitoring;CGM)が市販されている。

CGMと超速効型インスリンは1型糖尿病アスリートの運動関連の安全性を各段に向上させた。運動中にCGMセンサーの感度が低下することが報告されていることは懸念材料ではあるものの、運動中の血糖モニターに関し概ね良好に機能しているように思われる。

将来の可能性

CGMにより把握した血糖変動からその後の血糖変動を予測し、低血糖や高血糖回避のためにインスリン投与速度を自動的にコントロールする、クローズドループインスリンポンプが臨床に利用されつつある。さらに、血糖上昇ホルモンであるグルカゴンも投与可能なデュアルホルモンシステムも治験が進んでいる。血糖予測アルゴリズムやセンサー精度のさらなる進歩も加わり、1型糖尿病患者に低血糖の恐怖が全く障壁とならないようになることが期待される。

一方、膵島移植も1型糖尿病治療のもう1つの選択肢である。移植レシピエントの運動に伴う低血糖リスクは、非糖尿病者と比較し大きくないことが報告されている。膵島移植後のウルトラマラソンアスリートにスポットを当てた症例報告も存在する。なお、ドナーの必要性や移植後の生涯にわたり免疫抑制剤の使用であることは、引き続きネックと言える。

運動はもはやリスクではない

運動に関する血糖管理は1型糖尿病患者にとって依然として課題であるものの、このハードルを克服するための情報、ツール、リソースの利用可能性は過去50年間で大幅に改善された。これらの進歩は、プロスポーツ、高レベルアマチュアスポーツでの活躍を目指す1型糖尿病エリートアスリートが増加したことにも示されている。また身体活動や運動は、もはや回避すべきリスクではなく、むしろ1型糖尿病の人々の健康に保持・増進に欠かせないものとなった。

文献情報

原題のタイトルは、「The Athlete with Type 1 Diabetes: Transition from Case Reports to General Therapy Recommendations」。〔Open Access J Sports Med. 2019 Dec 6;10:199-207〕

原文はこちら(Dove Press)

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