マラソンが惹起する炎症と日々の食事摂取量との関係
長時間の運動は、インターロイキンやC反応性蛋白質(CRP)の増加などの炎症反応を惹起し、一過性の免疫抑制、筋肉や腎の損傷等に関与する。一方、栄養素はエネルギーを提供し、負荷からの回復を促し、免疫能の維持に必要とされる。しかし、生理学的なストレスを受けたアスリートの免疫能に関する食物摂取の質または量を評価するヒトin vivoでの研究は少ない。本論文は、各種栄養素の摂取量と長距離走によって誘発される炎症との関連を検討した報告。
対象は、2017年のサンパウロ(ブラジル)国際マラソンに参加した30〜55歳の男性アマチュア選手44名。マラソン大会の事前に電子メールで募集され、スクリーニングを経て、大会前日、競技直後、翌日、および3日後に採血を行った。食事摂取量は大会の前週から、摂取したすべての食べ物と飲み物、および食事時間を選手自身が記録し、栄養学部の学生が分析した。対象者の主な特性は、年齢41.5±1.1歳、BMI24.8±0.4、体脂肪率21.6±0.7%、レース記録267±7分、マラソン歴6±0.5年、10kmレース記録46±0.7分、練習頻度4.4±0.7回/週、練習量56±2.1km/週。
結果について、まずインターロイキンの反応をみると、競技直後にIL-6とIL-8が約40%、IL-1-βは約3.5倍、IL-10は約4.1倍、それぞれ有意に増加したが、翌日には競技前日のレベルに戻った。TNF-αやIL-12p70の変化は観察されなかった。
次に食事摂取量をみると、摂取エネルギー量やそれに占める炭水化物の比率は推奨量・比率より、それぞれ33%、52%低くかった。コレステロール、総脂肪、蛋白質摂取量は推奨量に近く、食物繊維の摂取量は推奨値を下回っていた。
栄養摂取状況と検査値との関連をみると、レース前の検査値については、IL-6とエネルギー摂取量、主要栄養素(炭水化物、蛋白質、脂肪)およびビタミンA、B2、カルシウム、リン、亜鉛、カリウムとの正の相関がみられた。競技直後の検査値については、IL-8とエネルギー摂取量、炭水化物、繊維、脂肪、鉄、カルシウム、カリウム、ナトリウムとの間に負の相関がみられ、これらの摂取量が少ないほどIL-8レベルが高かった。
一方、抗炎症作用についてみると、大会翌日の検査値で炭水化物摂取量と抗炎症性サイトカインであるIL-10との間に正の相関が認められた。さらに競技直後の検査値で炎症性サイトカインのTNF-αが、炭水化物および食物繊維の摂取量と負の相関が認められた。
エネルギー摂取量が十分なランナー(45kcal/kg除脂肪体重/日以上)は、エネルギー摂取量が少ないランナーに比較して、炎症性サイトカインであるTNF-αレベルが低く、IL-8やIL-6も低い傾向にあり、かつ抗炎症サイトカインであるIL-10はレース直後に上昇する傾向がみられた。
以上、一連の結果から著者らが導いた結論は以下のとおり。
アマチュアランナーにおいて十分で健康的な食事を基盤とする栄養戦略は、相対的なエネルギー不足、脱水、オーバートレーニング練、および免疫機能障害の抑制につながる可能性があり、免疫調節サプリメントを選択する以前に、適切な栄養戦略を練る必要がある。本研究において、長時間の運動が惹起する炎症反応に対し、アマチュアランナーの場合、エネルギー摂取量45kcal/kg除脂肪体重/日以上、炭水化物8~12g/kg、食物繊維25g以上、カルシウム1,000mg、および電解質(長時間の運動中に1.7〜2.9gの塩分)が重要であることが確認された。
文献情報
原題のタイトルは、「Association of Daily Dietary Intake and Inflammation Induced by Marathon Race」。〔Mediators Inflamm. 2019 Oct 7;2019:1537274〕