プロバイオティクスに関する国際スポーツ栄養学会(ISSN)の見解
プロバイオティクスに関する国際スポーツ栄養学会(ISSN)の見解が、同学会学会誌「J Int Soc Sports Nutr」に掲載された。プロバイオティクス研究の嚆矢は100年以上前の1908年に遡り、Elie Metchnikoffが体内の微生物叢を改変し有用性を高められる可能性を示したことに始まる。Elie Metchnikoffは後にノーベル生理学・医学賞を受賞している。
プロバイオティクスはとくに直近の10年で、その研究の急速な進歩がみられ、多くの医学領域でトピックスとして取り上げられることが多い。本論文は、これまでに発表されている研究報告の批判的レビューに基づき、アスリートの健康、パフォーマンス、および疲労からの回復を最適化するメカニズムおよびプロバイオティクスサプリメントの使用に関する、ISSNの現時点の考え方をまとめたもの。以下にその一部を抜粋する。
アスリートの腸内細菌叢に対する食事と運動の役割
これまでの複数の報告によると、アスリートを含め運動量の多い人は、健康促進的に作用することの多いバクテリア種の増加や細菌叢の多様性の広がりが観察され、微生物代謝経路や代謝産物の相違の存在も示唆されている。ただし、人間の腸内細菌叢の研究において、運動による影響と食事による影響を別々に調査することは困難。アスリートの細菌叢と非アスリートの細菌叢の比較により見いだされた相違の原因を、運動のみに求めることは推奨されない。アスリートは腸内微生物叢の組成に影響を与え得る、一般集団とは異なる食事を摂取していることが多い。
キーポイント
- 活動的な人は健康を促進する細菌種がより多く、細菌叢の多様性が増加しているとみられる。
- 食事は腸内微生物叢の組成のモジュレーターであり、食事内容を変更すると24時間以内に細菌叢の組成の変化が生じる。
- 蛋白質は細菌叢の多様性の強力なモジュレーターであると思われ、乳清蛋白はヒトでのさらなる研究を必要とするものの、潜在的なメリットが示されている。
- アスリートにおいて炭水化物と食物繊維の摂取は、プレボテーラ属の増加と関連しているとみられる。
- 腸内細菌叢に対する脂肪の効果の評価は困難だが、摂取する脂肪の種類は重要であると考えられる。
アスリートにおけるプロバイオティクスサプリメントのメリット
上気道感染症予防のための免疫系の調節は、アスリートのプロバイオティクスの潜在的な有用性として最も広く研究されてきた。プロバイオティクスがアスリートのトレーニング中の疲労回復時間を短縮し得るかはとくに興味深いテーマと言える。さらに、この点はアスリート以外の一般人の健康維持にも関連し、直接的なメリットにつながる可能性がある。
プロバイオティクスがパフォーマンスに及ぼす影響
プロバイオティクスサプリメントがパフォーマンスに与える影響の研究結果は一致していない。24件の研究のうち17件が無効と報告し、7件は有意な改善を報告している。より最近の研究は、プロバイオティクスの補給がアスリートや身体活動性の高い個人の運動パフォーマンスの改善を促進できる可能性を示しつつある。
キーポイント
- 現在までに1系統のプロバイオティクスサプリメントが1件の研究のみで有意な好気性パフォーマンスのメリットを報告している。
- プロバイオティクスのサプリメントは蛋白質と同時摂取した場合において筋肉抵抗運動後の回復を促進し、骨格筋のダメージによる痛みその他の指標を減弱する。
- プロバイオティクスの補給が体組成に及ぼす影響やエルゴジェニック効果についてはさらなる研究が必要。
免疫系に対するプロバイオティクスの効果
アスリートの免疫反応の調節に使用される栄養補助食品の中で、プロバイオティクスは注目に値する。免疫系に対するプロバイオティクスの効果を評価した22件の研究のうち、14件は有意な改善を報告し、8件では効果を認めなかった。
キーポイント
- アスリートは、高負荷の過剰トレーニングにより免疫能を低下させ、上気道感染症などの疾患リスクを高める可能性がある。
- 現時点のエビデンスは、とくに多くの研究が実施されている持久系アスリートにおいて、激しいトレーニング中のプロバイオティクスによる若干のメリットを示している。
- プロバイオティクスの臨床効果が上気道感染症および関連疾患の発症率を低下させることを示す、より多くのエビデンスがある。
- 免疫マーカーの変化は多様であり、明確な効果の確認にはさらなる研究が必要。
消化管の健康に対するプロバイオティクスサプリメントの効果
アスリートおよび身体活動性の高い個人を対象に、プロバイオティクスサプリメントの消化管機能へのメリットを評価した10件の研究は、その大半が効果を報告していない。しかしそれらの研究は、用いたプロバイオティクスの種類、投与量、期間、対象者などのデザインが大きく異なり、比較が困難である。さらに4件の研究では肯定的な結果が報告されており、総合的な評価は決定的なものではない。
キーポイント
- 消化器系のトラブルは持久系アスリートでしばしば発生し、パフォーマンスを低下させる可能性がある。
- アスリートおよび身体活動性の高い個人におけるプロバイオティクスの消化管機能へのメリットを評価した少数の研究は、方法論にかなりのばらつきがあり、比較を困難にしている。
- 報告されたポジティブな結果には、ゾヌリンとエンドトキシンの低下を報告したものや、腸管透過性、消化器症状発現期間の検討結果が含まれていた。
作用機序
プロバイオティクスの作用として、腸上皮バリア機能のサポート、免疫系の調整、腸管からの栄養素吸収の改善などの研究が進められている。
キーポイント
- アスリートにおけるプロバイオティクスの有益な効果の基盤にあるメカニズムはほとんど解明されていないが、多因子性である可能性が高い。
- 一部のプロバイオティクスは、腸管上皮タイトジャンクションの透過性を調節することにより、バリア機能を改善する可能性がある。ただしそのメカニズムは十分に研究されていない。
- 腸粘膜へのプロバイオティクスの付着は、免疫系の調節のメカニズムの一部である可能性がある。プロバイオティクスは、病原体の結合を妨げる腸ムチンを変化させる。
- プロバイオティクスは、免疫グロブリン、抗菌性蛋白質、貪食活性、ナチュラルキラー細胞活性をアップレギュレートすることにより自然免疫を強化する。
- プロバイオティクスは腸の透過性と腸内層の細胞の恒常性を調節し、炎症を抑制し絨毛の吸収領域の発達を促進することにより、ミネラル、ペプチド、アミノ酸などの栄養吸収を改善する。
安全性
プロバイオティクスの概念は新しいものではなく、プロバイオティクス特性を備えた細菌は乳製品やジュースなどの食品として、またはカプセルやドロップ、パウダーとして広く製品化され、100年以上にわたって安全に使用されてきている。
キーポイント
- 安全性評価では、プロバイオティクス微生物の性質、投与方法、曝露レベル、レシピエントの健康状態、および基礎となる生理学的機能を考慮する必要がある。
- 健康なアスリートおよび身体活動性の高い個人のためのプロバイオティクスサプリメントに関し、これまでの研究はそれらが安全に使用できることを示唆している。
- 深刻な健康状態の人には注意が求められ、摂取前に医療従事者と相談する必要がある。
- エビデンスに基づいた摂取量内での摂取を推奨する。
規制事項やガイドライン
現在、アスリートのプロバイオティクス使用に関する明確な推奨事項やガイドラインは存在しない。
キーポイント
- プロバイオティクスを含む市販製品を世界各国で規制するための枠組みについて、普遍的に合意されたものはない。
- プロバイオティクス製品は、プロバイオティクスの科学的に認められた測定単位であるCFU(colony forming unit)でラベル化したうえで、安全性および有用性を評価する必要がある。
- 男性と女性ではプロバイオティクスサプリメントに対する反応が異なる場合がある。この点について将来の研究が求められる。
今後の方向性
- プロバイオティクス療法は、とくに肥満者や高齢のアスリートに対して、内分泌系(テストステロン産生)にプラスの影響を与える可能性がある。
- 腸内細菌叢の変化は、運動パフォーマンスに関連する重要な神経伝達物質の産生レベルを変える可能性がある。
- プロバイオティクスの補給はストレスに影響を与える可能性があるが、現在の研究は限られている。
- 予備的な動物研究では、プロバイオティクスの補給が血中乳酸の除去と利用をサポートする可能性があることが示唆されている。
- 性別、サンプルサイズ、期間、用量(種類と量)、身体活動レベル、運動の種類などの影響因子の検討を含む、体系的な研究が必要とされている。
文献情報
原題のタイトルは、「International Society of Sports Nutrition Position Stand: Probiotics」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2019 Dec 21;16(1):62〕